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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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ライラの今後

「ライラの今後の待遇についてだが」

急に真剣な話しになったことで、やはり座るべきではなかったと思ってしまった。

仕事の邪魔をしたくなかったことと、今後の話をするための心構えがまだできていなかったことから、すぐに部屋へ引き返すつもりでいた。

古代文字の話をしてしまったことで出て行くタイミングを逃してしまったのがいけない。

だが、もう座ってしまったのだから仕方がない。

心の中で反省してから頷いて先を促すと、ルークは真剣な表情をしていたが、とても優しい眼差しを向けてきていることに気が付いた。

「このままクリスタラーゼの公爵令嬢としてここに残ってほしい」

「・・・ここに居てもいいの?」

「公爵令嬢と言うよりも公女という形になるだろうが、ライラの帰る場所はここだ」

現当主はルークだ。義理の姉であるライラは公爵令嬢というわけにはいかなくなる。そのため公女という立場に変わってクリスタラーゼ城にいることになる。

肩書が変わっただけで、ライラの立場はほとんど変わらない。

「火事のことはどうなるの?」

それが一番気になっていた。すべてを話したが、火事の原因はまだわかっていない。

「そのことだが、ライラはまず火事とは関係ない。それにある意味被害者だ。ライラに負わせる責任は何もない」

公爵に襲われたという事実は公表できない。ライラが襲われたことは極僅かな人だけが知る事実となるだろう。そのうえで火事のことは多くの人が知っている。その結果は公表しなければいけない。

「あの火事で知られていることは、火元が複数あったこと、火事で当主夫妻が亡くなっていること、あとは炎の中に黄金色の炎が混ざっていたことは多くの人が知っている」

「黄金色の炎?」

その話をライラは耳にしたことがなかった。なんの話だろうか。

「誰からも聞いていなかったのか?」

ルークの問いに頷くしかない。火事の話をしないライラに使用人たちはわざわざ思い出させることを言わないでいたのだ。そのため炎の色が違うことなど知らなかった。

そう言えばあの夜に赤く燃える城を見上げた記憶がある。その明るさがひときわ輝いている時があったような気もするが、はっきりしなかった。

「俺は直接見ていないが、多くの使用人が目撃している」

ルークはその時学園にいた。あとから騎士団が調査と聞き込みをした報告で知ったようだ。

「その黄金色の炎だが、あれはおそらく聖獣の力だろう」

「聖獣の・・・」

ライラも一度だけ見たことがある。

母親が再婚する時に公爵と一緒に聖獣の間に行ったのだ。そこで新しい公爵夫人を迎え入れることを認めてもらうために聖獣に会ったのだ。

現役当主は当主としてクリスタラーゼを治める時、最初に聖獣に認められるための儀式を行う。それは夫人になる人も同じなのだ。結婚する時に妻として迎え入れたいと当主が請い、それを聖獣に認めてもらうのが習わしになっていた。

再婚ではあるが、新しい家族として城に迎え入れていいのか聖獣に問うための儀式になる。

そこでライラもクリスタラーゼの一員として認めてもらうために聖獣の間に入って聖獣ホルケウと対面した。

真っ白はふかふかの毛に覆われた大きな狼。それが幼いライラの印象だった。

「当主は聖獣に認められるとクリスタラーゼの土地を与えられ、聖獣の加護も授かる。それに、聖獣と意思の疎通も可能になる。それとは逆に、聖獣の怒りを買えばその身が黄金の炎に包まれるという」

まだ聖獣に認められていないルークでは加護を授かったり、意思の疎通がどういうものなのかわからないそうだ。

文献で読んだことを説明される。

「つまり、あの時の火事は当主が聖獣の怒りを買ったことによって引き起こされた可能性が高い」

それは当主がライラを襲ったことが関係しているのだろうか。

「聖獣との意思の疎通ができないから、あくまでも予測でしかないが、ライラを襲ったことが当主としてあるまじき行動と判断されたのかもしれない」

聖獣は当主と契約して土地を与え加護を授けるが、同時に当主として相応しいか常に観察しているのだ。

間違った判断をすれば聖獣の怒りが降り注ぐ。

「もしかして、窓が割れたのも」

外側から強い力を与えられたように部屋の窓が一斉に割れた。それと同時にライラに乗っていた当主も吹き飛ばされていた。これもすべて聖獣の仕業だったと考えたほうがすっきりする。

「おそらくライラを助けたのは聖獣ホルケウだろう」

姿は見なかったがライラは聖獣に護られたのだ。当主に制裁を与えることで結果的にライラが助けられたというほうが正しいのかもしれない。

どちらにしても聖獣の力が働いたことでライラは逃げることができた。

「もしかして、あの時の咆哮も」

森の中を逃げている時に呼び止められた気がした。足を止めて振り返ると遠くで遠吠えが聞こえたのだ。それがライラを呼んでいるような気がしていた。あれも聖獣だったのかもしれない。

「聖獣が助けてくれたのなら、いつかお礼をしないと」

聖獣が関わっているなど今まで一度も考えたことがなかった。助けられていたのなら、ちゃんと感謝を伝えたいと思う。

「必要なら聖獣の間に入ればいい。俺なら扉を開けられる」

クリスタラーゼの血筋の人間だけが開けることができる聖獣の間。

聖獣が姿を見せるかどうかはわからないが、そこで感謝を伝えたほうが伝わるだろうとルークが勧めてくれた。

「うん、ありがとう」

ライラは頷いて微笑んだ。

話はここで終わりとなった。今度こそ出て行こうと思って立ち上がったライラは、机の上に積まれた大量の本と、数冊の広げられた本に目を止めた。

先ほどはすぐに出て行くつもりであまり見ていなかったが、どれも古代文字で書かれている本ばかりだ。

ライラが探していた本も机の上にあった。

ルークは同じ家庭教師に教わっていたのだから、古代文字は読める。だが、何のためにこれほどの大量の本を読んでいるのか気になってしまった。

「何か調べているの?」

余計なことをしているかもしれないと思いつつライラは本を見ながら聞いてみた。

「儀式に必要な資料を調べている」

ルークは嫌な顔をせずに答えてくれた。

「もうすぐ聖獣祭があるだろう」

「そういえばもう1か月くらいね」

自分のことで精いっぱいだったライラは、聖獣祭が近づいていたことを今思い出した。

「俺は父から儀式に関することを何も教わっていなかったから、残された資料から儀式のやり方を学ぶしかない」

本来次期当主は、現当主から儀式に関するすべてを代々教わっていくものだった。ルークは学園を卒業するとクリスタラーゼに戻ってくる予定だったので、そこから聖獣の儀式を教えられることになっていたのだ。

だが、当主がいなくなってしまい、引き継ぐべき事を何も教わらずにルークが当主になった。

「聖獣祭の儀式は、使用人たちも準備には関わっているから必要な物は揃えてもらえるだろう。だけど、聖獣の間で行われている内容は誰も知らない」

聖獣の間には当主だけが入って儀式を行う。毎年聖獣祭を城で迎えていたライラも何が行われているのか知らない。

詳しい内容を義父から聞いたこともなかった。

古い本には儀式の内容が書かれているようだが、古代文字の記述ばかりで読めるルークが1人で調べるしかなかった。

「それに聖獣祭の前に、当主として聖獣に認めてもらうための儀式もする必要がある」

「ルークはもう当主でしょう?」

親族間の会議で当主として認められているはずだ。首を傾げると、ルークは苦笑して首を振った。

「それは人間側の主張だ。聖獣にはまだ当主としてこの地を治めていいという許可をもらっていない」

クリスタラーゼ公爵としての当主は決まったが、聖獣が治める土地を借り受ける代表としての当主ではないのだ。

「聖獣と対面して認められるための儀式も必要なんだ」

聖獣祭を迎える前に聖獣に認められなければ、当主として聖獣祭の儀式も行えない。

1か月を切ろうとしている聖獣祭より先に当主と認めてもらう儀式が必要だった。

「その儀式も本に載っているのね」

古代文字から探すことになるので、こちらもルークが1人で調べていた。

「聖獣祭の記述は結構あるんだが、当主の儀式はあまり資料が無くて苦戦しているところだよ」

順調なのだと思っていたが、どうやら当主の儀式は行き詰っていたらしい。とにかく資料を集めなければと、机に積まれた本はその証だったようだ。

ライラはふとルークの手元にある本を覗き込んだ。

「ライラ?」

短くなった髪が頬に流れてきて、それを邪魔に思って指で耳の後ろにかける。わずかに目を細めて書かれている内容を読み取った。

その後他にも開かれている本に目を通してみる。

「専門的な用語まではわからないと思うけど、普通の文章なら私でも読めるわ」

「え?」

横を向けばすぐ近くにルークの顔があった。本を覗き込むことで距離が近くなっていたのだ。

整った顔立ちに心臓が大きく脈打つ。

「あっ、ごめんなさい」

少し体を離して気持ちを落ち着かせてからもう一度口を開いた。

「古代文字なら私も読めるわ。少しなら力になれるかも」

家庭教師に基本は教わった。その後は独学ではあるが文章を読むくらいならできる。

「当主の儀式をちゃんとできるようにして、聖獣祭もしっかり勤めあげましょう」

少しの間驚いたように固まっていたルークだが、ライラの申し出を快く受け入れてくれた。それほどまでに1人での作業は大変だったのだろう。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

最後にはお互いにきちんと挨拶をして笑いあった。


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