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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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ただいま

「お話は終わったんですか?」

部屋に戻るとアンナがベッドメイキングをしていた。

ルルナも部屋にいて彼女はクローゼットを開け放って中のドレスを物色している。

「今夜は何を着ましょうか?」

「このままでいいと思うけど」

以前使っていた客間ではないまた別の客間が用意されていた。

ここはより広く、大きなソファまで用意されている。そこに座って自分の恰好を見下ろしてみた。

パーティーが開かれるわけでもないし、夕食のために着替えることなど滅多にない。どうして服選びをしているのか首を傾げる。

「今夜は特別ですよ。お嬢様が戻ってきてくれた日ですから。夕食も料理長が張り切っているので豪勢な料理が出てきそうですし」

ライラが戻って来たことを喜んでくれている使用人達。温かく迎え入れてくれたことにほっとしていたが、そこまでの歓迎をされるとは思わなかった。

「豪華なことはしなくていいのよ。いつも通りで十分」

張り切っている料理長はいったいどんな料理を作るつもりでいるのか謎だ。できるだけいつも通りをお願いしたい。

困っているとアンナが楽しそうに笑った。

「後で伝えておきます。お嬢様が引いちゃうような料理は駄目だって」

引いてしまいそうな豪華な物を作る予定だったのか。

「お願いするわ」

少し休みたいなと思っていると扉をノックする音が聞こえた。

アンナがすぐに扉を開いて相手を確認する。途端に先ほどまで笑っていた明るい表情が鋭く睨むような険しい表情に変わった。

「何しに来たの?」

「あ、いや。ライラお嬢様に呼ばれたから」

少したじろいでいる声には聞き覚えがある。

「ビウレット卿が来たの?入ってもらって」

「ですが、お嬢様」

「私がルークに頼んできてもらったの」

ルークとの話し合いが終わると、彼はアスルの処分を考えておくと言っていた。それに待ったをかけたライラが一つの提案をしていた。

「失礼します」

渋々部屋に入れたアンナが釈然としない表情だ。クローゼットを覗き込んでいたルルナも表情は険しい。

「ルークから話を聞いていると思うけど。これからしばらく私の護衛を担当してもらうわ」

部屋に入ったアスルは、ライラの前に片膝をついて頭を下げた。騎士が上位の者に対して敵意がないことを表す態度だ。彼がライラに対してどういう立ち位置なのかを彼自身が示してくれている。

「ですがお嬢様、この者はお嬢様を侮辱し、城から出て行くように促すようなことをした愚か者です。それを護衛につけるなんて」

アンナが驚いたように反論してきた。ルルナも同じ気持ちのようで頭を下げて動かないアスルを睨みつけている。

「2人の気持ちはわかるわ。でも、私は彼が何も知らなかったから行動した結果だと思うの」

彼はルークの護衛騎士としてずっと王都にいた。ライラとはルークが長期休暇で戻って来た時に時々顔を見る程度で、お互いのことなど何も知らないと言っていい。

母親の行動からライラも傲慢で贅沢な生活をしているのだろうと勝手に想像して見下してきたことは怒りを覚えるしかない。ルークの判断を待たずに行動したことも処分の対象になるだろう。

だが、アスルがライラのことを知らないから起こした行動なら、ライラのことを知ってもらう機会を作ることも必要な気がしたのだ。

「護衛となることで、私のことをきちんと見なさい。そのうえでライラ=クリスタラーゼを判断しなさい。私もアスル=ビウレットがどんな騎士であるのかを見極めます」

お互いに何も知らない環境で処分を下せばしこりが残る。それは2人だけでなく判断を下そうとしているルークにも影響する可能性があった。ずっと一緒に過ごしてきた騎士を簡単に切り捨てるほどルークは冷酷な当主ではないと思いたい。

「お互いを知ったうえで、それでもあなたのしたことを許せないと私が思った時は、ルークに処分を頼みます」

アスルがライラを知るための時間でもあり、ライラに対する贖罪の時間でもあるのだ。

「寛容なご判断に感謝いたします」

「まだ判断を下したわけではないわ。あなたの行動次第で決まると言っているのよ」

このまま城に残れるかどうか、それは今後のアスルの行動次第だ。

「精いっぱい任務につかせていただきます」

「わかったなら部屋を出て。疲れたから少し休むわ」

わざと強い言い方をした。従者に責められて弱気な主でいるわけにはいかない。ライラの態度の変わりようを彼も理解できているのだろう。立ち上がったアスルはもう一度深く頭を下げてから出て行った。

その様子を見ていた2人の侍女は扉が閉まると駆け寄ってくる。

「公爵令嬢として立派でした」

「騎士と主人という関係性がはっきりして素敵でした」

賞賛の言葉になんだか照れてしまう。

クリスタラーゼの血筋ではないという負い目から強く出ることを避けていたライラだが、公爵令嬢なのだとルークに諭されて少しだけ自信をもってみた。言うべき時は言わなければけじめがつかない。

「ありがとう2人とも。それより、本当に疲れたから休むわ」

綺麗にベッドを準備してくれたのだが、すぐに汚すことになったのは申し訳ない。それでも横になりたいと思った。大きなソファでも十分に休めそうだが、今はベッドが良かった。

「もうすぐ昼食になりますが、それまで休まれますか?」

「お昼はいらないわ。夕食まで休むことにするから」

食欲があまりなかった。夕食は豪勢になりそうだと先ほど言っていたので、それまではゆっくり休もうと思う。

「それでしたら軽く摘まめるものを用意しておきます」

ルルナが休むための寝間着を用意している間に、アンナは軽食の準備をするため部屋を出て行った。

着替えを済ませてベッドに潜り込む。

「あ、そうだわ」

ベッドに横になって思い出したことがあった。

「ルルナ」

服をクローゼットに仕舞っていた侍女の名前を呼ぶ。

「言い忘れていたことがあったの」

「なんでしょう」

近づいてきたルルナは首を傾げた。

「みんなに心配かけてごめんなさい。私のことを待っていてくれてありがとう。それと、ただいま」

驚いたルルナが何度も瞬きをしている。

「アンナにもそう伝えて。それに城の皆にも」

返事を待たずに目を閉じると眠気が急激に襲ってきた。ルークが迎えに来てからずっと緊張していたようだ。それが解かれたことでライラはすぐに夢の世界へと誘われていった。


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