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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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告白

どれくらい時間が経ったのかわからない。

ルルナが用意してくれたお茶はすっかり冷めてしまい、小さな控え室は無機質で想像以上に寒さを感じる場所だった。

秋に近い季節とはいえまだ温かさが十分にある季節だ。そこまで寒くはないと思っていたが、ただ待つだけというのは意外にも体温を奪われるらしい。

お茶と一緒に用意してもらったひざ掛けとショールが無かったら、ずっと待っているのは辛かったかもしれない。下手に風邪でも引いたらルークに怒られそうだ。

「だいぶ経ったのかしら」

この部屋に時計はない。窓もないので太陽の位置で大体の時間もわからない。

図書室から本でも持ってきてもらえばよかったと今さら思ってしまう。聖獣に関わる本は沢山ある。聖獣祭以外にも儀式はいくつかあるので、まだ調べることは沢山あるのだ。待っている間に少しでも聖獣のことを調べておくのは悪いことではない。

ルークがいつ戻ってくるのかわからないため部屋を出ることもできず、ライラは黙ってその時を待っていた。

花が必要だということ以外何もわからないで当主としての儀式を行っている。聖獣に直接聞いてみるしかないと提案したが、そんなことをして聖獣の怒りを買ってしまったらという不安もあった。

「ルーク」

名前を呼んでも返事などない。無事でいてくれることを祈りながら待つことしかできないでいた。

冷めてしまったお茶を飲むべきか悩んでいると、突然扉が何の前触れもなく開いた。

ゆっくりと開かれる扉に気が付いたライラは咄嗟に立ち上がった。

ひざ掛けが床に落ちるが気にすることなく扉を凝視する。

扉を開いたのは待ち望んでいたルークだった。

少し疲れたような顔をしているが、どこか清々しさも感じられる。

なぜか手には白い花を持っていた。

「随分待たせたな」

部屋に入ってくるなりルークが微笑んだ。やりきったような表情に結果が良かったことを感じた。

「どう、だった?」

それでも聞かずにはいられない。

「大丈夫。ホルケウに認めてもらえた」

力強く頷く彼にライラは駆け寄ろうとして一歩を踏み出した。すると床に落としていたひざ掛けが足に引っ掛かって転びそうになる。

バランスを崩して倒れそうになると、ルークが駆け寄ってきて抱き留めてくれた。

「あ、ありがとう」

足元を見ていなかったことに恥ずかしくなる。それでもルークが当主に選ばれたことの喜びはそれを上回っていた。顔を上げるとライラが転ばなくてよかったと安心している表情とぶつかる。

抱き留められた状態でライラは両手を彼の背中に伸ばして思い切り抱きついた。

「ライラ?」

「・・・よかった。待っている間、不安はやっぱりあったから」

安心したため息が自然と出てきた。

ぽんぽんと優しく頭を撫でられた感触に驚いて顔を上げると、優しい眼差しを向けているルークと視線が合った。

「これからは当主としてこの地をしっかり守っていくことになる。ライラのことも守れるだろう」

「私のことはいいのよ」

ルークにはこれから聖獣に選ばれた当主としてクリスタラーゼを守っていく役目があるのだ。ライラ個人を守る余裕などなくなるだろう。

ライラの事よりも今はルークが認めてもらえたことを喜ぶべきだ。

「当主として認められたら、みんなでお祝いをしようって決めていたの。今夜は豪華な食事にしましょう」

シシィやイクルスとはすでに話をしていた。どういう結果になるのかわからない状況で用意をすることもできず、当主として選ばれた時はすぐに連絡して祝える準備だけはしておくことになっていた。

体を離してみんなに伝えに行こうと思っていると、ルークが肩を掴んできた。

優しく支えられるような力に首を傾げていると、そのままさっきまで座っていた椅子に座らされてしまう。

「ルーク?」

「当主として認められたら、俺の覚悟を伝えるつもりでいた」

急に真剣な表情でこちらを見てくる。余計なことを言ってはいけないとその視線から感じ取ったライラは静かに見つめ返すだけにした。

「ライラ=クリスタラーゼ」

「はい」

優しい声が名前を呼ぶ。返事をすれば、ルークは目を細めて優しい表情になった。

「俺と結婚してほしい」

「・・・え?」

「クリスタラーゼ公爵夫人として、俺の隣に立っていてほしい」

突然のルークの言葉に理解が追いつかない。

今、結婚という言葉を聞いた気がする。

「ルークと私が、結婚?」

「そうだ。ライラに傍にいてほしいと思っている」

「ま、待って。そんな素振り見たことないわ。それに、婚約しているわけでもなくて、いきなり結婚。私はどこかの貧乏貴族の遠い親戚みたいなもので、ほとんど平民だし」

自分で何を言っているのかわからなくなりながら、とにかくライラは結婚に対して混乱するしかなかった。

ルークは義理の弟で血の繋がりはないが、結婚相手として意識したこともない。

「貴族の結婚は国への報告と許可が必要になるが、クリスタラーゼ公爵家の場合は、国よりも聖獣が認めるかどうかが重要だ。身分はほとんど関係ない」

ルークの落ち着いた声が返ってくる。

貴族間の結婚は相手を迎え入れる時に爵位や領地など、相手と釣り合っているのかを国が判断する。身分という壁に結婚を阻まれることもあるのだ。だが、クリスタラーゼは国よりも、聖獣が認めたかどうかが重要になる。聖獣が認めれば平民でも公爵夫人になれるのだ。

何代も前には平民から嫁いできた夫人もいたそうだ。だから、ライラが身分を気にする必要はない。

そんな説明をされてもライラは頷くことなどできない。

「だって、結婚するなら相手に少しくらい好意を持っているものでしょう」

ルークがライラを好いていると感じたことがない。家族としての好意はあるかもしれないが、ライラを1人の女性として恋愛感情で好かれているとは思ったことがなかった。そして、ライラはルークを家族としてずっと見てきていた。

ライラの訴えはなぜか盛大なため息で返ってきた。

呆れたような表情をされて、もしかして彼はずっと前からライラに好意を持っていたのかと思う。ただ単にライラが気付いていなかっただけで。

質問するべきか口を開きかけてやめてしまった。否定された時に恥ずかしい思いをするのは自分だ。そしてがっかりするような気がした。

そう考えた時に期待している自分がいることにも気が付いた。

ますます混乱して頭を抱えたくなると、ルークの手が伸びてきて頬に触れた。

「急な話しで混乱させていることはわかっている。君が俺を男として意識してくれていないことも気が付いていた」

ならなぜここでプロポーズをしてきたのだ。

「ちゃんと意識してもらおうと思った」

心の声が聞こえていたように話すルークはずっと優しい声で言う。

「聖獣に認められた当主になったら、俺を男として見てもらいたいと思っていた。ライラが義理の弟か家族としての枠組みでしか見ていないこともわかっていたから」

10歳で新しい家族となった。数か月早く生まれただけの義理の姉になったのだ。ルークはすぐに学園へ行ってしまったので接する機会は少なかったが、ライラにとっては大切な家族である。

その認識はライラだけが持っていたということになる。ルークは家族ではなく女性としてライラを見ていたのだ。

「今すぐ返事が欲しいわけじゃない。ただ俺の気持ちを知っておいてほしい。そのうえでよく考えて返事が欲しい」

プロポーズされたとはいえここでライラが答えを出すことを彼は望んでいないようだ。

「・・・わかったわ。考える時間をちょうだい」

まっすぐに見つめてくるルークは真剣だ。それに応えるためにはライラも中途半端な気持ちで答えてはいけないような気がした。家族としてしか見られないのであれば結婚に頷いてはいけない。彼を男性として見たとしても夫として隣で支えられる公爵夫人になる覚悟が無ければ良い返事はできないだろう。

「ありがとう」

ちゃんと向き合って考えてくれることにルークが感謝してくる。

頬の手が離れる。ルークの体温を失ったことに少しだけ寂しさを感じていると、その隙に彼の顔が間近に迫ってきていた。気が付いた時には手が触れていた頬にキスが落とされる。

「え、なっ・・・ルーク」

頬を押さえて身を退くと、彼は口元に笑みを浮かべていた。

「考える時間はあげるけど、アプローチはしていくから」

ちゃんと意識してもらえるように積極的に動くことを宣言される。

当主となれたことを喜んでいた気持ちなどどこかへ吹っ飛んでしまったライラは、顔を真っ赤にしてただひたすらに状況を把握するのに精いっぱいとなった。


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