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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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努力を知って

「クリフ。お前からも何か言うことはあるのか?」

侍女長と執事長が公爵や夫人に黙ってライラと一緒に動いていた。騎士団長である彼は立場が違うがすべてを知っていて何も言わずにいたようだ。もしかすると別の隠し事をしていてもおかしくない。

「私からは何もありません」

静かに目を伏せるクリフ。

「ですが、騎士団の予算も年々減らされていたことは間違いありません。まだ大きな影響が出るほどではありませんでしたが、騎士たちの中にも減り続ける給金に不満を持ち始める者はいました」

使用人のように騎士団をやめようと考えている者たちはいた。だが、彼らが思い留まっていたのはライラの努力をどこかで知ったからだ。クリフも借金のこととライラが何かこそこそと動いていることを勘づいていたのだ。

「私は見て見ぬふりをしていました。公爵家に仕える者として、当主様に報告するべきだったのでしょうが、敢えてしませんでした」

私利私欲のためにライラが動いていたのなら気づいた時点で当主へ報告していただろう。だが、彼女の行動が何のためなのかを知ったクリフは見なかったことにすることで、ライラを密かに守っていたのだ。

彼女がそのことに気が付いていたかどうかはわからない。

だが、ライラ=クリスタラーゼは多くの使用人や騎士に支えられ守られていた。それは彼らの話からよくわかる。

「報告を失念したことが処罰の対象となるのでしたら、受ける覚悟はできています」

クリフもまた覚悟を持ってここへ来たようだ。

「処分はイクルス同様後日になる。それよりもクリフには引き続きライラの捜索を頼みたい。彼女を見つけてもう一度話がしたい」

ルークがいない間の彼女の行動を知った今、何としても見つけ出さなければいけない。

見つけて謝りたかった。そしてクリスタラーゼを護ろうとしてくれてありがとうと伝えたかった。

「今度はちゃんと彼女の口からも聞きたい」

ライラが何をどう思って行動していたのか、本人の口からも聞きたかった。

「わかりました。捜索を引き続き行います」

一礼するとクリフは部屋を出て行った。

これで残されたのはルークとアスルだけとなる。

壁際に黙って立っているアスルは先ほどから顔色が悪いように思う。ライラのしてきたことを初めて聞かされて、彼女がどんな人物なのか知ったことで混乱しているようにも思えた。

「アスル」

名を呼ぶと明らかに肩が大きく跳ねる。

「はい」

「今の話を聞いてどう思った?」

彼はルークと一緒に王都の学園で生活していた。ライラとはほとんど接点がなく、公爵夫人がしてきたことをライラもしていると勝手に思い込んでいた。

まったく違う行動をとっていた彼女の真実を知った今、彼は何を思っただろう。

アスルの視線が戸惑ったように左右に揺れる。

「まさか、ずっと公爵家のために動いていたなんて信じられませんでした」

それが率直な感想なのだろう。

「俺も正直ここまでしていたとは思わなかった」

ライラは義母とは違う。それはわかっていたし、ライラ個人を見ているつもりでいた。それでも彼女の隠し事に気が付くことはできなかった。

クリスタラーゼに戻ってくると義母はいい顔をしなかったし、父やライラがいない状況で嫌がらせや嫌味は当たり前だった。それもあってここへ戻ってくることを極端に避けていた。せめて、ライラと一緒の時だけでも彼女にもう少しだけ寄り添ってあげられたら、抱えていた事を打ち明けてくれていたかもしれない。

今さら考えたところですべてが遅いのだが。

小さなため息が出てしまうと、壁際にいたアスルが執務机を挟んでルークの目の前に移動してきた。

「申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げられた。

「ライラ様が姿を消したのはすべて私の責任です」

「詳しく話せ」

顔を上げたアスルは覚悟したような表情をしていた。

「私はライラ様が前公爵夫人同様に贅沢な暮らしをしていると思い込んでいました。そのため、夫人が亡くなったことでクリスタラーゼの血筋ではないライラ様はここを出て行くべきだと考えていました」

同じ年の義姉になるライラは、クリスタラーゼの血筋ではないが、クリスタラーゼを後ろ盾にここで生活を続け、どこかの貴族に嫁ぐことも可能ではあった。血筋ではないという理由でここを出て行くだけが彼女の選択肢ではない。だからこそ火事に関してライラがどう関わっているのか調べ、その結果によって彼女の今後を判断するつもりでいた。

「あの夜、私はライラ様に怪我が治ったら出て行くように忠告しました」

彼女がどれだけ傷ついても、あの公爵夫人の娘なのだからという理由でアスルは責めた。

その結果、怪我が治るよりも早くライラはその夜に姿を消してしまったのだ。

「申し訳ありません。軽率な行動をとりました」

「確かにそうだな。彼女の今後を決めるのはお前ではない」

ルークの判断を待たずにライラは城を出た。荷物もそのままに身一つで出て行ったようだ。

「騎士団には城周辺の捜索をしてもらっている。お前は街へ行ってライラの捜索をしてきてくれ」

クリスタラーゼ城は丘の上に建てられている。北側を森に囲まれて、南側に街が広がっていた。

火事の時にライラは森で見つかっていたため、森へ行った可能性を考えて騎士団は森の捜索をしてくれているが、今のところライラがいたという痕跡すら見つかっていない。

城から街まで少し距離があるため、あの足で行くのは難しいと思っていたが街へと向かった可能性が高くなってきていた。

「大々的な捜索はできない。時間はかかっても必ず見つけ出せ」

当主夫妻が火事で亡くなったことは領民たちも知っている。そこに今度は公爵令嬢まで行方不明だと知られれば、ますます不安を覚えるだろう。これ以上の混乱を避けるためにも街でのライラの捜索は静かに行う必要があった。

「承知しました」

深々と頭を下げたアスルはすぐに部屋を出て行く。

残されたルークは机の上に置かれたままのライラのアクセサリーに目を向けた。

高価な宝石が金や銀の装飾された台座にはめ込まれてネックレスや腕輪などになっている。すべて義母がライラに買い与えた物だという。一度使うと次の茶会ではまた新しい物が用意され、そのたびに袋の中身が増えていったのだろう。

「ライラ・・・」

名を呼んでも返事はない。好奇心に瞳を輝かせてルークの名を呼んでくれた彼女は今どこにいるのだろう。

当主としての仕事を抱えるルークは探しに行くことはできない。

無事でいてくれることを祈りながら、彼は待ち続けるしかなかった。


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