イクルスの告白
「次は私からの報告があります」
静まり返った部屋で最初に声を上げたのは執事長のイクルスだった。
彼はテーブルに置いていた冊子を手にすると立ち上がってルークの目の前に冊子を差し出した。
無言で受け取り中身を確認したルークは首を傾げた。
「これは前に言っていた調度品の資料だな」
義母が購入していた高価な調度品の購入に関する帳簿だ。この中から売れるものを選別して換金してほしいと頼んであった。
「調度品の中に安物が混ざっていたことを説明したと思います」
「時々安物をつかまされていたと言っていたな」
目利きではなかった義母は、勧められるままに高い買い物をしていたようだ。そのため安物を高値で買っていた時があった。それらは売っても価値がないため換金には不向きだ。
「それらの偽物に関してですが、すべて私の指示で行っていたものです」
一瞬部屋の中がざわついた。
「イクルス、一体何を言って」
「売りに来た商人はすべて高価なものを揃えていました。それらを前公爵夫人が購入した際に、数点をレプリカと変えていました」
「どういうことだ?」
それは完全なる詐欺だ。なぜイクルスがそんなことをしたのかわからない。
「正確には購入した商品を密かに商人に買い戻してもらっていたのです」
「買ったものを売ったということか」
公爵夫人からは正規の値段で支払いが行われ、その後数点の商品をレプリカに変えて、高価な品は同じ商人に買い戻していた。買い戻した時に発生した金額はいったいどこへ行ったのか。
「売った商品のお金はすべて私が管理しております。このことはお嬢様もご存じです」
「ライラも知っていたのか」
ライラが出てきたことで、イクルスが管理している金が何のために置かれているのか想像できてしまった。
「この計画は最初お嬢様がどうにかしてお金を貯める方法はないかと相談してきたときに思いついた方法です」
換金に成功すると、公爵や夫人にばれないかと緊張したものだが、買うだけ買うと夫人は興味をなくしたのか見向きをしなくなり、公爵は関心がなかったようでレプリカに気が付いていないようだった。
「だが、すり替えるためには商人の協力も必要だろう」
「商人とも話をしていました。いくつか高価な品を買ってもらえていたので、こちらにはすぐに協力してくれました」
信頼できる商人だったようだ。定期的にやってきては夫人に調度品を買ってもらい、いくつかを買い戻していた。その繰り返しをしながらイクルスは金を増やしていった。
「私の部屋の奥に隠してあります。後ほどお持ちします」
今は現金ではなく、本物の調度品とレプリカに変えられた品が正確に記載されている資料を持ってきた。
「私が管理している物は、ルーク様が当主となった時にすべてお渡しする約束をライラお嬢様としていました」
ライラはライラで自分の物を換金していたが、母親が購入した物には手を出せなかった。そこでイクルスに相談して調度品を密かに換金することを繰り返していた。
「今回のことに関して、お嬢様は相談されただけで行動をしたのは私の独断です。公爵夫人の物を勝手に売り払ったことへの責めが必要であれば、どうか私1人にお願いします」
先ほどから覚悟をした表情をしていたのはこのことだったのだろう。ライラは自分の物を売り払っていただけで罪にはならない。だがイクルスは公爵家の物を売り払っていた。それはライラの指示ではなく自分の単独行動だと主張し、罪はすべて自分が被ると言っているのだ。
「執事長が今辞めてしまったら、城内は混乱してしまいます」
クリフも知っていたのだろう。執事長がいなくなると使用人をまとめ上げる人間がいなくなる。それを阻止するように口を開いた。
「火事の真相もまだ解決していませんし、前公爵がなくなって間もないです。ライラお嬢様もいなくなって城内は不安と戸惑いが渦巻いています。ここで執事長まで失うのは危険です」
すべての使用人を取りまとめているのはイクルスだ。火事やライラの怪我、ルークが当主となったことでいろいろなことは急激に変わった。ライラが姿を消したことで余計に混乱している公爵家で執事長まで去ってしまうのは相当な痛手となるだろう。
「イクルスの処分は公爵家が落ち着きを取り戻してからになるだろう。それまでは今まで通り働いていてくれ」
ルークとしてもこれ以上の痛手は避けない。それに彼がしていたことは公爵家のためだ。自分の懐を潤すための行動ではない。処分するにしても城を出て行くことはないだろう。
「わかりました。仕事に戻りますが最後に一つだけ」
頭を下げたイクルスは顔を上げると鋭い視線をアスルに向けた。
「ライラお嬢様はどこかで偶然多額の借金があることを知り、自分にできることはないかと模索しておりました。母親に叱責されても自分の信念を曲げなかった方です。そんなお嬢様を責め立てる人間を私は許すことはできないでしょう」
ずっと話を聞いていたアスルは壁際に黙って立っていたが、その顔色はどこか悪いように思えた。
もう一度頭を下げてからイクルスが部屋を出て行く。
暴露して去っていったシシィとイクルス。2人の覚悟を受け取ったルークは黙って扉を見つめることしかできなかった。




