真実を話す勇気
「お金を稼いだら、街からも出て行くつもりでいたわ。誰も私を知らない場所に行くべきだと思っていたから」
とつとつと話していくライラは城を出て、怪我を負ったままロック夫妻に助けられたこと、そこで療養して食堂の手伝いを始めたことなどを語ってくれた。
だが今のところ城を出てからの話しかしない彼女は、なぜ出て行ったのかを口にしていない。
「まさか、ルークが迎えに来るとは思わなかったけど」
今朝の話にまで行きつくとそこで話が終わった。
どこか諦めたような言い方に、ルークに見つからないように生きていくことを望んでいたことが窺えた。
食堂にずっといてくれたことは正直に安堵しかない。誰かに連れ去られたり騙されたりして余計に傷ついていなかったことが救いだ。
だが、ここで話を終わらせるわけにはいかない。
「姿を消してからのことはわかった。ただ、どうして急に出て行ったのかを聞かせてほしい」
話したくないことは話さなくていいとは言ったが、質問することはしてもいいだろう。それに応えるかどうかは彼女次第だ。
ルークの質問にライラは視線を下に向けて押し黙ってしまった。
言いたくないというのを態度で表している。
どうして言わないのか考えていたことを口にしてみた。
「言いたくないのは、アスルを庇ってのことなのか?」
「え?」
「ライラがいなくなってから彼から話を聞いている。大体の事情はこちらも把握しているつもりだ。ライラがここで証言してくれれば、アスルがとった行動に対しての対応を考えるつもりだ」
ライラが出て行ったのはアスルに責められたからだ。後妻の連れ子で血の繋がりのないライラがここに居ることを非難した。ライラ自身も後ろめたさがあったのだろう。だからこそ傷ついて姿を消した。
ルークはまだ判断を決めていなかったのに、アスルの勝手な行動で城全体が動揺に包まれたのだ。彼に対する処分は必要になる。
「アスルを、ビウレット卿を庇っているつもりはないわ。ただ・・・」
「ただ?」
言っていいのかどうか迷っているようだった。何度か視線を左右に彷徨わせて口を開こうとしているが言葉が出てこない。
「お嬢様」
見かねたように後ろに立っていたシシィが声をかけてきた。
「正直にお話しても大丈夫ですよ。当主様はすべてを受け止めるつもりでこの場にいます」
諭すように言うと、ライラは一度シシィを見上げてから意を決したようにまっすぐにこちらを向いた。
「ビウレット卿は、クリスタラーゼの血筋ではない私がいつまでもここに居続けることを嫌がっていたわ。それは彼の心情ではなく、ルークがそういう考えだと言っていたの」
僅かに肩が動いてしまった。
ライラの今後をどうするべきか答えを出していなかったが、鬱陶しいから出て行ってほしいなど考えていなかったし、口にした事もなかった。それなのに、アスルは自分の憶測でルークが思っていることのようにライラに伝えたのだ。彼の感情だけをぶつけられたのだと思っていたが、ルークが絡んでいたことに怒りを覚える。
彼に対する処分はいろいろと考えていたが決して軽いもので済ませてはいけないと誓った。
「これだけははっきり言っておく」
心の奥に燻った怒りの感情が声に出ないように慎重に口を開いた。
「俺はライラを煩わしく思ったことはない」
「そうなの?」
アスルの言葉を信じていたのだろう。ルークはライラを疎ましく思いこんですぐにでも出て行かなければと行動してしまったようだ。
「たしかにクリスタラーゼの血筋ではない。だが、君は正式な公爵令嬢だ。公女としてここに残ることに誰も反対しない。行く当てもないのに追い出すようなことを俺は考えていなかった」
怪我が治り火事の真実が判明したときにはライラへの待遇を決めるつもりでいた。父の死に関わっていないのならライラは誰にも責められることはない。悪意のあるかかわり方をしていたのなら、それなりの処分は必要になるのだろうが、これまでの彼女を見ているとそうではないと思っていた。
「私、勝手に思い込んで早とちりしたの」
ルークに確かめるという選択肢はきっとなかったのだろう。それほどまでに深く彼女は傷ついていた。
そっと右手が髪に触れる。出て行く決意をしなければ綺麗な髪を切る必要はなかったのだ。そこに思い立ったのか悲しみを堪えるように唇をかみしめていた。
アスルの勝手な行動で傷ついたライラだが、ルークがもっとはっきりと今後のことを周囲に伝えていればこんなことにはならなかったのかもしれない。そう思うとライラが悲しんでいるのは自分のせいでもある。
「ライラ」
名前を呼ぶとまっすぐに視線がぶつかる。悲しみを見せていた表情は消え無表情になっていた。
それがルークには悲しく思えた。
「これからは誤解がないようにちゃんと話し合おう。ライラも言いたいことがあるなら気にせず話してほしい」
長期休暇で戻って来た時に好奇心いっぱいに質問してきた彼女のようにはいかないかもしれないが、気になることはちゃんとは言葉にしていくべきだ。
「私は・・・」
「言葉を飲み込まなくていい。頼りない部分はあるかもしれないが、ちゃんと受け止めるから」
だから、自分を責めて急にいなくなるようなことはしないでほしかった。
「本当に聞いてくれるの?」
不安そうに尋ねられ、それを払しょくするように力強く頷いてみせた。
「それなら、考えがまとまったら話すわ」
何に対してなのか、ルークが問いかけるよりも先にライラは静かに次の言葉を口にした。
「火事があった日に私の部屋で何があったのか」




