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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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15歳の覚悟

「このままじゃ、借金で公爵家が潰れちゃうわ」

3年前仕事をしていたイクルスを呼び止めたライラが大事な相談があると言って打ち明けてくれたのは、クリスタラーゼが抱える借金のことだった。

執事長を務めるイクルスも借金に関しては気が付いていた。詳しく調べていなかったため正確な金額までは把握できていなかったが、少しずつ増えてきていたことはわかっていた。

その原因が公爵夫人の買い物にあることも気が付いていたが、公爵が容認したためイクルスが口を挟める立場ではない。

使用人の給料にも響くかもしれないと内心で心配していた時に、ライラが深刻な顔をして公爵家の借金の話を持ち出してきたのだ。

彼女も正確な金額は知らないようだったが、どんどん膨れ上がっていく借金に危機感があったのか確かだろう。

「私が持っている物を売っても、ばれたらすぐに取り上げられてしまうだろうし、返済には全然足りないでしょうね」

一度母親に意見したことがあったらしいが、その時は叱責を受けたという。それで母親を止めることはできないと判断し、容認している義父も頼りにならないと思いイクルスに相談してきたのだ。

「ドレスや宝石以外にも部屋を飾る調度品も買っているけど、新しいのを買ったら前のものはすぐに倉庫に仕舞われて埃をかぶっているでしょう。あれらを売れたら本当はいいのだけど・・・」

調度品は母親が気に入ったものを選び、義父の名義で購入している。つまりクリスタラーゼの所有物になる。それを勝手に売り払うことはライラでもできない。ばれたらどんな目に遭わされるかわからないだろう。

それでも彼女は何とか膨れ上がる借金を解決できないかと悩んでいた。

クリスタラーゼのために必死になる少女を見ていると、イクルスもこのまま動かずにいることはできないと思った。

そこで調度品を定期的に持ってくる信頼できる商人に事情を説明して協力してもらうことにしたのだ。

今まで買った調度品の中にレプリカを混ぜて、本物を商人に買い取ってもらう。その後、新しく買った物の数点をレプリカにしてもらい、本物の金額を公爵から受け取ると、レプリカ代だけ商人が受け取り、差額分はイクルスが受け取っていた。

完全なる不正であり、横領だ。商人を詐欺師にしてしまっている。

何度も頭を下げて巻き込んだことを謝った。ばれた時はイクルスがすべての責任を取る覚悟だ。商人にはイクルスの単独だと証言してもらうつもりだ。

だがその金はイクルスが使うわけではない。将来のクリスタラーゼのために隠し持っていることになる。

そんなことを繰り返しているうち、調度品に偽物があることに気が付いたライラがイクルスに確かめに来た。買うだけ買って興味を示さない公爵夫人と違い、ライラは偽物に違和感があったらしい。

「どうしてこんなことをしているの?」

彼女は責めるというより事情を聞きに来たようだった。

「お嬢様に相談された後に、私なりに考えた結果がこれでした」

「ばれたら、城を追い出されるだけで済まないわよ」

物理的に首が飛ぶ可能性は十分にあった。

「それでも、クリスタラーゼを護りたいというお嬢様の力になりたいと思いました。このまま放っておけば、いつか公爵家は潰れて、我々も路頭に迷うことになります」

自分達の生活もかかっているのだ。

「商人の協力は確かにありますが、すべては私が1人で計画して実行しております。責任は私がすべて負うつもりです」

その覚悟をしなければこんなことはできない。

「・・・イクルスがいなくなるとみんなが困るわ」

ライラは困ったように笑った。そしてまだ15歳の少女はどこか寂しそうにしながらも覚悟した瞳を向けてきた。

「もしもばれた時は、計画は私が提案したことにしてください。イクルスは協力しただけ。そうすれば少しは処罰も軽くなるでしょう」

驚いたことにすべてを自分がやったのだと主張するように言ってきた。

「そのようなことはできません」

「いいのよ。私はクリスタラーゼではないもの。私が処分されても誰も困らないわ。ただ、いなくなった後のことは任せることになるけど」

後妻の連れ子だからという理由でライラは自分を切り捨てることを提案してきた。

公爵にとってライラは義理の娘になる。簡単に命を取るようなことはしないと思っているのかもしれない。

15歳の少女にここまで覚悟させていることが悲しかった。

貴族令嬢としての教育を受けつつも、もっと快活に少女らしく幸せに生きていていいはずなのに。

そう思うと、ばれた時にライラのせいにすることなどできなかった。

廊下を歩きながらイクルスは懐かしい記憶に苦笑が漏れた。結局前当主にばれることはなく

戻って来たルークに打ち明けることになった。

ルークにすべてを話すと決めた時、ライラの指示であったなど言えるはずがなかった。すべては自分の責任だ。ずっと頑張ってきたライラを追い込むことはできない。

未だに姿を消している彼女が今どこにいるのかわからないが、願わくば無事でいてほしい。

「執事長」

呼ばれて振り返れば男女の使用人が数名こちらに駆け寄ってきた。

混乱した城の中でも彼らはきちんと仕事をこなそうとしている。

新しい指示を出して窓の外を見てみると、青空が広がっていた。

いつかこんな空のように心も清々しくある日が訪れることを切実に願うことしか今のイクルスにはできなかった。


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