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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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聖獣ホルケウ

「寝台を中心に火の回りが激しくなっていました。ただ、窓やクローゼットには延焼がなく、少し不規則な火の道が出来ていたように思います」

「まるで炎が意志を持って燃えていたかのようだと?」

「どちらの部屋もその印象が強いです」

騎士団長のクリフ=アネストの報告を聞いていたルークは不可思議な火事にため息をついた。

「それから、ライラお嬢様の寝室だけすべての窓が割れていたのも気になります」

「火事の影響ではないのか?」

窓の報告は前にも受けていた。ただ、窓がすべて割れているという報告だけだったので火事で割れたのかと思っていたが、クリフの表情からそうではないと察することが出来る。

「火事は室内で起きています。しかし、窓はすべて外から内側に向かって割れていました。外側から強い衝撃を受けたことになります」

「外側から?」

なぜそんなことになったのか。

「それに窓が割れたのなら、使用人の誰かが割れた音を聞いていてもおかしくないのに、その音を聞いた者がいません」

おかしな現象が起こり過ぎている。それがルークの感想だった。

「他に気が付いたことは?」

「部屋に関しては今わかっているのは以上です。あとはなぜ当主様がお嬢様の部屋のいたのか、火事のあった時にお嬢様がどこにいたのか、本人から直接話を聞かなければいけないことを残すだけです」

父はすでに他界している。話を聞くならライラだけだ。

怪我を理由に未だに話を聞いていなかったが、いよいよ話を聞かなければいけない時が来たようだ。

「ケビン医師の話では長い時間でなければ話をすることは可能だと言っていました」

庭に出てリハビリができるくらいには体力が回復しているのはルークも知っている。少しだけ話をしたがその後すぐに部屋に戻っていくライラは疲れた顔をしていた。話ができるのは本当に少しだけだと考えていた方がいいだろう。

「わかった。彼女の聴取は俺がする」

「ルーク様が直接ですか」

クリフが戸惑った表情を見せた。

「前当主の実の息子であるルーク様を前に、火事の真相を話してくれるでしょうか」

色々とショックを受けているライラが、公爵と血の繋がりのあるルークの目の前で真実を話せるのかどうか不安に思ったようだ。

「実の父親のことだからこそ、息子の俺が話を聞くべきだと思う」

どんな真相が待っているのかわからないが、ライラの口から直接聞くべきだと思っていた。

「わかりました。おそらくケビン医師か専属侍女が付き添う形になるでしょうが、直接話ができるように手配します」

クリフは一礼するとすぐに部屋を立ち去った。

「よろしいのですか?」

騎士団長がいなくなったことでずっと控えていた護衛騎士のアスルが口を開いた。

「あの公爵夫人の娘のことです。何を考えているのかわかりませんよ。嘘を平然と言ってルーク様を騙す可能性もあります」

クリスタラーゼを追い出されるように王都の学園に行った時からルークの護衛をしているアスルは、追い出す原因となった公爵夫人をひどく嫌っている。彼女がいなければルークは父親に領地経営を学びながらいろいろな教育を施されていくはずだった。

それを後妻として入り込んだライラの母親のせいで学園に入ることになった。義母に上手く言いくるめられたのか、父は反対することなく学園での生活から学べることを学んでこいと送り出していた。

その経緯を知っているアスルは、酷く公爵夫人を嫌悪し、血の繋がりのあるライラも同じように嫌悪の対象に入れてしまっている。

彼女はルークを嫌っていないし、いじめられた記憶もない。逆に学園での生活を聞かせてほしいと積極的にルークに関わってきていた少女だった。

「嘘を見破れないようでは、クリスタラーゼ公爵としての名折れだろうな」

火事の現場で何が起きていたのか、ライラがその場にいたのかさえ分かっていない。

事情を聞いて嘘か本当かを見極めるのはルークの仕事だ。

嘘をつけばそれをさらに追及して相手を追い込めばいい。ライラはクリスタラーゼとは血の繋がりがない。追い込んだうえで切り捨てることは簡単だ。

だが、そうしたくないという思いがルークの中にあることも自覚している。

王都の学園が長期休暇に入った時に戻ってくると、彼女はいつも明るく興味津々に学園生活の話を尋ねてきていた。そこに下心は感じられなかったし、それよりも憧れのまなざしを受けていたように思う。

「とにかく、彼女から直接何があったのか話を聞かなければ始まらないだろう」

何が起こったのかその真実を知ることができる。

執務机の上には書類がまだ残っていたが、ここで切り上げた。

「聖獣の間に行ってくる」

その一言ですべてを察したアスルは部屋を出るルークについてくることはなかった。

その足でクリスタラーゼ城にある聖獣の間へと向かう。

クリスタラーゼ領はもともと聖獣が棲みついている土地だ。冬には雪が降って作物は育てられない場所ではあるが、春から秋にかけては作物の栽培と収穫が可能な豊かな土地でもある。

ずっと人が住めない聖獣の領域だった場所を、クリスタラーゼの初代が聖獣に認められ契約を結ぶことで街を作り、畑を耕して作物を収穫する生活を手に入れた。

人々は作物を育て収穫すると、その恩恵をもたらした聖獣に感謝する。年に1度秋に収穫祭が行われ、ここではそれを聖獣祭と呼んでいる。聖獣に感謝し称える祭りだ。

そして、この地を治める者はクリスタラーゼの血筋でなくてはならない。当主となった者は聖獣に報告し、当主として認めてもらう必要がある。当主の決め事には聖獣が関り、結婚相手も聖獣が認めなければ結婚することができない。

当主への縛りはそれなりにあると思うが、そのおかげで領民は豊かに生活していくことができている。

聖獣の間は城の一番い奥にある。

その場所だけが城の外壁と同じ石を積み上げただけの見た目が神殿のような構造になっていて、使用人は許可なく近づくことができない場所だ。

誰も手入れをしているわけでもないのに、聖獣の間だけはいつも精錬とした空気が漂い、埃など存在しないように綺麗な空間になっていた。

目の前に大きな石造りの扉が見えると、ルークは片手で軽く押した。

それだけで簡単に扉が開いた。

他の者では重い扉になるそうだが、聖獣に許された者だけは簡単に開けられるという。ルークも中に入ることを許されている証拠だ。

部屋の中は中央に聖獣が降り立つための台座があるだけで、他には何もない。見上げた天井は高く、光を生み出す魔法石がはめ込まれているようで、聖獣の間全体を淡い光が降り注いでいた。

「聖獣ホルケウ」

真っ白な毛に覆われた狼姿をした聖獣ホルケウ。

クリスタラーゼが契約を交わした聖獣の名だ。

だが、ルークの呼び声に台座には姿が見えず、静まり返った空間だけだった。

「まだ、当主として認められていないから無理なのか」

ルークは親族を集めて次のクリスタラーゼ当主として決議された。それは人間たちの都合であり、聖獣には関係ないこと。

部屋に入ることは許されていても、当主としては認められていないということだ。

聖獣に認められるためには、新しい当主としての儀式を行わなければならない。

そこで当主として認められれば、聖獣の間で聖獣を呼ぶことが可能になるのだ。

「火事の真相がわかったら、儀式の準備だな」

ライラから話を聞ければすべてわかるだろう。彼女が火事にどんなかかわりを持っているのかで、彼女の今後の立場も決まってくるはずだ。

「また来ます」

静かな聖獣の間にルークの声だけが響く。

再び軽く感じる扉を通って部屋を出て行ったルークは、静まり返った空間に真っ白な毛に覆われた狼が音もなく台座に降り立ったことを知る由もなかった。



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