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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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犯人

会場に戻る前にクリフからの報告が届いた。

男たちは今日の招待客の子息であることがわかった。酒を飲みほろ酔い気分でいたようだが、そこへ令嬢が話しかけてきたという。誘われたと思い込んだ2人だったが、令嬢はもっといい相手を教えると言ってきたそうだ。

「ちょうど庭へ行くライラ様の姿を見つけて、声をかけるように言ったそうです」

他の人に話を聞かれないために、近くの空いている部屋で話をすることになった。黙っているとクリフが続きを話していく。

1人で庭に出て行ったライラが狙われた。

「酔っていたこともあり、言われるがままに行動してしまったようです」

あれは偶然ではなく指示されて必然的に起こったことだった。

「酔っていた男たちは誘われているのだと勘違いしたようで、ライラ様が拒絶するのも演技だと思って余計にしつこくしてしまったと言っていました」

酒が入ったことで気持ちが大きくなった男たちは、ライラの態度など気にすることなく自分達の欲求を優先していた。あれほど青ざめていた彼女を見ていなかったのだろう。

思い出すだけで怒りが湧き上がってくるが、今はそれよりも気になることを聞いた。

「その指示を出した令嬢と言うのは?」

「名前は知らないそうです。声をかけられて言われたとおりに動いただけのようです。ただ、特徴は覚えていたのですぐに割り出せるはずです」

「帰った客はいないな?」

「はい」

パーティーはまだ続いている。令嬢も会場にいるはずだ。逃げていたとしても帰った客の把握はイクルスがしている。特徴に合致した令嬢はすぐに見つけられるはずだ。

他の使用人達はライラが襲われたことをまだ知らされていない。彼女の味方をしている使用人や騎士たちがこのことを知ったら、犯人を冷静に捕らえることができなくなりそうだ。今は少人数で動いた方がいい。

「令嬢を見つけたら連れてきてくれ。俺は会場に戻る。いつまでも主役が抜けているわけにはいかない」

庭に出て少し休憩するつもりだったが、いつまでも姿を見せない聖獣公爵に客たちは違和感を覚えるだろう。何事もなかったように会場へ戻るのが今は一番だ。

クリフに令嬢探しを任せてルークは部屋を出ると、表情を崩すことなく会場へと戻っていった。

ダンスは曲を変えて続いていて、中央で楽しそうに踊る男女の姿が見えた。色とりどりのドレスが閃くのは圧巻だ。

この中にライラに敵意を向けた人間がいる。

そう思うと楽しい空間ではなくなった。

「聖獣公爵」

近くにいた伯爵位の男性が声をかけてきた。近隣の領地を治めているため、今後の領地交流についての話をしてくる真面目な人だった。その隣にはルークよりも少し年上に見える子息もいた。

「息子に爵位を渡すのはまだ先になるでしょうが、年の近い息子とも今後交流していただければありがたい」

領主としての交流は伯爵がするようだが、いつかは息子の代に変わっていく。それも踏まえて息子との交流もさせたい考えのようだ。

「この領地は四季があるとはいえ、比較的安定した気候に恵まれていて作物も豊富に取れます。定期的な食料の流通ができることはこちらとしても助かっています」

安定的に食料が届けられると価格の変動もあまりないが、領民たちに安定的に食べ物が届けられる。それは安心につながって、領民の心も安定させられる。クリスタラーゼの領民も食料で困ったことは一度もない。すべては聖獣の恩恵であり、それに感謝することで豊かな土地は成り立っている。

そんな話を交わしていると、視界に華やかな色が入り込んだ。

視線を向ければこちらに視線をちらちらと向けている令嬢が3人いた。誰もがこそこそと何かを話してはルークへと視線を向けてくる。声をかけようとしているようだが、恥ずかしそうな態度だ。だがどこか違和感はあった。わざとルークの視界に入って令嬢から声をかけるふりをして、ルークに声をかけてもらおうとしているように思えたのだ。

無視することもできるが、ライラの件もある。令嬢探しが終わるまでは邪険にしない方がいいかもしれない。

「なにか?」

とりあえず声をかけてみた。

「あ、あの。よろしければ一曲踊っていただけませんか?」

中央にいた令嬢が少し声を高くして言ってくる。

女性からダンスの誘いは可能だが、基本的には男性から声をかけるものだ。よっぽど気心の知れた相手ならまだしも、ルークは令嬢がどこの貴族の子女なのかさえわかっていなかった。

勇気を出して誘ってきたのだろうが、当然踊るつもりはなかった。

不意に令嬢の後ろを給仕用の盆を持ったシシィが通り過ぎた。給仕担当は貴族の客を相手にするため、貴族出身で経験をある程度積んでいる使用人が抜擢されていた。その中で侍女長は指示役になるため給仕をすることはない。

シシィの視線が合うと、彼女は今声をかけてきた令嬢をじっと見つめた。そして再びルークに視線を向けると静かに頷いた。

それだけで彼女が言いたいことがわかった。

何事もなかったようにシシィが姿を消す。さすが侍女長。ライラのことはすでに耳に入っていたのだろう。そして犯人探しに協力もしてくれていたようだ。

「ダンスよりも少し話をしたいのだが、どうでしょう」

手を差し出してそう誘えば、令嬢は驚いた顔をした後頬を朱に染めた。

「は、はい」

手を取って意気揚々とする令嬢はこの時ルークの視線がとてつもなく冷めていたことに気が付くことはなかった。

手を取ったまま歩き出したルークは、そのまま会場を一度出て、空いている部屋へと令嬢を誘った。

その後、クリフとシシィが部屋へと合流して、尋問という時間が来ることをその令嬢は知る由もなかった。


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