発見と拒否
後妻の公爵夫人としてやってきたルミラには連れ子がいた。
ルークと同じ年齢の女の子だ。
ルミラがルークを追い出して好き勝手に贅沢な暮らしをしていたことから、アスルは娘のライラも同じように贅沢に生きているのだと勝手に思い込んでいた。
だが、彼女がいなくなってクリスタラーゼのためにどれだけの努力をしてくれていたのかを知り、今まで思い込んできたライラへの敵意が一気に覆された。
正直最初は混乱した。だが、使用人や騎士団の騎士たちは彼女を受け入れていて、ライラの努力を応援しているようだった。執事長や侍女長もライラばかりに負担をかけないように自分達にできることをしていたのだ。
衝撃を受ける中、ライラを探すようにルークから言い渡されて反論する気などなかった。むしろ自分の犯した過ちを正すためにも彼女を何としても見つけなければいけないという使命感の方が強かった。
アスルは騎士団と一緒に城周辺を探すのではなく、街に行ってライラの情報を集めることから始めた。
他の騎士たちはアスルが何をしたのか知っているようで、明らかに侮蔑の視線を向けてきていた。情報交換もできそうにないので、個人で動くしかない。
だが、何日経ってもライラに繋がる手掛かりが掴めなかった。
「一体どこへ行ってしまったんだ」
クリスタラーゼ城は丘の上にそびえ立っていて、丘を下った場所にクリスタラーゼ領の首都とも呼べる街が広がっている。
王都よりは規模は小さいが、それでも多くの人々が行きかう街でたった1人の女性を探すのは大変なことだった。
「長いまっすぐな金髪で、緑の瞳をしている20歳前の女性なんだが」
「金髪に瞳が緑の若い娘だと、たくさんいるだろう」
珍しい髪や瞳の色ではない。特徴だけを伝えても、尋ねられた人たちは首を傾げるしかなかった。
「最近見かけない女性がいたりしないか?」
「そんな表現じゃわからないよ」
どれだけ話しかけても、アスルの尋ね方が悪いのか、良い情報はもらえなかった。
そんな日々を繰り返していると彼の心もだんだん疲弊していくのがわかった。
それでもやめるわけにはいかない。
街に手掛かりがなければ別の村に移動している可能性も考えなくてはいけない。
だが、ライラは何も持たずに出て行ったようなので、移動する金さえないはずだ。簡単に別の街や村に行くことはできないだろう。
とにかくこの街で手がかりが欲しかった。
その日も朝からずっと聞き込みをしていたのだが収穫がなく、遅めの昼食を取るためにちょうど視界に入った食堂で食事をすることにした。
折れかかっている気持ちを持ち直すためにも腹を満たしておくべきだと考えたのだ。
だからこそ、何も考えずに入った店で接客をしているライラを見つけて驚くしかなかった。
それと同時に無事な姿に安堵もしていた。
「ライラ様」
ライラの名を呼ぶと彼女は怯えるようにして奥から出てきた女性の後ろに隠れてしまった。その時に背中を見せた彼女の髪がバッサリと切られていたことに気が付いた。
長くてまっすぐな金髪だったのを覚えている。それが失われて背中が見えたのだ。
衝撃を受けつつもなんとか話をしようとすると、ライラを庇うように店の女将と思われる女性が壁になって立ちはだかった。その様子にライラが貴族令嬢であることを知らないようだ。
「その方が誰なのか知らないようだな」
アスルはライラのことを話そうとした。だが女将は正体などどうでもよかったようで、大事な娘だと堂々と言い放ってきた。
それに呼応するように先ほどまで怯えていたライラもアスルに帰るように言ってきた。話すことなど何もないというように突き放してきたのだ。
一瞬心に突き刺さるような痛みを覚えたが、それを嘆いていい立場でないことに気づかされる。もっと傷ついているのは彼女の方なのだから。
「お帰りください」
はっきりと拒絶の意思を示されては居座るわけにもいかない。
店にいる客に頭を下げたのは、騎士という立場に関係なくライラへの贖罪があるという意思表示のつもりだった。そして、店を出る前にライラ個人にも謝罪を示しておいた。
こんなことで許してもらえるとは思っていないが、敵意がないことだけはわかってもらいたかった。
店を出たアスルはその足ですぐに城へと向かった。
ライラ自身を見つけることが出来た。急いでルークに知らせなければいけない。
「急ごう」
怯えていたライラは見つかることを恐れていたように思う。居場所がばれたからには別の場所へ逃げてしまう可能性も考えられた。
彼女が逃げてしまう前にルークと会わせなければ。
会ってちゃんと話をしてほしかった。
「もう間違ってはいけない」
それは自分への戒めの言葉だった。
昼を過ぎた街はまだまだ人々が動いている時間帯だ。通りには多くの人が行き交っている。
すれ違う人々を避けながらまっすぐ歩いていけないもどかしさと闘いつつアスルは目指すべきクリスタラーゼ城へと急ぐのだった。




