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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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公爵夫人となった侍女

ルミラという侍女は、シシィの目から見ても侍女の中で飛び抜けて美人であった。

その美貌が妻を亡くして何年も経っている公爵の目に留まるのに時間はかからなかった。

侍女になって数か月で彼女はあっという間に公爵夫人へと変わったのだ。

平民生活が長かったが、もともと貴族の血筋だからかルミラはすぐに貴族婦人としての態度を身に着けていった。

新人侍女から、女主人として仕えることになったシシィも公爵夫人として対応の早さは自負していた。

だが、周りの侍女で対応に追いつけなかった者たちはルミラへの態度を変えられなくて辞めていった。自分から辞めたように言われていたが、実際は首にさせられた使用人もそれなりにいたはずだ。

急激な使用人の入れ替えに当時の侍女長も頭を悩ませていたことを知っている。

そんな中、ルミラが公爵夫人となると、彼女の連れ子も城に住むことになった。

連れてこられたのはルークと同じ10歳の女の子。

町の小さな借家で暮らしていたのが、自分がどこにいるのかわからなくなるほどの大きな城に住むことになって、最初は戸惑っているようだった。

だが、持ち前の旺盛な好奇心が働いたおかげで、少女はすぐに城での生活に馴染んでいった。

それと同じころ、ずっと城に住んでいた公爵の後継者でもあるルークが王都の学園へ行くことになった。

「夫人に追い出されたってもっぱらの噂よ」

「自分が子供を産めば、その子を後継者にするつもりらしいわ」

侍女たちの間でもそんな噂が飛び交っていた。

「みんな、そういう話は夫人に聞こえないようにしなさい。耳に入ったら処罰の対象になるわよ」

シシィも口には出さなかったが、その噂が本当であろうと思っていた。

城に住む子供がライラ1人になると、ルミラは急激に買い物をし始めて、自分のもの以外にも娘のドレスやアクセサリーを買い漁っていた。

それが何年も続いていくと、今度は別の噂が出始めた。

「公爵様が借金をしているそうよ」

「奥様の買い物が激しすぎるせいだって聞いたわ」

「どうして止めないのかしら?」

借金の噂が広がっていくと、使用人達からの不満の声も出てくるようになった。わずかだが給金が下げられ始めたからだ。

「シシィは借金の噂を聞いたことがある?」

使用人が直接雇い主に給金のことを訴えることはできない。少しの給金の減りなら我慢できると思っていたが、その限度を超えようとしていた時、ライラが突然そう尋ねてきた。

15歳になった彼女は、可愛らしい女の子から美しい女性へと変わり始めている時だ。

母親に似て美人になっていくライラはその美貌に似つかわしくない暗い顔をしていた。

「何年も前から公爵様が借金を作っていることはここで働く者たちなら誰もが知ることです」

シシィも侍女長へと昇格していた。部下となる侍女たちから給金に関しての相談も受けていた。執事長のイクルスとどうするべきか悩んでいるが、今のところ公爵が夫人を諫めてくれる気配がなかった。

「私、お母様に買い物を控えるように言ってみるわ」

ライラも母親の散財に思うところはあったようだ。ドレスを買う時は必ずライラの分まで買っていた。彼女の意見など何もなく買い与えられたものをライラはただ受け取っていた。幼いころはそれでよかったのだろうが、15歳にもなると借金のことをどこかで聞きつけたようで、その意味が理解できたのだろう。母に進言すると言ってきた。

娘の言うことなら聞く耳を持つだろうとその時のシシィは楽観していた。

実際はライラの言葉に憤慨したルミラは持っていた扇でライラをぶったのだ。

あまりの光景にその場にいたシシィも驚いた。

間に入って止めなければライラはもっとひどい仕打ちをされていた可能性がある。

それ以来ライラは買い物を止めるように言わなくなった。

無言で母親から与えられるものを受け取っていたが、その後今度はとんでもない提案をシシィにしてきたのだ。

「使わないドレスやアクセサリーを売ってお金を作ろうと思うの」

「奥様にばれたら大変です」

「だからシシィに協力してほしいの。本当は私1人で出来たらよかったけど、きっとすぐに気づかれるから」

古いドレスを換金するにも街に行かなければいけない。ライラは城へ来てからほとんど外に出ていなかった。そのため急に街に出かけると怪しまれる。だからシシィが用事で街へ行った時にドレスを売ってほしいと言ってきた。

すべては借金を返すため、使用人たちの苦しい現状を少しでも改善するため。そして、数年後に戻ってくるルークが困らないように。

全部他人のことを考えての行動だった。

だからこそシシィは協力した。それと同時にばれた時は責任を自分が被ることも決めた。

ライラの心根の優しさを知ったからこそ決意できた。

それから3年が経って、ルークが卒業して戻ってくる年となった。

彼が戻って来た時、借金のことを知ることになるだろう。そうなれば両親との確執は避けられないと考えていた。そして、ライラに対しても贅沢な暮らしをしていたと蔑むことがあれば真実を口にする覚悟もしていた。

結局公爵夫妻は火事で亡くなり、ライラは姿を消したことでシシィは真実を伝えることになった。

どんな判断を下すつもりでいるのかわからないが、シシィはずっとライラの味方でいるつもりだ。

それは城で働く使用人たちが同じ思いであることもわかっている。

ライラはアスルによって見つけられ城に戻って来た。そこですべての真実をルークに伝えた。

涙を流し疲れ果てたライラの側にいることになったシシィは薄暗い部屋にランプの火を灯して、穏やかに眠る彼女を見つめながら、今後の対応によってはここを出て行くことも心に決めていた。

「明日からは別の意味で大変になるかもしれないわね」

誰かに聞かせるわけでもなく、シシィは呟くと窓の外を眺めて星空をしばらく見つめるのだった。


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