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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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図書室の思い出

図書室で古代文字が並んでいる古い本に目を通していたルークは、本の読む手を止めると息をついて天井を見上げた。

「この分だと、間に合わない気がする」

今は新しい当主として聖獣に認められるための儀式に関する記述を探している最中だ。

独学で学んできた古代文字は、思った以上に読み進むのに時間がかかっている。学園では空いている時間を見つけて古代文字の勉強をしていた。実際に膨大な資料を読む訓練はしていなかったため、急に儀式の資料を探すのはルークでも負担が大きいようだ。

どこにどんな記載がされているのかわからない中で1つの儀式に関して探し当てるだけでも大変なのに、素早く読み進めるための読解力がルークには足りていなかった。

詳しい内容や専門的な意味を持った文字は理解するのに時間がかかることもある。

考えている間に時間はどんどん過ぎていた。やはり専門職の人間を雇った方がいいようだ。

返済で雇えるだけの資金がどれほど残っているのか不安はあるが、聖獣の儀式をほったらかしにすることはできない。

この地を治める当主として認められないままでは、そのうち聖獣の怒りを買うことにもなるだろう。

聖獣から当主として認められたうえで、今回の聖獣祭の儀式もルークが執り行わなければいけない。

聖獣祭の日取りは変えることができないので、限られた期間で何としても当主としての儀式を済ませる必要があった。

「愚痴を言っても仕方がないな」

本来なら父親からすべて伝えてもらうことだ。教えてくれるはずの父はもういない。自分だけで解決しないといけない。

それに、手を止めてしまうとやはりいなくなったライラのことを考えてしまう。

今頃どうしているのか、無事でいてくれることを願うしかない自分がもどかしく思える。

本に目を落とそうとして、ふと周りを見渡した。

そう言えば、ルークが学園の長期休暇で城に戻ってくると、いつもここへ来ていた。

ルークの部屋はちゃんと用意されているのだが、部屋にいてもすることがなく、出歩いて義母に見つかると嫌味を言われたり蔑みを含んだ視線を受けるので面倒だった。

彼女は前妻の子であるルークを毛嫌いしていた。父と結婚して男の子が生まれでもしたら、ルークを完全に追い出して自分の子供を当主に据えたいと考えていたのだろう。だが2人の間に子供はできなかった。そのためルークが成長していくと、会うたびに忌々しそうな視線を向けてきていた。

義母に会わないためにも部屋にいるべきだったのだが、あまりにも退屈になるので、よく図書室に来ていた。ここには義母が来ることはないので1人でのんびり本を読みながら時間を潰せたのだ。

「ここでよくライラと話をしていたな」

懐かしさが込み上げる。

どういうわけか、ルークが図書室にいると後からライラがやってきたのだ。使用人の誰かが教えていたのかもしれない。

ライラは図書室に顔を出すと本を読むことはせず、ルークの隣にやってきて学園生活を聞きたがって来た。どんな授業をしているのか聞いてくることが多く、他にも寮での生活や、王都での行事などにも興味を示していた。

『学園生活って楽しい?』

話が終わると最後にはいつもそう聞いてきた。

楽しいかと問われると、クリスタラーゼから追い出すために学園に放り込まれた身としては楽しいとは答えづらかった。だが楽しくないかと言われると、それなりに授業は楽しいところもあって、知識を身に着けることは面白いと思っていた。それは決して裏切らないし、自分の糧になることもわかっていた。

『楽しい時とそうじゃない時がある』

ルークはいつもそうやって答えていた。するとライラは口をへの字に曲げてしまうのだ。欲しい答えではないのだろう。その顔が内心面白いと思っていたが口には出さなかった。

『私も一度くらい学園に行ってみたいな。ほら、家族なら面会できるし、学園の案内もルークがしてくれるでしょう』

そんなことを去年の夏ごろに言っていたような気がする。

『来る機会があればな』

学園に追いやられて以降、血の繋がりのある父でさえ学園に来たことがなかった。家族との面会など皆無なので、ライラが来たいと言っていても来ないだろうと思っていた。

『ルークは冷たいわ』

拗ねたように言うが、この時借金まみれのクリスタラーゼでは、学園に行くまでのお金さえ捻出できたかどうか定かではない。それをライラもきっとわかっていただろう。行けないとわかっていてもライラは行ってみたいと口にしていた。

その矛盾にルークは気が付いてやれなかった。

必死でお金の工面をしていたライラは表に苦しさを出すことなく、ルークが戻って来た時のことを考えてくれていたのだ。

「もっと、ちゃんと接していれば話してくれただろうか」

借金で大変なのだとライラが打ち明けてくれていれば、今のような状況にはならなかっただろう。

今も隣に彼女はいてくれたかもしれない。

だが現実は違う。

ライラは姿を消し、彼女の持っていた物が借金の返済に使われてしまった。

彼女がこの城にいた証拠さえ失われようとしている。

「必ず見つけないと」

図書室は地下にあるため窓がない。時計が無ければ昼なのか夜なのかもわからなくなってしまう。

幸いここには時計があるのでもうすぐ夕方になろうかという時間だと気が付けた。

夕食の前にいつも騎士団長のクリフがやってきて今日の報告をしてくれる。もうそろそろ執務室に戻った方がいいだろう。

本の続きは自室で読むことにして1冊抱えると、机に積み上げていた1冊の本に栞が挟まっていることに気が付いた。適当に数冊の本を棚から引き抜いてきたのでその時は気が付かなかった。

気になってその本を手に取ってみると、栞が挟まったページを開いてみた。

古代文字がずらりと並んでいて、所々に聖獣ホルケウの単語が読み取れた。

「誰かが読んでいる途中だったのか」

前当主の父かもしれないと思ったが、挟まっている栞が可愛らしい小花を押し花にしたものだったので、どうも違う気がした。

義母はこんな本を読まないだろうし、ライラが古代文字を読めるとは聞いたことがない。

もしかするともっと前の代の当主かその家族の可能性もある。

栞を挟んでいたことを忘れてしまったのか、読めない状況になってしまったのだろう。

栞を取って本を閉じようかと思ったが、なんとなく躊躇われてルークは栞を挟んだまま本を閉じた。本をもとあった棚に戻して、読もうと思っていた本だけを抱えて図書室を出ていった。


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