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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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伯爵の訪問

「クロウディス伯爵様がお嬢様への面会にきました」

シシィのその言葉に少し驚きながらもライラは嬉しさが込み上げてきた。

1人だけの昼食を済ませて図書室へと戻ろうと思っていた時の報告だ。ルークは仕事で一緒に食べることができなかった。

クリスタラーゼの血筋ではないライラに対して親族たちはあまり歓迎している雰囲気がなかった。おまけのように城に住んでいる子供という認識が強かったように思っている。邪険にされたことはないが、どこか冷めた接し方をされているような雰囲気を幼い頃に感じていたのだ。

クロウディス家はクリスタラーゼとだいぶ遠い親族ではあるが、すでに親族としての枠組みからは外れる立場になっていた。とはいえ、領地が近いということで年に何度か訪ねてくることがあった。

会議などに参加する権利がないことで、現伯爵は城の中の散策などをして時間を潰すことも多々あったのだ。そんな中、現伯爵のロビンは3年前からライラと交流を持つようになって、城を訪ねるたびに話をするような間柄となっていた。

手紙が来たので返事を出しておいたが、まさか突然訪問してくるとは思わなかった。

「事前予約では会えないと思ったのかもしれませんね」

貴族同士の訪問は事前の約束が当たり前だ。突然の訪問は緊急かマナー知らずの人間がするものだ。

伯爵が約束なしを当たり前に行う人ではないことは知っている。シシィが見た限りでは緊急という雰囲気もなかったようだ。それでも突然の訪問をするべきだと考えたのだろう。何か理由があるはずなので、追い返すような真似はしたくなかった。

「どうしたのかしら」

「それは本人に聞いてみないとわかりません。お会いになりますか?」

突然の訪問を門前払いすることなくシシィはライラにどうするべきかを聞きに来た。

「せっかく来たのだから会うわ。今日も図書室にいる予定だったし」

聖獣祭に向けて準備は進んでいる。孤児院へのハンカチも渡したので、ライラの仕事は今後の聖獣の儀式に関する資料集めだ。

連日資料となる本と向かい合うばかりで、人と話す機会がめっきり減ってしまった。伯爵の訪問はちょっとした息抜きになるだろう。

シシィもわかっているようで口元に笑みを作っていた。

「応接室に案内しておきました」

先を見越して動いてくれていた。

身だしなみのチェックをしてからすぐに応接室へと向かう。

部屋に入ると懐かしい顔にライラは自然とほっとする気持ちがあった。

「お久しぶりです伯爵」

声をかけると赤髪のロビン=クロウディスは立ち上がって一礼してきた。

顔を上げた彼は赤茶色の瞳を大きく見開いて開きかけた口から言葉が漏れることがなかった。

どうしたのだろうと首を傾げると、すぐ後ろについてきていたシシィがそっと声をかけてくれる。

「お嬢様の髪の長さを気にしているようです」

バッサリと切って短くなってしまった髪は、ライラにとってはもう慣れてしまったものだ。だが、久しぶりに会った伯爵にとっては衝撃的な状況だったようだ。結婚もしていない公爵令嬢の髪が切られているのだ。何があったのか気になって仕方がないだろうが、踏み込んでいいのか躊躇われる状況でもあっただろう。

ライラはわざと微笑んでソファへと腰を降ろした。

「お元気そうでなによりです」

明るい声で言えば、伯爵ははっとしたように一礼してから口を開いた。

「葬儀の時に怪我をしたと聞きまして心配していたのですが、すっかり良くなったようでよかったです」

普通に歩いてソファに座ったのを見て怪我が癒えたことを察したようだ。

「本当にお久しぶりですね」

前に会ったのはいつだったか。義父を訪ねてきたのは何か月も前だったはずだ。

「本来は当主様への挨拶が先なのですが、どうしてもライラ様に早くお会いして様子をこの目で確認したかったのです」

当主が代替わりして葬儀以降まだルークとは顔を合わせていなかった。城への訪問となれば最初に当主と顔を合わせるのが普通だ。それを飛ばしてまでライラに会おうとしたのは、よっぽど心配されていたと思っていいのだろう。

「突然の訪問に驚きました」

「当主様を通してしまうと、会えるのかどうかわからなかったので」

葬儀の時は怪我をして参列できないと説明を受けただけで、ライラのお見舞いは叶わなかった。今回も会えないかもしれないという予想で突然の訪問を試みたという。あとできっとルークに怒られる覚悟はしてきているようだ。

「心配をかけてしまいましたね。もう大丈夫ですよ。怪我もすっかり良くなったので、今は聖獣祭に向けての準備で大忙しです」

明るく話せばほっとしたように伯爵も微笑む。

「怪我の心配もしていましたが、やはり今後のことでいろいろと揉めているのではと思っていました。その様子だと当主様とは問題なく過ごしているようですね」

ロビンはクリスタラーゼに多額の借金があることを知っている。親族としての枠からは外れてしまっているが領地が近いことで顔を合わせる機会が多い彼にも前当主は借金の話をしていた。彼自身は金を貸すことをしなかったらしいが、ライラと交流を持つようになって借金がどんどん膨らんでいる内情も知っていた。

彼と話すようになったきっかけが借金だったのだから皮肉なものだ。

「ルークには借金のことは話してあります。私が怪我をして臥せっている間に執事長から聞いたみたいで、まともに話ができるようになった時には、返済の話をしましたから」

まだ体力も回復していない状態で、ルークは母親のドレスやアクセサリーを換金してほしいと言ってきた。もちろんそのつもりでいたライラはすぐに同意した。

「私はルークと血の繋がりがないし、クリスタラーゼの人間ではないと言われてしまえばその通りです。でも、彼はこれまで通りにここに居ていいと言ってくれています」

一度城を出たことは秘密だ。余計な心配をさせてしまうだろうし、そんな事実があったことを知ったらここを出てクロウディス伯爵領へ来ないかと言われそうだ。

交流を持つようになってから伯爵はライラのことを気にかけてくれるようになった。困ったことがあれば相談してほしいと言われたし、どうしてもここに居られなくなった場合は伯爵家を訪ねてくるようにと勧められていた。

公女としてここに居ていいと言われ、プロポーズまで受けている今のライラは出て行く理由がなくなった。だからこそ何も言わないことにしている。

詳しいことは言わなかったが伯爵は何かを察してくれたのか追及することなく、そうですかの一言で終わらせてくれた。

「今年の聖獣祭は前当主が亡くなっていますが、新しい当主に変わったということでいつも通りの規模でやるつもりです」

ライラの話で少しだけ雰囲気が沈んでしまったが、すぐに話題を変えた。

「親族には通達されているはずですが、ルークは聖獣に認められた当主となりました。本格的に当主として動けるようになったので聖獣祭も変わらず執り行われます」

親族会議でルークが当主として決められていたが、それはあくまでも人間の都合。聖獣にはまだ認められていなかった。当主としての儀式を済ませ、当主の花が決まったことで聖獣にも認められたクリスタラーゼを治められる当主となった。

伯爵は会議に参加できる立場ではなかったのでそのことを知らないはずだ。ライラが話すと少し驚いたような表情をした後に口元をほころばせた。

「それは良かったです。後ほどお祝いも伝えておきましょう」

「きっと喜びます」

親族からのお祝いの手紙は届き始めているが直接言われてないので、きっとルークも嬉しく思うだろう。

「今年の聖獣祭には招待されているでしょう。ぜひ来てくださいね」

夜の宴が城で行われるが親族の貴族だけではなく近隣や、親しい貴族も招待することになっている。今回は新しい当主ということで顔合わせに多くの貴族が参加することが予想されていた。

「娘も15になったので一緒に連れてくるつもりでいるんです」

「ご令嬢とご子息もいましたよね」

歳の近い子供が2人いることは知っていた。まだ成人していないが社交界に慣らすために連れてくることにしたらしい。

15歳となればルークとも3つ違い。公爵となった彼にも結婚相手が必要になる。それを見越して顔合わせをさせたいと思ったのかもしれない。

ふとそんなことを思いついて胸の奥が疼いた。

プロポーズを受けているのはライラだ。それに応えないとルークは次へと進めないだろう。聖獣祭では他の令嬢方もきっと紹介される。答えが出ていないとはいえ、その光景を見なくてはいけないのだろうか。

胸がざわつくのを感じてそっと手で押さえた。

今は余計なことを考えない方がいい。

「実は娘はライラ様に会いたがっているんですよ」

「え、私?」

別のことを考えていたライラは自分の名前が出てきたことに戸惑ってしまった。ルークに合わせたくて連れてくるのではないのか。

「ライラ様が公爵家で密かに努力していることを娘に話したことがあるんです」

借金の返済ができるように奮闘していたことを伯爵は知っている。それを娘に聞かせていたようだ。そんなに自慢できることでもないので恥ずかしく思う。

「話を聞いた娘はライラ様をかっこいいと思ったようで、一度会ってみたいと言っていたんです。いろいろな努力の成果を詳しく聞きたいと思っているようで」

一体どんな風に話をしたらそうなるのか。随分と斜め上の発想をされていたら困る。

「年も近いですし、きっと話が弾むと思いますよ」

ライラは母親の再婚後ほとんどをクリスタラーゼ城で過ごしていた。貴族が城に来ることはあるが、ほとんどが義父の関係者。歳も両親に近いかそれ以上の人間ばかりだ。自分と年の近いしかも女の子と接する機会は侍女たちくらいしかなかった。貴族令嬢との接点が持てることはライラにとっても良い経験になるだろう。

「そうですね。一度会ってみたいです」

もしかすると初めての年の近い友人ができるかもしれない。

まだ会ってもいないのに今から嬉しい気持ちになる。

その後も他愛もない話を伯爵とするライラは、久しぶりに外の人間との交流を満喫しているのだった。


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