勝負の時間
「準備できました」
「よくお似合いです」
侍女2人が整えてくれた姿を鏡で見つめていると、最後にシシィがチェックをして頷いた。
「これなら問題ないでしょう」
白と青のドレスだが、胸元が白く、スカートに裾に向かって青色がだんだん濃くなっていくグラデ―ジョンとなっている。全体的に白いドレスのようにも見える。
所々に青いリボンがあしらわれ、スカートの裾には金糸で刺繍が施されている。さり気なくカスミソウの刺繍も入れられていて、聖獣を思わせるドレスになっていた。
聖獣祭にふさわしい物が仕上がっていた。
夜のパーティーでは肌の露出が比較的多い物が選ばれやすいのだが、ルークはそれを嫌ったのか、胸元が開いていてもレースで肌を隠すようにしてある。そのことに少し安心している自分もいた。
ドレスが落ち着きのある雰囲気のため、アクセサリーは大振りの宝石があしらわれたネックレスとイヤリングが用意された。
それと長い髪にビーズや花を編み込んでさらに華やかさを出していた。
鏡で見ている自分の姿に、ライラは不思議な感覚があった。
髪が長いのだ。
バッサリと切られたはずの肩に届かない金髪が、今は編まれているとはいえ、背中を隠すほどの長さがあった。
「短い髪に見慣れていたから、違和感があるわね。それに重くも感じる」
「すぐに慣れるでしょう。今日だけはお客様の目がありますから、ウィッグは取らずに過ごさないといけません」
ライラは今同じ髪色のウィッグを付けている。使用人たちがお金を集めて用意してくれたものだった。
ドレスに着替えた後に突然出してきた金髪に驚いたが、シシィとイクルスが相談して買ってきたという。
社交界で未婚の女性が髪を短くするのはそれなりの理由がある。傷物になったか、一生結婚しないことを宣言している女性など、あまり前向きにとらえてもらえることはない。
使用人達はライラの髪の短さを最初は気にしていたが、いつの間にか当たり前のように接してくれるようになった。そのためライラも気にしていなかったのだが、外の目から見ればやはり非難の対象になりかねない。
せっかくの聖獣祭で、ルークが聖獣公爵として社交場に立つのだ。足元をすくわれるようなことがライラをきっかけにあってはいけないだろう。
長い髪に懐かしさも感じつつ、編み込まれた花の中にカスミソウが含まれていることに気が付く。ルークの花として聖獣が認めたものだ。
これがあるとクリスタラーゼの一員なのだと実感できる気がする。
鏡を見ながら全体像を確認していると、扉をノックする音が聞こえた。
「準備はできたか?」
ルークの声に彼が迎えに来たのだ。
アンナが扉を開けると、儀式の時とは違うこちらも白と青を基調にしたライラとお揃いに見える装いでルークが入ってきた。
宝石類がなくても、金糸をふんだんに使っているようで煌びやかに見える。
ライラを見たルークが一瞬固まった。
それを見たシシィがおかしそうに笑う。
「ウィッグを用意しておきました。これでライラ様を非難する声はないでしょう」
「そうだな。髪が短いのが当たり前になっていて考えていなかった。用意してくれて助かる」
ライラの髪が長くなっていることに驚いていたようだ。
懐かしむようにルークが目を細めてこちらを見る。そんな視線を受けると、なんだか気恥ずかしくなってしまった。
「会場に行きましょう。みなさん待っているでしょうから」
この場から動きたくて部屋からすぐに出るように促すと、ルークがくすりと笑ったような気がした。
「そうだな。我々が行かないとパーティーが始まらない」
手を出されたので導かれるように手を重ねると、そっと持ち上げられて手の甲にキスが落とされた。
「ルーク」
予想外の行動に慌てるライラだが、ルークは平然とした態度で腕を差し出してきた。
「ほんの挨拶だ」
こういう挨拶があることは知っているが、経験がないライラはドキドキするしかない。
完全に振り回されている自覚がある。
悔しい気もするが、憎むこともできない。ルークが積極的に関わってくるのはライラに男として意識してもらうためだとわかってもいるからだ。
そう思うと恥ずかしさが込み上げてくる。
まだはっきりとした答えが出ていないのも事実だ。ライラの中にあるルークはまだ家族の域を超えられていないのだろう。だからといって、異性として意識していないわけではない。あとはルークに恋心が芽生えるかどうかなのだろう。
腕に触れればルークに促されるように部屋を出た。
「今夜は親族以外にも近隣の貴族も招待されている。俺が聖獣公爵となって初めての社交場だ。値踏みされるのは当たり前だが、いろいろと不快な言葉も飛ぶかもしれない」
「すべてルークを試すためでしょう」
新しい当主がどういう人物なのか、みな気になっていることだろう。ずっと学園で生活していたルークはクリスタラーゼの後継者として紹介されることなくいきなり当主となった。誰もがルークに注目し、彼を知ろうとするだろう。否定的な声を出した時の反応なども調べられると予想している。
「私も覚悟が必要でしょうね」
今夜はライラも初めて最後までパーティーに出席するつもりでいた。いつもなら最初に顔を出してすぐに引っ込んでしまう。母が選んだ似合わない派手なドレスでずっといることは苦痛でしかなかった。それに、クリスタラーゼの血筋ではない母親の連れ子という立場がどうしても頭にあったので、ここに居るのは場違いだと思っていた。
まだ成人していなかったこともあり挨拶だけで姿を消しても問題なかったが、もう成人を迎えた。今夜はクリスタラーゼの一員としても逃げることは許されないだろう。
無意識に手に力がこもってルークの腕を強く掴んでしまう。それに気が付いたルークは様子を伺いながら声をかけてきた。
「ライラ」
顔を上げれば優しい視線とぶつかる。
「大丈夫だ。みんな君の味方だから、そのことを忘れるな」
「・・・そうね」
ルークがいてくれる。それに使用人たちも気を利かせて動いてくれるだろう。
ライラは1人ではないのだ。そのことを忘れてはいけない。
「ありがとう」
寄り掛かるようにしながら礼を言えば、ルークの空いた手が壊れ物を扱うように頭を撫でてくれた。
きっとウィッグや装飾品を気にして触るのを躊躇ったのだろう。そこに彼の優しさを感じて嬉しくなる。
そんなやり取りをしているうちに会場の扉の前へとたどり着いてしまった。
「さぁ、勝負の時間だ」
ルーク声に力がこもる。外からはわからないがきっと彼も緊張しているのだろう。
「そうね。ここを乗り切らないと」
2人の視線が交わる。緊張しながらもお互いの存在に安心するように微笑んでから、一緒に戦いの場へと進んでいくのだった。




