表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
6/76

隠し事

「明らかに何かを隠しています」

部屋を出るなり後ろを歩く護衛騎士のアスルが口を開いた。

部屋の中では黙っていたが、ライラの姿が見えなくなると思っていたことを言葉にしてくる。

「もっと追及するべきです。当主様の死に関わっているのなら、糾弾するチャンスです」

放っておいたら戻っていってライラを責めそうな勢いだ。

「あの姿を見て追及できると本気で思っているのか」

「それは・・・」

部屋に入った時のライラは憔悴しきっていた。

高熱と闘いやっと意識が戻ったのだ。体力が削られているうえに、両親が死んだ事実に精神的にも追い打ちをかけられている。そんな彼女に火事に関わっているのかとあの場で追及できるほどルークは自分が薄情だと思っていない。

当主として切り捨てなければいけない決断はあるだろう。だが、今のライラは切り捨てるべき存在ではない。

最後に会ったのは新年の学園が長期休暇に入った時だ。寮から締め出されて領地に戻って来た時に会った彼女は明るい笑顔でルークを迎え入れてくれた。

義母から嫌悪されているためあまり領地に戻りたいと思わないが、会うたびに美しくなっていくライラとの再会はルークにとっていつの間にか心の支えになっていた。

そんな彼女がやせ細り、気力を失ったようにベッドにいた姿は予想よりもルークの心に衝撃を伴って響いた。

太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた髪も艶がなかった。

「もう少し様子を見てからがいいだろう。こちらも忙しくなるからな」

当主となり動きを止めていた仕事が一気にルークの前に山積みにされたのだ。

それを片付けながら、借金の件も対応しなくてはいけない。

調度品を売れば首の皮一枚のような状況からは抜け出せるだろう。だが残った借金を放置しておくわけにはいかない。返せなければ強制的に金になる物を奪われることになる。その中には爵位も含まれる可能性がある。

「やるべきことは沢山ある」

ライラのことは気がかりではあるが、彼女の回復を待つしかないだろう。

「余計な口出しでした」

アスルが素直に謝ってくる。

そのまま無言で執務室に戻ると、部屋の前にイクルスが立っていた。手に持っている紙束は調べるように指示していた調度品の資料だろう。

ルークに気がついて一礼してくる。

「知り合いの業者に頼んで調度品の査定をしてもらいました。それなりの金額にはなったと思います」

部屋に入って椅子に腰かけるとイクルスが査定内容を渡してきた。

「ドレスや宝石類の査定も頼めばすぐに対応してくれるようです」

「そちらは少し後になるだろう。ライラの体調が回復したら話をしてみる」

借金を返すために母親の遺品を売ってほしいと頼んだら、彼女はどんな反応をするだろう。

借金があることに衝撃を受けるかもしれない。知っていたとしても、遺品を換金してほしいと言われて快く頷いてくれるとも限らない。

今はできるだけストレスを与えたくない。

「必要な物を選別して、残りはすべて売ってくれ。安物はそのまま残してこちらで処分する」

公爵家の売り払った物に安物が混ざっていたと噂にでもなれば、貴族としての品位を落とすことになるだろう。高価な品を売り払って公爵家の財政を不安視する者もいるだろうが、安物を売るよりずっとましだ。

「かしこまりました」

「それから父の遺品をリストにまとめておいてくれ。俺が引き継ぐもの以外は換金できるものはしてしまいたい」

散財していたのは主にライラの母であるが、それを容認していたルークの父にも責任はある。

ライラにドレスやアクセサリーを売れという前に自分も出せる物を出す必要があるだろう。

「すぐに取り掛かります」

一礼してイクルスが出て行く。

「アスル。騎士団長のところへ行って火事の調査の進展を聞いてきてくれ」

火事現場の調査は騎士団に任せている。何か新しい発見があるかもしれない。

アスルも出て行くと、部屋にはルーク1人が取り残された。

目の前の書類を手に取ってみたものの読む気にはなれず再び机に戻してしまう。

天井を仰ぎ見てため息が出る。

「父上、なぜ・・・」

ルークが卒業すればこちらに戻ってくる予定になっていた。嫌悪している義母がいてもルークは次期当主だ。クリスタラーゼでの当主としての勉強が待っているはずだった。

聖獣とのかかわりは当主が行い、ルークは戻ってきてからいろいろと教わる予定だった。だが父はもういない。聖獣と関わる儀式など何も教わっていないのだ。

夏が終わりを迎えようとしている。

もうすぐ年に1度の聖獣祭も待っている。やるべき儀式があるのだ。

借金や火事のこと、領地経営に聖獣の儀式。

これから教わるはずだったことが一気に肩に伸し掛かってきてしまった。

ルークに姉弟はいない。いるのは血の繋がらないライラだけ。

頭を抱えたくなることだらけだが、弱音を吐いている暇もない。

「乗り切るしかない」

自分に言い聞かせるように言うと、一度瞼を閉じて再び開けた時には冷静沈着なルーク=クリスタラーゼに戻っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ