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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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ルークの安堵

「ライラお嬢様が目を覚ましました」

その報告を侍女が持ってきたときルークは内心で安堵の息を漏らした。

「そうか」

言葉は短く、感情を表に出すことなく手を動かしていく。

「すぐにまた眠ってしまったのですが、お医者様の診断では峠は越えたということです」

足の怪我から発熱してしまい、かなり危険な状態になっていると聞いた時は内心で動揺した。

ルークが取り乱せば周りの使用人にも不安が伝わってしまうので、冷静なふりをして対応していたが、この数日はずっと気にしていたことだ。

「様子を見に行かれますか?」

赤髪の侍女はライラ専属の侍女だ。もう1人いるが、2人で交代しながらずっと看病してくれていたことを知っている。ライラが目を覚まして彼女たちも心底ほっとしていることだろう。

「いや、今はやめておく。また眠ってしまったなら、目が覚めてから顔を出すことにする」

「わかりました」

どこか釈然としない様子ではあったが、侍女は大人しく一礼すると部屋を出て行った。

「これでやっと事情が聞けますね」

黙って様子を見ていたアスルが口を開く。

ライラが意識を取り戻さないと火事の真相を進めることが出来ないでいた。使用人達からは事情を聞いていたが、まだなぜ火事が起こったのか、当主が寝室ではなくライラの部屋にいたことなど、わからないことがある。ライラから話を聞ければ詳しい状況が明らかになるだろう。

「あの方が今回の事件の原因になっていれば、糾弾して追い出すことも可能になるでしょうね」

誰も火事の話をしようとはしないが、あれが事故ではなく事件だと思っている者は多いだろう。

アスルもライラが何らかの関りを持った事件だと考えている。もしも原因が彼女にあるのなら喜んで城から追い出す気でいるようだ。

「すべてはライラから話を聞いてから判断する」

ルークはまだ結論を出すには早いと思っていた。ライラが火事に全く関係ないという可能性は極めて低いだろうが、先入観と予想だけで先に結果を決めつけることはしたくない。

クリスタラーゼ公爵がいなくなった今、その後継者であるルークが公爵となる。

学園の卒業はもう少し先だが、すでに18歳は迎えていた。成人しているので問題なく爵位を継承することはできる年齢になっている。

上に立つ者として、自分の感情だけで物事を決めることはできない。勝手な思い込みで他人の人生を狂わせることもしてはいけない。

「口が過ぎました。申し訳ありません」

ルークの意図に気づいたようでアスルは素直に謝ってきた。それでもライラに対しての負の感情は消せるものではないだろう。

「失礼します」

ノックの音ともにイクルスが声をかけてきた。

アスルが扉を開けると資料を抱えて入ってくる。

「こちらは夫人が買っていた調度品の一覧でございます。どれもかなりの値打ち物ですが、時々安物を掴まされていたこともわかってきました」

抱えていた資料を机に置くと、ルークはすぐに目を通した。

借金の総額とクリスタラーゼに残された財産の調査が行われている。細かい金額を調べると、借金はどんどん膨れていき、金貸し以外にも臣下の貴族や親族からも少しずつ借りるという方法を使って贅沢な生活を継続させていたようだ。

その中には高価な調度品の購入もあった。

「必要なもの以外はすべて売り払うつもりだ。できるだけ高く買い取ってもらえるような業者を選んでくれ」

「それでしたら心当たりがありますので、すぐに手配します」

「ドレスや宝石類は、すべてライラの相続になるだろう。彼女と相談したうえで売れる物を売ってもらうつもりでいる」

調度品はクリスタラーゼの所有にできるだろう。相続はルークになり、自由に売買が可能だ。だがドレスやアクセサリーは義母の所有物となるため、実の娘であるライラが相続する。

借金のこともすべて話してドレスや宝石の処分を頼む必要がある。クリスタラーゼの一員として協力を仰ぐことになる。

「ルーク様」

アスルが不満そうな表情で呼びかけてきた。

ライラの許可など無視してすべて売り払ってしまえばいいと言いたそうだ。

だがルークが口を開く前に、イクルスの鋭い視線がアスルを捉えた。

「相続者はライラ様です。ルーク様の護衛騎士だからといって、勝手な発言は許されません」

「も、申し訳ない」

イクルスもアスルが何を言いたいのかわかったのだろう。棘のあるような言い方に、アスルはすぐに謝罪をしてきた。城で働いている経験は明らかにイクルスが上だ。執事長でもある彼には一介の騎士であるアスルも簡単に反論できない。

何事もなかったようにイクルスが向き直った。

「ライラ様の意識は戻りましたが、まだ長く話ができる状態ではありません。もう少し体力が回復してから相談したいと思います」

「頼む」

ルークから言うよりも年長者であるイクルスから諭されるように言われた方が、ドレスなども手放しやすいかもしれない。全面的に執事長を頼ることにした。

「ですが、相続の話をするということは、当主と夫人が亡くなったことを先に話す必要があります」

書類に視線を戻そうとするとイクルスは気まずそうに言ってきた。

意識が戻っただけのライラは、火事で両親が死んだことを知らない。先ほど報告に来た侍女も火事があったことと怪我をしている会話をしたが、実の母親が亡くなったとは告げていなかった。その話の前にライラが再び眠ってしまったのだが、言い出すきっかけも掴めなかったようだ。

「その話は俺から伝えることにする。残された者としての責務だろう」

詳しい状況はルーク自身もわかっていないが、父も義母ももういないことだけは確かだ。それをライラにも伝えて理解してもらわなければいけない。

イクルスは静かに一礼するとそのまま部屋を出て行った。

再び書類に目を通し始めたルークは、次に目を覚ましたライラと対面したときに両親の死をどうやって説明するべきか1人悩むこととなった。


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