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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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相談

小さな物音に目が覚めたライラは辺りを見回した。

弱い明かりがあるだけの薄暗い部屋を見て、一瞬ここはどこだろうと思ってしまう。

自分が使っている寝室だと気が付いた時、いつの間にか眠ってしまっていたことに気が付いた。

ルークが部屋を出た後、アンナ達に手伝ってもらって動きやすいラフなドレスに着替えた。

ソファに座って一息ついていたはずだが、ルークの初めての聖獣祭という社交場に緊張していたのだろう。一気に疲れが体に伸し掛かってきたようで、いつの間にか眠ってしまっていた。

アンナ達は気を遣ってくれたのか、ライラを起こすことなく毛布を掛けて部屋を出て行ったようだ。彼女達の姿がない。

「起こしてしまいましたか?」

その代わり侍女長のシシィが部屋の扉の前に立っていた。

先ほどの物音は彼女が部屋に入ってきたときの音だったようだ。

「疲れてお休みだと聞いていたのですが、様子を見ておこうと思いまして」

頭がぼんやりとしていてシシィの言葉にただ頷くだけだった。

「パーティーは?」

「まだ続いています。もうすぐ終わるはずですから、当主様も後ほど顔を出しに来られるかと」

それほど長く眠っていたわけではないようだ。

毛布をどけて体を伸ばすと、シシィが近づいてきて薄暗かった明かりを強くしてくれた。

部屋の中が先ほどよりも明るくなりはっきり見えるようになる。魔法石を使用したランプは光の調節ができるのが便利だ。

「ライラ様、アンナ達には大丈夫だと言っていたようですが、今になってどこか体調の異変などありますか?時間が経ってから症状が出てくることもありますから」

シシィがここへ来たのは身体に異変がないかを確かめるためのようだ。

体を伸ばしてみたが、これといった以上は感じない。

「大丈夫よ。痛いところもないし」

立ち上がって大丈夫だとアピールしてみると、シシィはじっとこちらを見つめてくる。

そんなに真剣に確認しなくてもと思うが、もしかするとルークに何か言われてきたのかもしれない。

これ以上どう説明するべきか悩んでいると、シシィが近づいてきてそっと頬に触れてきた。

「顔色も良さそうですね」

怪我だけを気にしていたのではない。シシィはライラの様子からいつもと違うかどうかを判断していた。

「お茶を用意しますね」

まるで母親が子供を気遣ってくれているように思えた。再婚するまではシシィのように優しく接してくれていた母親だが、再婚後は金遣いの荒さが目立つとともに、ライラへの関心がなくなっていたように思う。

母親のおまけのように生きていたところがあったが、使用人たちが心配してライラに心を砕いてくれていたおかげで、ライラは健やかに成長することができたのだと感じる。

「シシィ、ルークが来るまで話し相手になってくれない?」

お茶の準備をし始めたシシィにお願いすると、彼女は心得たように2人分のカップを用意した。

少し眠って落ち着いたせいなのか、聖獣祭を無事に迎えられたからなのか、ゆっくりと誰かと話がしたいと思えた。

目の前にお茶が用意されると、シシィは隣に腰を降ろした。

お茶を一口飲んでから、ライラは落ち着いた声で話し始めた。

「私ね、ルークにプロポーズされているの」

「当主様よりお話は伺っておりました。返事はまだもらっていないとも」

「知っていたのね」

静かな声で返事がくるが、ライラも驚くことはなかった。ライラから他の使用人にプロポーズの話はしていない。それでも、シシィとイクルスだけは知っているような気がしていた。態度に現れていたわけではない。なんとなく2人はライラとルークの関係を理解しているように思っていた。

「返事の答えが出たのですか?」

こんな話をし出したのだからそう思うのも当たり前だろう。だがライラはまだ迷いがあった。

「ルークのことは家族という枠で認識していたから、急に男性として見てほしいと言われた時は正直戸惑ったわ。でも、一緒に居られる時間が少ない中で、彼なりに接してくれているのがわかって、私もちゃんと向き合わないといけないと思ったわ」

男性としてのルークにドキドキすることは確かにあった。だが、それが恋愛感情なのかと自分に問いかけると、まだわからないという気持ちがある。

だが、今夜のパーティーで襲われたライラを助けたルークが甘えるように寄り掛かってきて、少し認識が変わったように感じた。それと同時に彼の隣に別の女性が寄り添うことを想像すると胸の奥が揺らぐのもわかった。

そのことをシシィに打ち明けると、彼女は穏やかな表情で頷いた。

「私たち使用人からは、お2人が寄り添っていることを姉弟という認識で見ている者はほとんどいないと思います」

「そうなの?」

「私から見れば、当主様がライラ様に気を遣っていて、とても大切に扱っていることはわかりますから」

周囲からは愛おしくライラを扱っているルークという構図が完成していたようだ。シシィの話を聞くまでまったく気が付かなかった。

「ライラ様の気持ちが当主様に向けば後のことはすべて丸く収まるだろうともイクルスと話していたくらいです」

侍女長と執事長はライラたちの関係を影ながら応援していたのだ。

「お気持ちが決まったのなら、当主様に打ち明けるだけですね」

「そう、なんだろうけど」

自分の気持ちを伝える。そうしなければいけないことはわかっている。だが、このままルークの気持ちに応えていいのかという迷いはまだあるのだ。

「ルークと同じだけの気持ちを持てているのかと聞かれると、そうだと言える自信がないの」

彼への気持ちが芽生えているのは理解できている。小さな嫉妬も生まれる自分にも気が付けている。だが、ルークが向けてくれる気持ちと同じだけの大きさがあるかと問われると、まだまだ小さいように思えた。だからこそ、ここで気持ちを打ち明けていいのか迷ってしまう。

「私としては、今のライラ様の気持ちが大切なのだと思います」

隣と向けば、シシィは笑顔を見せていた。

「きっと当主様も嬉しく思うでしょうね。ただ、もう少し焦らすというのも手ではありますが」

笑顔が悪戯を思いついたような顔になる。

ライラとしてはルークをいじめるようなことは考えていない。ただ、迷いがある中で答えを出していいのか不安なのだ。

「今のライラ様の気持ちを伝えることは悪いことではありませんよ。そうすることで当主様の今後の行動も変わってくるかもしれません」

「距離が離れるってこと?」

中途半端な気持ちにルークが諦めると考えたが、シシィは逆のことを思ったようだ。

「むしろどんどんライラ様にアピールして、その気持ちを大きくしてもらおうと思うでしょう。聖獣祭が終われば次の行事まで間があります。アプローチする時間は十分ありますから」

両手を握りしめて熱弁されてしまった。

いつになくウキウキしているように見えるのは気のせいだろうか。

どう返事をしたらいいのか困っていると、シシィは嬉しそうに笑った。

「ライラ様が自分のお気持ちを話してくれたこと、嬉しく思っていますよ。城を出て行った時、私は側にいられませんでしたが、ライラ様も誰にも相談できずに姿を消されてしまいましたから」

自分の気持ちを誰かに相談するという行為をしてくれたことがシシィには嬉しかった。いつも1人で抱え込んで解決しようとしてしまうライラをずっと心配していたのだ。

借金の存在を知った時も最初は自分にできることを考えた。だが、1人ではどうすることもできなくてシシィやイクルスに相談することになった。すぐに誰かに頼るということをライラはしてこなかった。

「あの時はごめんなさい」

「もういいのですよ。ここにライラ様がいるのですから」

そっと手を伸ばされると髪に触れてきた。

「代償は大きかったですが」

短くなった髪がシシィの指先を流れていく。着替えた時にウィッグは取っていた。今はライラの本来の髪の長さになっている。

「前にも言ったけど、髪はまた伸びるからいいのよ」

元の長さに戻るには時間がかかる。今日のように社交の場に出席する際はウィッグが必要になるだろう。

手間はかかるが、ライラは短くなった髪を嘆いたり悲しんだりすることはない。

髪は自らの手で切ったのだ。その時はそうするべきだと判断した覚悟を否定したくない。

「話が逸れてしまいましたね。ライラ様の今のお気持ちを当主様に伝えることに私は賛成します。そうすることでまたお互いに気が付けなかった気持ちが見えてくるかもしれません」

ライラの中途半端だと思える気持ちがもっとはっきりするかもしれない。そんな期待をシシィは抱いていた。

「大丈夫ですよ。たとえ当主様がライラ様を突き放すようなことになったとしても、私たち使用人は全面的にライラ様の味方です」

「それはそれで心配になるけど」

クリスタラーゼの当主はルークだ。彼の采配で使用人など簡単に切り捨てられる。ライラの味方となれば職を失う者が続出するのではないだろうか。それだけは避けたい。

「私や執事長がいなくなったら困るのはきっと当主様の方ですよ。それに騎士団長だって、ライラ様の味方です。当主様が城にいる全員を敵に回すようなことはしないでしょう」

勝ち誇ったように言うシシィは長年クリスタラーゼで仕事をしてきた経験から発言しているようだった。

王都の学園にずっといて城にいたのは数日のルークでは、シシィ達がいなくなって困る立場になるとわかっている。

なんだか主従関係が逆転しているように思えてくる。

「そうね。自分の気持ちを伝えることは悪いことじゃない」

また話が逸れていることに気が付いたライラは苦笑してから、相談事の結論を出した。

笑顔で頷くシシィに、こちらも笑顔を見せるとそれを合図にしたように扉をノックする音が聞こえた。


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