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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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返済

久しぶりに袖を通したドレスは食堂で働いていた時に来ていた服より重く感じられた。

布が多く使われている分実際に重いのだろうが、これからルークと話をするのだと思うと服の重さとは別の重さもあったのだろう。

城を出てからのことを話すことになるだろう。話したくないことは話さなくてもいいとは言っていたが、どうしても気にしているはずだ。特に話したくない内容があるわけではないので、ロック夫妻に拾われてから食堂で働いていた経験を口にするのは嫌ではなかった。

それよりもどうして出て行ったのかその理由と、やはり火事の真相を聞きたいと思っているだろう。

ここを出る原因となったアスルの言葉が真実なら、ルークにとってライラは疎ましい存在になるはずだ。

その話をするのかと思えば気が重くなる。

後妻である母がルークを嫌っていることに気がついたのは借金に気が付く少し前だった。それまではルークを学園に行かせたのは次期公爵として勉強させるためだと思っていた。

だが実は母が気に入らないルークを城から追い出すためにやったことだと知った。だからルークが長期休暇で戻ってきても部屋か図書室にいたことも納得できる。

ライラが訪ねていっても特に嫌な顔はしなかったし、話しかければきちんと答えてくれていたので、ライラ自身は嫌われていないのだと思っていた。

だが、母がいなくなってアスルの言葉でルークが母とライラのことも疎ましく思っていたのだと知り、拒絶を態度に表さないだけで嫌われていたのだとショックを受けた。

借金のことを知りながら母を止められなかった罪悪感が心を押しつぶしてくるのを感じ、ライラは城から逃げるように出て行った。

それなのに彼は自ら連れ戻しに来た。その態度は柔らかく拒絶を感じなかった。

単純に火事の真相を明らかにするためにライラが必要だからなのかもしれない。

着替えをしながらぐるぐるといろいろなことを考えてしまった。

迎えに来たルークはとても優しい雰囲気を醸し出していた。敵意など何も感じられず、逆にライラを気遣ってくれていると思えた。

何が本当なのか確かめる必要があるのかもしれない。だが真実を知る恐怖もあった。

話がしたいと言われたが、彼の口から侮辱と突き放すような言葉が出てきたら、ライラは耐えられる自身がない。

「お嬢様?」

ルークに会うため部屋を移動していたライラは1人で悩むように考え事をしていると、前を歩くルルナが振り返って首を傾げた。

「顔色が優れないようですが、体調が悪いのでしたら私から当主様に伝えて、今日は休みますか?」

無言で歩いているライラを気にして振り返ったのだろうが、悪い方に考え事をしていて血の気が引いていたライラに気を遣っているようだった。

「大丈夫よ。ルークとはちゃんと話をしないといけないでしょう。きっと今がその時なのよ」

見つかってしまい迎えに来たのだ。差し出された手を掴んでしまった以上ライラも覚悟をしなくてはいけない。

深呼吸を繰り返してから再び歩き出す。

連れてこられたのは居間だった。てっきり書斎で話をすると思っていたが、くつろぎの場であるここなら少しは和やかな雰囲気で会話ができるかもしれない。

「失礼します」

声をかけてルルナが扉を開ける。促されて部屋へと入るとすでにルークはソファに座ってくつろいでいた。

その横に静かに立っているイクルス。

テーブルを挟んだ向かいのソファは空いていたが、その後ろにシシィも立っていた。

2人がいるということは、大勢の使用人が押しかけていたホールの処理は終わったようだ。

各自の仕事に戻ってくれたのだろう。この城にあれだけ人が働いていたのかと思う程の人数だった。騎士服を着た者を見かけなかったので、騎士団以外の使用人が集まったのだろう。

「そこに立っていたら話ができない」

部屋に入ったものの黙って扉の前に立っていると呆れたように言われてしまった。

視線で向かいのソファに座るように促される。

ルルナはすぐに部屋を出て行き、ソファに座るとシシィがお茶を淹れてくれた。

懐かしい味にほっとしてしまう。

「シシィのお茶は久しぶりね」

城にいた時も専属侍女のアンナかルルナがお茶を用意してくれていたので、シシィが淹れてくれたお茶を飲むのは本当に久しぶりだった。

「美味しい」

「ありがとうございます」

美味しいお茶に心がほぐれていく。

頃合いを見計らって話をするべきだと思っていると、先に動いたのはルークだった。後ろに控えているイクルスに無言で視線を送ると、執事長は心得たようにテーブルに数枚の紙を置いた。

「これは?」

「前公爵と公爵夫人の借用書だ」

「え・・・」

金を借りた時に相手と交わした契約書。期日までに返済されないと公爵領の土地を取られてしまう内容になっていた。

「そもそもこの土地は聖獣から借り受けている土地だ。その代表としてクリスタラーゼが治めているだけだから、土地で契約することはできないはずだ。おそらく金貸し達はそのことを理解しないで金を貸したんだろう」

聖獣が治める土地をクリスタラーゼの人間が許可を得て治めている。国の中でもかなり稀な状況下の領地だ。金貸しが土地を受け継いだとしても、それを聖獣が許すかどうかわからない。

「父はそのことを承知で金を借りたんだろう」

「それって詐欺にならないかしら」

公爵は聖獣の土地だと理解していた。理解したうえで土地をちらつかせて金を借りていたのだ。

「そうまでして金を作りたかったんだろう」

淡々と話すルークは父親の不正に無関心なように見えた。

「このままだと土地を取られてしまうんじゃないの?」

のんびりと話をしているが、早く返済しておいた方が後々ばれた時に責められるのはルークになってしまう。返済のための換金はしていないのだろうか。ドレスにアクセサリーはすべておいていった。

もしかするとライラがしていたことをシシィはまだ話をしていないのかもしれない。

悪い方向に考えて不安になって振り返ると、シシィは優しい笑みを向けてライラを見ていた。

何の心配もいらないのだと言われているようで首を傾げる。

「ここにある書類はすべて金貸しが持っていた物だ。完済した証拠として受け取っていた」

「完済したの」

そのことに驚いた。返済が終わったので必要なくなった書類をもらって保存していたのだ。

「ライラが戻って来た時に、借金は返済されたという証拠になるだろう」

質の悪い金貸しもいたようで利息が高いところを先に終わらせておいたそうだ。それ以外にも親族への返済もしておいた。

「まだ返済は続くが、半分以上は減らせた」

シシィとイクルスが隠していた金と、ライラと母親のドレスの換金。それ以外にも不要だと思われる調度品の換金もしてしまい、借金以外にも城の中まですっきりした。

「そんなに返してみんなの給金は払えるの?」

そこが心配になってしまう。借金ばかりに気を取られて使用人や騎士たちに払われるべき金が無くては意味がない。

「そこは考えて配分してある。国に治める税も必要だし」

税に関して前公爵はしっかり支払いをしていた。ここだけは削れないとわかっていたのだろう。

それなのに公爵夫人の贅沢を止められなかったのが悔やまれる。ライラも一度母に買い物を控えるように進言したことがあった。宝飾品を買ってもらっている子供は大人しく言うことを聞いていればいいのだと言われた。言われただけでなく親に意見した仕置きのつもりだったのか頬も叩かれた。

あれ以来ライラは何も言わなくなった。その代わりこっそり金を貯えるようになり、15歳だった彼女にはそれくらいしかできなかった。

とりあえず借金は順調に減らしていけそうだ。

「よかった」

出て行ってからどうなっていたのかわからず不安になることもあったが、ルークなら大丈夫だと自分に言い聞かせて正解だった。

「この話はここまでだ。今度はライラが出て行ってからのことを聞きたい」

ロック夫妻の食堂でずっと過ごしていたことをルークは聞きたがってきた。そして、その話をするということは、どうしてライラが出て行ったのかを話すことにも繋がる。

いよいよだと思った。

ここへ戻ってくると決めた時に覚悟をしたつもりだったが、いざ口を開こうと思うと勇気がいる。

何度か深呼吸を繰り返してから、ライラは城を出てからのことを話し始めた。


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