様子見
「どうでしたか?」
ライラが部屋を出て行くと入り違うようにアスルが戻ってくる。
「火事の記憶がないから何が起こったのかわからないと言っていた」
「そんな嘘が通ると本気で思っているのでしょうか」
蔑むような言い方はライラに対する感情をむき出しにしていた。
「もっと深く追求するべきです」
「相手は怪我人だ。また倒れるようなことがあっても困る」
それこそ話ができなくなってしまう可能性が出てくる。
ライラは確実に何かを隠している。ここで話をする前からそんな気がずっとしていた。何かを隠して抱えこんでいる。それが何なのか探りを入れたくてもライラの心は完全に閉ざされているのがわかった。
ルークだから答えたくないというわけではない。誰にも言えない何かを持っているのだと思っている。
「もう少し時間をかけるべきか」
ライラの心が少しでもほぐれて話ができるようになるまで待つのが一番いいのかもしれない。
だが、そうのんびりもしていられないのも事実だ。
親族を集めた会議でルークは当主として認められたが、火事の原因やライラの今後の立場などはまだ話し合われていないのだ。火事は調査中であり、ライラは怪我をして葬儀にも出られない状態だということで先送りにしている。
調査もほとんど終わり、怪我も癒えてきた今なら結果を出さなければいけないだろう。
決断の時は近い。
「このままでは何も進みません。いっそのこと彼女には自ら身を退いてもらうように促すのはどうでしょう」
どうするべきか今後のことを考えているとアスルが提案してきた。
身を退くというのはクリスタラーゼから除籍するという意味だ。それをルークが判断するのではなく、ライラ自身が血の繋がりがないことを理由に進言するように促すということになる。
彼女は後妻の公爵夫人の連れ子だ。
クリスタラーゼとは全く関係のない娘が公女を名乗ることにいい顔をしない親族は確かにいる。
このままではライラ=クリスタラーゼとして居座り続けることはおそらく難しいだろう。それでも身一つで追い出すようなことはしたくない。理由をつけて城に残れるようにすることも考えてはいるのだ。
そのためにも火事の真実を知りたかった。ライラがどう関わっているのかはっきりさせることができれば今後の対応も変わってくる。
「どんな結論を出すにしても、もう少し時間が必要だろう」
ルークが再び話をしたところで今のライラが口を開くとは思えない。彼女から信頼され、できるだけ側にいる者に頼むのも手ではあった。
そこで頭をよぎったのは専属侍女の2人だ。だが、彼女たちが質問をして余計に心を閉ざしてはライラの立場がどんどんなくなっていくだろう。2人には逃げ場であってほしい。
そう思うと他にライラが口を開きそうな人物が誰なのか思い浮かばなかった。
「ライラが信頼できると判断する相手か」
ルークが城に戻るのは学園の長期休暇の時だけ。学園にいる間のライラの生活など知らない。どんな人と接触し、どれだけの親睦を深めているのか聞いたこともなかった。
そんなことを考えた時、ルークはライラのことをほとんど知らないのだということに気が付いた。
城に戻ってくると必ず彼女は姿を見せる。
そして学園生活がどういったものなのか、どんな勉強をして、寮での過ごし方など他愛ない質問をしてきた。質問に答えてやると満足したように帰っていくのだが、いつもまた話を聞かせてほしいと言い残して去っていった。
ルークがライラの生活を質問したことがほとんどなかった。彼女も質問されないことが当たり前だと思っていたのか、自分から話すこともなかった。
「よくよく考えれば、不思議な義姉弟だな」
同じ年ということで、数か月先に生まれたライラが義姉にはなっているが、お互いに姉と弟として意識したことはなかったように思う。
さっぱりしすぎていて、冷たいようにも思われるかもしれないが、お互いに嫌っているわけではなく、それが2人の関係であり当たり前のことなのだ。
「確か、明日には侍女長が戻ってくるはずだったな」
里帰りをしていた侍女長が予定より早く戻ってくるという連絡が来ていた。火事やライラの怪我。当主夫妻がいなくなり、ルークが新しい当主となった。目まぐるしく事が進んでいる。のんびりと里帰りをしている場合ではなくなってしまっただろう。
ライラがクリスタラーゼに来た時から知っている侍女長なら、ライラの心を開く良い方法を知っているかもしれない。
そんな僅かな期待をしていると、近くにいたアスルが悔しそうな表情をした後何かを覚悟するような表情をしていた。
悟られないように無表情に戻ったアスルが内心で何を考えていたのか、その時のルークは知ることが出来なかった。




