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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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朝食を済ませるとルークはすぐに図書室へと向かった。

ライラは部屋で食事をするということだったので顔を合わせることはない。話を聞いて今後の彼女の待遇をどうするべきかルークの口から伝えるつもりでいたのだが、今日は部屋でゆっくり休むことにしたようだった。

夕食に会えればそれでいいだろうし、それでも来ないようならこちらから部屋を訪ねてもいいだろう。とりあえず今日は調べものをすることにした。

借金の解決や火事の真相もわかった。先に進む必要がある。そのためにはルークがやらなければいけないことは他にもあった。

聖獣祭まで1か月を切ろうとしている。その前にルーク自身がクリスタラーゼ公爵としてこの地を任せられる当主だと聖獣に認めてもらう必要があるのだ。

そのための儀式を聖獣祭より前に行う必要があった。

「まだ資料が足りないな」

聖獣祭に関する資料は早い段階で見つけることができた。毎年城の使用人たちも準備に参加してくれていたので、過去の資料と彼らの記憶を頼りに準備は出来そうなのだ。

だが、当主として認めてもらうための儀式は聖獣の間で当主1人が行う儀式だ。

本来なら前任の当主から引き継ぐ内容をルークは教わっていない。そのため資料を探して調べているのだが、当主だけが知る儀式の記録はなかなか出てこない。

時々儀式に関する記述を見つけるのだが、ほとんどがかいつまんだような内容で、具体的な内容がなかった。

このままではばらばらのピースを繋ぎ合わせてそれらしい儀式をすることしかできないような気がする。

「聖獣が認めてくれればいいが・・・」

記述のありそうな本を机にどっさりと積み上げてルークは愚痴をこぼした。

聖獣の怒りを買えば当主として認めてもらえないだけでなく、この土地を追い出される可能性もある。

そうなればクリスタラーゼ公爵家の存続にも関わる。

別名聖獣公爵と呼ばれるほど、クリスタラーゼは聖獣と契約することでこの地を治めることができているのだ。

聖獣を失えば国からも見放される可能性だってある。

公爵家としての危機もルークの肩に伸しかかっているのだ。

「やるしかないな」

嘆いていても儀式のやり方が降ってくるわけではない。

椅子に座って本を読み始める。

歴代の当主の日誌もあった。それらは読み終わっているが成果はなかった。日々思ったことなどが綴られているだけで、儀式に関する記述があまりなかった。

古い資料から探すことにしたが、そのほとんどが今は使われていない古代文字を使用している。

読める人間がこの城でルークしかいないので、他の者に手伝ってもらうことはできない。

一心不乱に読み進めていたルークは、図書室に人が入ってきたことにすぐに気が付けなかった。

扉が閉まる音が聞こえて初めて顔を上げると、辺りを見渡しながらオレンジ色のドレスを着たライラが歩いてきていた。

「ライラ」

声を上げると静かな部屋に予想よりも大きく声が響いた。静かに本を読んでいたためルークがいたことに気が付いていなかったようで、彼女は驚いた顔を向けてきた。

「あ、ごめんなさい。邪魔をしたかしら」

机の上に積み重ねられた本の山。そこに埋もれるようにして座っていたルークが何かの作業をしていたのは明白だ。邪魔をしたと思って謝ってきた。

「今日は部屋にいると聞いていたんだが」

「久しぶりに本を読もうと思って。部屋にずっといても暇になってしまうから、探している本を見つけたらすぐに出て行くわ」

そう言って本棚に近づいて行ったが、目当ての本が無かったのか何度か首を傾げてうろうろしている。

その後こちらに近づいてきて机の上に置かれている本を見つめて声を上げた。

「あ、その本」

ルークのすぐ横に置いてあった1冊の本に視線が向く。

まだ読み終えていなかった本だが、これは古代文字で書かれていて普通の人は読めない。

それをライラは探していたようだった。

「途中に栞が挟まっていなかったかしら?」

そういえば押し花の栞が挟まっていた本だ。

まさかと思いながらも、本を手渡して尋ねてみる。

「この本が読めるのか?すべて古代文字で書かれているのに」

随分古い本だ。途中までだが、本には昔の聖獣祭の様子が書かれていたはずだ。公爵令嬢とはいえ、クリスタラーゼの血筋ではないライラがどこで文字を覚えて読めるようになったのか不思議だ。

「全部が読めているかはわからないけど、大体はわかるわ」

本を受け取って大事そうに抱えたライラは少し照れくさそうにしながら答えてくれた。

「ルークが学園に行く前に家庭教師に教わっていたでしょう」

「エリック先生か」

見た目がとても若く見える眼鏡をかけた男の先生だった。8年前にルークが城を追い出されるように学園へ行くまで彼から勉強を教わっていたのだ。

基本的な授業の他にも、彼はクリスタラーゼの歴史にも詳しく、その中には古代文字の授業もあった。

ルークが古代文字を読めるのは彼から教わったからだ。だが、10歳までしか教わっていなかったので、それ以降は学園で独学だった。

古代文字に詳しい先生もいたので、その先生からも教わりつつ大体の文章は読めるようになった。

「エリック先生は、俺が出て行った時に解雇されたはずだが」

その後、連絡を取ることもなかったので今どこで何をしているのか知らない。

「そのエリック先生だけど、すぐに戻ってきて今度は私の家庭教師になったのよ」

その話は初耳だった。長期休暇で戻って来た時にエリックと会うこともなかったので、ライラが家庭教師に教わっているとは思わなかった。

ほとんどがルークの話で終わっていた。そう考えるとルークはライラに質問することがなく、2人の関係は本当に希薄だったと思えてくる。それに、ルークはライラのことを何も知らないのだと突き付けられているようだった。彼女が興味を持ってくれなければ、同じ城にいても接点がないまま年月が経っていたのだろう。

「クリスタラーゼの公爵令嬢として最低限の知識と教養は叩き込むべきだと当時の公爵の考えだったみたい」

ルークよりも少ない授業内容ではあったらしいが、それでも今まで平民同然で暮らしてきたライラには大変なものだったようだ。

「普通の授業だけが目的だったんだけど、時々他のこともいろいろと教えてくれたのよ」

最初は勉強ができることに喜んだのだが、とにかく頭に叩き込む授業に途中から辟易してしまった。

そんな時に関係のない勉強もエリックは教えてくれていた。

「古代文字もその時に教わったの」

「あれこそ、頭に叩き込むものだろう」

文字を覚えるのだから他の授業と変わらないように思っていたが、ライラには違ったようだ。

「現代の言葉や文字と照らし合わせて答えを導くのが楽しかったのよ。それに、古代文字の本が読めるようになると、昔の内容もわかってきてそこからクリスタラーゼの歴史も覚えられるようになったわ」

遠回りをしたが、結果として覚えるべき勉強にも役立っていた。

「でも、2年くらいで先生がまた解雇されちゃったから、それ以降は全部独学なのよ」

2年の間に最低限のことは教えてもらえた。それ以降は先生が急に辞めてしまったので、ライラは1人で勉強をしていたのだ。

「どうして急に辞めることに」

「たぶん、その時から借金が膨らみ始めていたんじゃないかしら。使用人の給金を下げる前に、必要ない人を解雇していたんだと思う」

ライラの予想ではあったが、おそらく外れていないだろうとルークは思う。

その頃はまだライラも借金のことを知らなかった。急な解雇にどうすることもできずにいたのだろう。

たった2年で家庭教師を解雇するほどに借金を作っていた。ライラの勉強よりも公爵夫人の買い物を優先した結果だ。

自分の父親はとても浅はかな行動をとっていたのだなと失望してしまう。

「ライラ」

ずっと彼女を立たせたまま話をしていたことに気が付いて、ルークは自分の隣の椅子に座るように促した。

「私すぐに出て行くつもりで」

「もう少し話をしないか?」

2人でゆっくりと穏やかな気持ちで話をしていなかった。

ここでライラが部屋に戻ってしまえば、また話ができる機会がいつになるのかわからない。

この機会を逃すまいとルークは隣に座るように誘ったのだ。

少し迷う素振りを見せてから、ライラは諦めたように本を机に置くと、指定された椅子におずおずと座ってくれた。

座ったのを確認してから、ルークは彼女に伝えなければいけないことを先に話すことにした。


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