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「こっちは3機捉えてる。カンナの方はどうだ?」


『──同じかな。でもこの空域って漂ってる岩塊も多いから見落としがあるかも。初期化されちゃったマップデータのこともあるし、データリンクだけは切らないでね』


 跪いた姿勢でアカシを迎え入れた黒銀のGH(ギアーズヘッド)──〈ヤタガラス〉のメインシステムを起動させつつ、同じく純白のGH〈フローラ〉に乗り込んだカンナと通信を繋ぐ。


 全天モニターの一辺に映し出された僚機のコックピットカメラには、つい先ほど出会った少女、セツナもしっかりとシートベルトに固定されて相席している姿も映っている。

 傍から見れば強制的な連行に近い行為に不安を覚えなくもないが、あの場で放置した方が危険だったのは間違いない。結局、セツナの保護者が現れなければ何の意味も為さない話なのだが……。


「──っ、11時の方角! 岩礁帯の陰だ! 近接1の射撃2、全機『片脚ナシ』だ。気を引き締めていくぞ」


『了解!』


 三次元レーダー上の光点が赤く明滅し、アイカメラがよく見慣れた機影をモニターに映し出した。



 〈廃機ロストマシン〉。《ギアーズヘッド》に於いて撃破すべき相手、いわゆる敵エネミーだ。

 その姿形には様々なバリエーションがあるが、どの〈廃機〉にも共通している特徴として、全身が朽ち果て赤く錆ついていること。そしてどの機体も四肢、もしくは頭部の何れかを喪失した状態で出現することが挙げられる。



 ほとんど廃機スクラップ同然の状態でプレイヤーに襲い掛かってくるが、だからといって全てが御し易い相手なわけではない。更に妙なことに、敵としての手強さは損傷具合に反比例して強力な敵性エネミーと化す調整が成されている。

 今回の場合であれば、「片脚破損のみ」は、2番目に弱いエネミーということになる。無論、普段の俺とカンナであれば取るに足らない雑魚敵だが、果たしてそれが今も変わらない現実であるか見極めるため、ペダルを強く踏み加速する。



 ──ALERT──



 戦闘の口火を切ったのは、最後尾に位置する射撃タイプの廃機だった。

 原色の赤を灯すアイカメラが明滅、肩に担がれた二門の砲口がこちらに向き、莫大な熱量を伴うビームが空域を一直線に切り裂いた。


 彼方の距離からでも感じ取れる明確な殺意。熱烈な歓迎を受けた俺は、ロックオンアラートの警告が出た時点で既にレバーを傾け、回避行動をとっていた。


 姿勢制御用のスラスターが点火。強烈な推進力が〈ヤタガラス〉の巨躯を強引に縦方向へ回転させる。

 ──直後、僅かに高度を下げた〈ヤタガラス〉の背面すれすれを熱線が掠め、空を切る。


 最低限の回避で敵機の火線を抜けた勢いそのままに機体を加速。足を止めないまま右肩に装備した磁力砲(ガウスキャノン)の安全装置を解除。レールに沿って腰にマウントされたキャノン砲の照準を──砲撃タイプの廃機に合わせ、トリガーを引く。


 スパークを迸らせた超電導弾が蒼い燐光を曳いて飛翔し、先程まで廃機がいた空間を超高弾速の物理エネルギーと衝撃波が薙ぎ払う。しかし、牽制も何も無しの射撃に被弾するほど廃機の戦闘用アルゴリズムは弱く設定されていない。

 砲撃タイプの廃機は、かなりの余裕を持って弾丸を回避し──



 ──その先を灼き尽くす熱線に呑まれ、爆散した。



「ナイス」


『当然。タゲは取りに行けないけど、トドメは任せて』


 〈ヤタガラス〉よりも更に後方から、低速での巡航中に陽電子収束砲での狙撃を成功させたカンナが不敵に笑う。

 牽制射を回避したエネミーと射線軸の偏差を予測しての置き射撃。タッグにおける最も基本的な連携を完璧にこなしてピースを決めたパートナーに、苦笑しつつもサムズアップで返す。異世界転移やら突然の襲撃やらの不測の事態に陥ってもパフォーマンスを落とさないあたり、彼女の肝っ玉は十二分に太い。


「残り2機。先に高度を上げた方を狙う」


『オーケー、任せた!』


 返事と同時に、莫大な電力を充填した光学兵器の熱線が立て続けに戦場を引き裂く。

 掠めるだけで致命傷に至るビームを廃機は危なげなく回避するも、今度は蒼い実弾が回避先に飛来して直撃、派手な爆発を起こして残り一機に数を減らした。


 先程とは役割を入れ替えるだけの、単純だがPvEに於いては効果的な連携によって二機を撃破し、そのまま俺は下方に位置する最後の敵機へと肉薄する。


(白兵戦の調子も確かめておかないと……な!)


 ガウスキャノンを背部に戻し、入れ違いで特殊合金製の大剣を抜き放つ。

 〈ヤタガラス〉の全高にも匹敵する実体剣を軽く振って、機体に掛かる負荷、遠心力による重心のズレなどゲーム時代との差異を確認。斬り上げと突きの動作時に多少の鈍さは感じるが、誤差の範疇だと割り切り、さっさとケリを着けるべく廃機に切っ先を向ける。


 急降下。急接近する〈ヤタガラス〉に反応して、赤黒いレーザーサーベルを構えた廃機も上昇、迎撃の構えを見せた。


 しかし、トップレベルに改造(カスタマイズ)されたプレイヤー機とNPCの動かす機体とでは、そもそも出力が違う。

 加えて、高低差、重力を味方にした位置エネルギーの暴力は圧倒的だった。


 スラスター全開。加速をも利用した出力任せの回転斬り。


 その暴虐の嵐を、廃機は真正面から受け止めようとレーザーサーベルを振り上げ、──弾け飛んだ。


 銀の残光を描く大剣がレーザー刃を出力機構ごとへし折り、錆だらけの装甲を砕き、ジェネレーターを圧壊させ、赤錆のフレームを真っ二つに断ち切った。

 斬り抜けた〈ヤタガラス〉の後方で盛大な爆炎が空を彩り、レーダー上に最後まで残っていた光点も消滅する。



(……アラート無し。ひとまず周辺の廃機は片付け──



『──アカシっ、下!!』



 ──ALERT──



 カンナの警告と機体のアラートがほぼ同時。それよりも早く〈ヤタガラス〉の姿勢を翻し、雲海を突き抜け飛来した赤いレーザー弾を回避する。


「っ、まだいるかよっ……!」


『結構いるよ!?』


 次々と雲越しに撃ち上がる無数の光条に、舌打ち混じりに回避を続ける。

 ビーム・レーザー系の武器は距離による威力の減衰が激しく、更には雲という障害物を無理矢理押し退けている。この高度差であれば被弾しても大したダメージは受けない筈だが、しかし連続で被弾すれば盾も装甲の耐久も削れるし、何より下方から狙ってくる連中がこの距離を維持したままとは到底思えない。


(だがこの弾幕、10や20どころの話じゃ……!?)


『な、何、アレ……?』


 射撃元である低空域へと視線を向けたアカシとカンナ、そしてセツナは、悍ましい光景の広がる眼下に目を見開いて絶句した。



 猛烈な熱量を凝縮したエネルギー弾によって割れた雲海の裂け目。その隙間から覗くのは、──無数の赤い光点、廃機(ロストマシン)の群れがじっと自分等を見上げる光景だった。



(この光点一つ一つが、全て廃機ロストマシン──!?)


 直後、獲物を見定めた無数の赤い瞳が一斉に点滅する。


「──っ、退くぞ!! カンナは先行しろ!」


『う……うん!』


 カンナの駆る〈フローラ〉が〈ヤタガラス〉の脇を抜け、一対の翼型バーニアから青白い焔を迸らせ加速する。強烈なGに少女セツナが耐えられるか不安だが、この空域を離脱するために悠長な事はしていられない。

 せめてもの援護として、彼女らが安全に退避できるよう自身が殿となってその場に滞空する。


 左肩部の大型防盾でレーザー弾を防ぎ、磁力砲で焼け石に水の牽制射を叩き込む。雲海の裂け目から爆炎が巻き起こるが、やはり撃ち上がる弾幕の数が減る気配は全くない。

 幸いにも廃機は浮上、追撃に来ない。それを確認した俺は無駄撃ちを早々に切り上げ、機体を翻してカンナ機を追い掛ける。


(追っては来ない……? ただこの数、俺らだけじゃどうにもならない)


 アレを殲滅するとなれば、少なくともトップランカーで固めた五機編成のGH小隊を五組と補給拠点を兼ねた戦闘艦一隻、──大隊規模の戦力が必要だろう。それでも今見えている範囲の廃機を殲滅できるかどうか、だ。

 仮に、雲海の下が全て廃機で犇いているなんて話になれば、ゲームの仕様がどうこうという話ではなく、全GHパイロットを総動員して対抗し得るかどうかの「災害」だ。


 それは最早、俺自身が差配できる範疇を超えた話になる。知人をかき集めれば頭数は揃えられないこともないが、彼らにも所属するクランの都合がある。この大惨事の最中に無所属の俺が救援を乞う手段は取りにくい。

 そもそも、全体マップが消失した状況下で、目当ての彼らを探すこと自体が難しいかもしれないのだ。そうなると、あの廃機の集団の殲滅は現実的とはいえないのかもしれない。


(どうにかするのは、結構後の話になりそうだな……)


 レーザー弾の有効射程距離から無事に離脱して尚、背筋に走る寒気は中々取れなかった。

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