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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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やるべき事

書類に走らせていたペンを机に置くと、一度大きく伸びをしてルークは立ち上がった。

窓の外は良く晴れていて、青々とした庭が庭師の手入れが行き届いていることを伺わせる。本来なら花壇にたくさんの花が植えられていて今の時期はまだ咲き誇っていてもおかしくないのだが、クリスタラーゼの花壇はどこも花の数が圧倒的に少なかった。

着飾ることや見栄を張って調度品を買い漁っていても、庭に力を入れることをしてこなかったのだろう。少ない予算で庭師もできるだけのことをしてくれたようだが、やはり寂しさがぬぐえない。

その代わり温室には色とりどりの花が咲き誇っていることも知っている。あちらは公爵の管理下にある。とても重要な役目を持った温室なので予算を削るような真似はしなかった。そのことは安心できる要素だ。

だが、せっかくの晴れた空なのにルークの気持ちは晴れやかとはいかなかった。

ライラが姿を消してすでに2週間が経っていた。

騎士団による捜索は城とその周辺から、街での捜索に変わっていた。

騎士のままで動き回ると街の人々に不審がられてしまうし、不安に思う人も出てくるだろう。彼らには街の中に紛れられるような格好で捜索をさせている。

主に聞き込みが中心ではあるが、未だにライラらしき女性の情報が出てきていない。

部屋の中へと視線を向けると、ルーク以外に誰もいない静かな部屋だ。

護衛騎士であるアスルも捜索活動に参加していた。

ライラが出て行った原因がアスルであることを知った騎士団の者たちは彼と一緒に捜索することを嫌がり、アスルは単独で動いている。

騎士団の騎士たちもライラがここでどんなことをしてきていたのか知っていたのだ。知っていて知らないふりをしつつ、公爵や夫人に見つからないように配慮してくれていた。

使用人たちも同じ気持ちだったため、ライラは今まで咎められることなく行動できていたのだ。

「一体どこへ行った・・・」

ため息が出てしまう。

やるべき仕事はまだまだたくさんあるというのに、手を止めてしまうとライラのことに思いがはせる。

頭を振って再び仕事をしようとペンを持つのと、扉をノックする音は同時だった。

「失礼します」

返事をすると入ってきたのはイクルスだった。

「当主様。先ほど期日が迫っているという金貸しがやってきましたので、借りていた金額と利息分の支払いをしておきました」

「そういえば期日の近いのが1件あったな」

「はい。用意が出来ていたのですぐに支払いを済ませました。どこで金の工面してきたのか気にしていたようですが、支払いを済ませたのですぐに帰ってもらいました」

突然全額返済をしたことに金貸し業者は疑問を持ったのだろう。公爵家が何かの事業を始めたか、投資に成功したとでも思っているかもしれない。

金回りが良くなったのなら便乗しようと探りを入れてきたようだが、実際工面できたのは調度品を必要最低限残して売り払った金だった。

物を売っていることはそのうち周囲に知られることになるだろう。そうなると公爵家は傾いていると噂が飛ぶ可能性は十分にある。噂が広がるまでは金貸しが色々と嗅ぎまわりそうだが無視しておく。傾きかけている公爵家から離れようとする人間も出てくるだろう。

ルークはそれを逆手にとって線引きするつもりでいる。信頼できる人間だけが新しい当主の周りに残ることになるのだ。今はその前段階と言っていいだろう。

まずは借金の返済が先になる。

ライラがいなくなってすぐシシィがドレスやアクセサリーを換金し、それらは親族から借りていた金の返済に充てられた。

立場上公爵家から金を貸してほしいと言われれば、工面するしかない下級貴族の親族たちは返済されることにほっとした表情を見せていた。彼らも苦しい状況で貸していたのだろう。

残った金は街の金貸しの中で利息が高かったり、評判の良くない業者に先に返済している。先ほど来たという者は返済できないと暴力的に迫ってくるという噂があったので、これで縁が切れるのは喜ばしい。

残された業者は比較的良心的な対応をしてくれるところが数か所となり、売る物を売ってしまったため、一気に返すことはできない。少しずつ返済していく計画を立てているところだ。

「とりあえずの難関は乗り越えたと思っていいだろうな」

「ライラお嬢様の心遣いと、当主様の的確な判断のおかげかと」

ルーク1人ですべての借金をどうにかすることはきっとできなかっただろう。どこかの土地を売る羽目になるところだったが、この地は聖獣と契約して借りている。土地を売れば聖獣の怒りを買うことになった可能性もある。それ以外の方法としては爵位を売ることもできる。だが、こちらも聖獣と契約できた者として王家から特別に賜っていた。爵位を売れば王族の怒りを買うことになっただろう。

ライラがすべてを残して、母親の遺品さえ売り払う覚悟を示してくれたことで今のクリスタラーゼは維持できている。

ルークも父親の遺品から高価なものをいくつか売ったが、圧倒的に公爵夫人の所持品が多く、値段も高く売れた。

「まだ、ライラお嬢様の所在は掴めないのですか?」

「街の中の聞き込みをしているが、今のところライラらしき人物さえ見つかっていない」

イクルスも相当気を揉んでいるのだろう。騎士たちが報告に戻ってくると用事で部屋に来るたびに聞いてきていた。

「もう、街からも出てしまったのでしょうか」

「荷物もろくに持たずに出て行ったことを考えると、街の中にはいると思っている。だが、こうも見つからないと、街から出た可能性も考えないといけないかもしれない」

身一つで出て行ったライラが街の外に出ることは危険だ。

嫌な想像が脳裏をよぎる。

彼女は母親似で美人だ。長い艶のある髪に好奇心で瞳を輝かせる笑顔は明るい。

下心のある者が彼女を見つけてしまうと、簡単に攫われてしまいそうだ。そうなった時、彼女は抵抗することもできずに辱めにあう可能性が高いだろう。

そんなことを想像してしまうと、自然とペンを持つ手に力がこもった。

早く見つけ出して保護しなければいけない。

「俺も探しに行ければよかったのに」

そんな言葉が漏れてしまった。

「当主様にはやるべきことがありますから」

待っているだけとはこんなにももどかしいものなのだと初めて知った。

「ライラお嬢様が戻られた時に、城の中が混乱していては困ります」

「そうだな」

夏も終わりを迎えようとしている。秋になれば収穫祭の準備が始まり、城の中も聖獣祭の準備に追われる。

聖獣祭の前にルークは聖獣にクリスタラーゼの当主として相応しいか審判を受けなければいけない。そこで当主として選ばれれば今度は、聖獣祭で聖獣に感謝の意を伝える儀式をすることになる。

だが、ここで問題が起こった。

ルークは初めての当主としての聖獣祭をするにも、そのやり方がわからなかったのだ。

本来新しい当主は前当主から儀式のやり方を引き継ぐのだが、前当主であった父は火事で突然亡くなり、引継ぎが行われていなかった。

学園を卒業してクリスタラーゼに戻って来た時に少しずつ教えてもらう約束だったのだ。

そのため、城の地下にある図書室で、過去の儀式に関する資料を探すという仕事が増えた。

「儀式の資料を探すのも時間がかかるな」

「古代文字では、我々も協力が出来ません。こればかりは専門家を招くか、当主様が自力で解読されるしかありません」

もう一つ問題があるとすれば、それは儀式が記載されている本が古く、そのどれもがもう廃れてしまった古代文字で記載されていた。それだけ古くからクリスタラーゼは聖獣の許しを得てこの地に住んでいるのだとわかるが、同時に廃れた文字を当主は読めないといけなかった。

学園で古代文字の授業など当然ない。クリスタラーゼとして別に専門家を雇ってくれたわけでもないので、ルークは将来を考えて独学で古代文字の勉強をしていた。

学園に入る前に家庭教師がルークの勉強を教えていたのだが、その教師は古代文字も教えられる優秀な人だった。基礎は教師から教わっていたので、途中から独学でも古代文字の勉強は続けることができた。

「難しい儀式内容でなければいいが」

聖獣祭の儀式は当主が聖獣の間で1人で行うため、どんなことをしていたのかルークも知らない。

学園に追いやられてからは聖獣祭が行われる時期はここにいなかったのも原因だろう。

「今日の書類整理はここまででいいな」

儀式のことを考えていると、図書室へ行くべきだと思ってしまった。重要な書類は片付けているので、残りは明日以降でも大丈夫だ。

「図書室に行ってくる。何かあれば呼んでくれ」

持っただけで働くことのなかったペンを机に置くと、執務室を出た。ライラのことを考えてため息を零していたが、今は聖獣のことを考えてため息が出てしまう。

借金返済の難関は超えられたが、まだまだ問題は残っている。すべてが解決されるまでルークに心を休める時はまだやってこないだろう。


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