一話 始まりの日
企画書が甘かった(遺言)
――首都エインから遠く離れた町シチナではその日、祭りが開かれていた。その地で崇められている神様に感謝をするこの行事は1年の中で最も大切な日だ。
『始まりの神』そう呼ばれている一柱の神がこの地に誕生した日であり、この世界が作られた日であり、人間を含むすべての生命が創られた日でもある。
その日に人々は神に感謝するために毎年祭りを開いている。町には様々な屋台が広がり、多くの客でにぎわっている。その道の真ん中に青年と、その妹が手を握りながら歩いている。
青年の名はギルア・ラーク。歳は十六で身長は年齢の割に小さく、クセのない黒髪に赤い瞳をしている。彼の手は幼い少女の手のひらを決して離さないように握っていた。
少女の名はクロエ・ラーク。ギルアの家族、妹だ。クロエは兄から決して離れまいとくっついて来る、クロエの髪はギルアとは正反対に艶のある銀髪のショートボブが大変美しく、しっかりと毎日手入れされていることが見て分かる。クロエは人混みが苦手らしく、周囲の屋台に目を向けず、ずっと地面を見たまま兄の手の引かれるままに歩いている。
それを見兼ねたギルアはクロエに「クロエ、今日は一年に一度のお祭りだよ。屋台に行けば色んな美味しいものが食べられる。だからそんなに怖がらなくていいんだ」 と話しかけるが、それでもクロエは離れようとしない。彼は少し困った後、”ハナビ”が打ち上げられるらしいことを思い出す。彼はクロエに「もうすぐ綺麗なハナビが沢山見れるらしいんだ。高いところに行けばもっと綺麗に見えるだろうから、ここを少し離ようか」と話したらクロエは少しほっとしたように頷き、ギルアの顔を見上げて「……分かった。おにいちゃん、今日はお祭りについてきてくれてありがとう。一人で行くのは怖かったから、うれしかった」と話しかけると頬を赤らめて顔を下げた。昔からクロエはあまり友達を作らず、一人で遊んでいるところをよく見ている。そのため最近は彼女の笑顔を見ることがあまりなかったのでギルアは安心した。
少し屋台から離れたあと、突如目の前に自分の影が鮮明に現れた。恐らく後ろでハナビを打ち上げ始めたのだろう。クロエに「一緒に見ようか」そう言った瞬間光がより一層強くなった。
後ろを振り向くとそこにはもう今日は落ちたはずの、巨大な『太陽』があった。