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________





 《ギアーズヘッド》。ファンタジー系VRMMORPGが次々と乱立する2050年代後半にリリースされたロボットアクションオープンワールドタイトルは、顧客のニーズに沿ったタイトルを提供するゲーム業界において一際異色の存在感を放っていた。


 コアな人気を有するとはいえ、それ自体が人を選ぶジャンルなロボット物。

 人間が冒険者になりきって手足を動かすのに比べ、遥かに複雑な操作方法。

 難易度の高いFPS(一人称視点)方式。これまた難しい三次元戦闘を要求する《戦場(ステージ)》。


 しかし、ロボゲーが敬遠される主要な理由のそれらすらも置き去りにする特徴が《ギアーズヘッド》には存在した。



 それは、──舞台が浮遊大陸(ファンタジー)だったこと。



 ──ヴァージナム粒子の力場で浮かぶ浮遊島と、それを囲む蒼穹を戦場として人型飛翔兵器〈GH(ギアーズヘッド)〉を駆り、廃機(ロストマシン)との終わり無き戦火に身を投じる──


 ロボゲー愛好家が混乱するあまりにもあんまりな世界観設定と、その衝撃を遥かに上回るゲームとしての完成度の高さこそが、《ギアーズヘッド》を人気タイトルの一角たらしめていた。


 3周年記念に同時接続数が5万人を超え、活気に満ち溢れた《ギアーズヘッド》はしかし、唐突に、15万人の消失を伴って呆気なく終焉を迎えた。







 ________





 俺、──岩戸いわどあかしは、全身を苛む鈍い疼痛に目を覚ました。


「……痛っ」


 確か俺はフルダイブ式のロボゲー《ギアーズヘッド》をプレイしていた筈だが、いつの間にか寝落ちしていたらしい。気を失う直前の記憶があまり判然としないが、自動的にゲームから切断されていないことを鑑みるに、そこまで長い時間眠っていたわけではないのだろう。

 身体が怠い。そして鉛のように重い。思わず顰めた顔に手を這わせようとして、その手が固いグローブに覆われていることに遅まきながら気付く。


 覚えのない上等な肌触りの手袋を訝しむも、一度それに対する疑問を傍に退ける。そして己が置かれている状況を把握するため、身を起こそうとして……失敗した。


「……ああ、成程」


 寝惚けた頭と、薄暗いコックピット内部故に気付くのが遅れたが、先程までの自分は天地が逆転した状態で眠りこけていたらしい。身体に完璧にフィットした椅子にシートベルトで縛り付けられ、天井から吊るされた滑稽な格好が、今の俺の状況だった。


(道理で。そりゃあこんな姿勢で寝ていりゃ身体も痛くなるに決まってる)


 そこまで考えた俺は、はてと内心首を傾げる。

 この非日常的な状況に置かれながらも、俺はその原因について一つだけ心当たりがあった。しかし同時に、それだけでは説明のつかない疑問点もあり、尚更この不可解な現状に拍車をかけていた。


『ちょっとアカシ! 生きてるなら返事をしてよ!?』


 その思考も、突如として繋がった通信によって中途半端に遮られた。

 聞き覚えのある舌っ足らずな女性の声に若干の安堵を抱いた俺は、首を巡らせて無事を報せる応えを返す。


「……カンナか。悪い、ちと意識が飛んでたみたいだ」


 声の主は神奈カンナ

 父親が北欧出身のハーフで、日本に越す前から日本サーバーに本アカウントを置いて活動していた酔狂な女性プレイヤーである。

 何でも留学前の日本語の勉強中に偶然β版〈ギアーズヘッド〉を体験プレイする機会があり、そのままハマってしまったらしい。

 そこで欧州サーバーを選ばず、日本サーバーを躊躇わず選択するチャレンジャー精神こそが、彼女を上級傭兵(トップランカー)たらしめる根源と言えるのかもしれない。


 出会ったのが現在と比べプレイヤー人口が少なかった稼働初期で、必然的に小隊を組む回数が多かったこと。そして偶然にも留学予定先が俺の通う大学で話が弾み、それなりに気が合ったため、3年経った今も少なくない頻度で出撃する仲になっていた。


 今日も当日任務(デイリーミッション)である廃機(ロストマシン)撃墜のノルマをこなすために組んで移動中だった、が……あれ、それ以降の記憶が……ない?


『気がついた!? いきなりヤタの姿勢が崩れて墜落し始めた時はほんっっと心配したんだから! もし島に落ちてなかったら、奈落・・の底に真っ逆さまだったんだからね……』


「マジか……」


 寝落ちからの墜落死とか洒落になっていない。それと、地面に落ちた際の衝撃で爆装が誘爆しなかったのも運が良かった。


「すまん、ちと眩暈がするから一度外に出て休んでも良いか? 風に当たりたい。……まあこのゲームはそこまで再現してないが」


『……ちょうど良かった。私もさっきのこと、相談したかったから』


「……さっきの?」


 とりあえずいつまでも宙ぶらりんの姿勢でいるのは辛い。操縦席の手摺の裏に設けられたスイッチを押し込み、システムごと落ちていた自身の乗機〈ヤタガラス〉を再起動させる。


 ピピピピ……


 無機質な電子音が狭い空間に響き、それに呼応するようにして己の置かれた空間の電子機器が次々と起動する。


 幾つかあるモニターの一つを引き寄せ、機体のフレームに重大な損傷がないかざっと確認した俺は、いつもの調子で頭と水平位置にあるフットペダルを踏み込み〈ヤタガラス〉を起こしに掛かる。幸い腕部も問題なく稼働し、俯せの状態から片膝を付かせた姿勢へ持っていくのに、さほど時間は掛からなかった。


(損傷は……うげ、頭部バルカンに不具合か。コレが無いと〈廃機(ロストマシン)〉の掃討なんてやってられないんだが……)


 ただ、墜落して武装が一つ使えなくなっただけで済んだのは僥倖だった。大破した場合の修理費はとても無視できるような額ではなく、任務の開始直後にノースコアで墜落しようものなら間違いなく大赤字で、暫くショックで寝込んでいたかもしれない。


 幸い、撃墜数のノルマは小隊で共通化されている。バルカンの修理費くらいは自分で稼ぐにしても、大半の敵はカンナに受け持ってもらうしかないだろう。


 幾つかの必要なモニター以外を閉じ、残したモニターに映る設定項目をイジると、暫くの後に小さな駆動音を伴って正面のハッチが開く。射し込む光に目を細め、コックピットから身を乗り出そうとしたタイミングで、証は猛烈な向かい風のあおりを受けた。


「っ、……か、風?」


 思わぬ突風に、段差へ足を掛けていた俺は面食らう。

 五感没入型のVRゲームである《ギアーズヘッド》だが、視覚と聴覚、それに触覚とGHの操縦に影響を及ぼす感覚については現実リアルとなんら遜色のない精度で再現されている一方で、戦闘と関わりのない要素はかなり端折られている。




「風」も、システム上のデータとして手が加えられている物理法則の一つだ。

 例えば、機体そのものは風の影響を受ける。ブースト移動一つとっても、向かい風を受ければ速度が落ちるし、逆に追い風であれば速度は上がる。他には燃料消費の効率にも多少影響したりする等、上級者向けの要素である。


 一方で、武器やモーションはその影響を受けない。

 銃弾や砲弾が風に流されることはなく(重力の影響は受ける)、ミサイルといった誘導兵器も向かい風に突っ込んで減速したりはしない。


 等々、戦闘に関してはシステム的な配慮が加えられているが、運営はメインコンテンツではない「生身での活動中」における感覚にそこまで拘らなかった。

 パイロットは猛吹雪のステージや乱気流吹き荒れる高高度の上空にいたとしても、常に無風のまま過ごしていられる、──はずだった。




 コックピットから身を乗り出し、寸秒躊躇いつつも昇降用のワイヤーに足を掛ける。重量を感知したワイヤーが自動的に繰り出され、多少グラつきながらも丈の短い草で覆われた地面に無事降り立つことができた。


「アカシ! 大丈夫? 頭を打ったりしなかった?」


 妙にしっくりくる靴裏の土の感触に首を傾げていると、菫色の髪を側頭部で一つに纏めた女性──カンナに声を掛けられた。


「いや、問題ない。それよりここは……〈バッセルトン〉近郊の浮遊群島だっけか?」


 現実リアルと同じ青い瞳が、憂鬱げに揺れる。

 彼女はどこか落ち着かない様子でしきりに周囲を見渡し、視界を遮る木々と、浮遊島の端を朧げにする雲海を見下ろすと、自分自身も半信半疑といった体で頷き返した。


神様(・・)の話が始まったのが、出撃してから3分も経ってないタイミングだったから……多分そうだと思う。でもフィールドマップの表示が初期化されてて、正確な座標まではわからないの」


「なん……なんだって?」


 マップデータ消失の情報に顔を顰め、──何やらロボゲーには似つかわしくない、とんでもない台詞が聞こえた気がして思わず尋ね返す。


「俺の聞き間違いじゃなきゃ、神様なんて言葉が聞こえたような気がするんだが……」


「私もそう言ったわ。アカシだって聞いたでしょ、あのお話」


 困り顔のカンナに嘘を吐いているような雰囲気は、ない。

 北欧育ちの彼女は家族ぐるみでの敬虔なクリスチャンだ。宗教色の薄い日本のベッドタウンで生まれ過ごした俺と比べ、神に対する認識にズレがあるのだろう。


 しかし、幾ら何でもこの世界(ゲーム)で神なんて存在は明らかなミスチョイスだ。

 浮遊大陸・島のように多少はファンタジックな世界観こそあるものの、本筋はロボット物、──SFの世界である。そこへ神様がしゃしゃり出て来られても……反応に困る。

 そして自分には、そんな怪しげな存在と会話した覚えがなかった。


「いや、聞いてない。移動中に気を失って、そっから眼を覚ますまで何もなかった。夢もみてないな」


「ホント? 喚び寄せた全員に語り掛けてますって言っていたけれど、……不具合かな?」


「神様が不具合って洒落になってないぞ。……で、そいつは何を話していたんだ?」


『全員』という言葉に不穏な気配を感じ取るも、今は目下の異常事態が何であるか把握しておきたかった俺は彼女に話の続きを促す。

 もっとも、この手の都市伝説を好き好んでいた俺は薄々察してはいたが……それでも半信半疑で、「冗談だろう?」という心情の方がよっぽど強かった。


「ふふ、聞いて驚かないでね。何と神様はね──


 まるでなぞなぞ(・・・・)の答えを教える子供のような、茶目っ気たっぷりの笑顔を湛え、カンナは俺の予感が正しいものであることを告げた。


「私たちを含めた15万人を、異世界召喚したんですって!!」






 …………………………15万、人?





 ________




「じゅうご、まん……?」


「うん。そう言ってたよ」


 あまりにも馬鹿げた桁の数字に、アカシは視界が真っ暗になったような気分を味わった。

 15万。下手な地方都市の人口を超えた数のプレイヤーが、異世界に連れ去られた? ……冗談にしてはタチが悪過ぎる。


 ただ、カンナの期待を隠しきれていない笑みからして嘘ではないのだろう。そういえば彼女も異世界召喚系の物語を好いていたなと、特に驚く風もなく己の愛機を見上げる彼女を頭の痛い気分で眺める。


「どうしたのアカシ。本物の《ギアーズヘッド》の世界に来られたのに、そんな浮かない顔して」


「本物、ねぇ……」


 この際、元がゲームである筈のギアーズヘッドに、鏡写しの異世界が存在し得るのかどうかは置いておくとして。とてもじゃないが手放しに喜べるような状況では、ない。


「カンナ、今日の同接(同時接続者数)が何万人だったか覚えてるか?」


「え? ええっと……あ! 3周年記念で5万人を越えたって運営の発表があったよね。……あれ?」


 俺の出した問いにさらりと答えたカンナも、遅まきながらその違和感に気付き、顔を青褪めさせる。

 ──幾ら何でも多過ぎるのだ。




 《ギアーズヘッド》のアカウント登録者数はおよそ100万。しかしこの中にはアカウント登録こそしたものの、雰囲気が合わず辞めたゲーマーが星の数ほど含まれている。悲しい哉、数十年経って尚、ロボゲーは人を選ぶジャンルから脱せずにいるのだった。


 兎も角、それでも《ギアーズヘッド》はアクティブユーザーの多い部類のタイトルである。いちプレイヤーである自身が贔屓目に見積もったとして……およそ7、8万人がほぼ毎日、もしくは定期的に遊んでいるとしよう。


 では、残りの8万人を超えるのプレイヤーは、一体どんな存在として呼び出されたのか。




「一番ヤバい案件の『そもそも何処から喚ばれたのかわからんプレイヤー』を除いたとしても、だ。運営が存在しないとして、誰がこれからのことを纏める? 誰が大規模戦の勝敗判定を決めるんだ? 俺らを召喚した神様とやらがやってくれるのか?」


「それは……」


「既存のゲームモードは機能しなくなっている可能性だってある。例えそうでなくても、対戦ゲームでバランス調整が行われないなんてことになれば……わかるな?」


 万が一にも制限の無い戦いが起きてしまえば、それはつまり戦争だ。この世界で撃墜された場合、そのまま死ぬのか復活するかはまだ不明だが、……一度火が点いてしまえば際限なく戦火が広がる可能性もゼロではない。


 それは、危険過ぎる。


「──ま、この世界の先行きも大事だけどな。とりあえず先に俺らの身の振り方を決めておこうぜ。多分今の俺たちって、宿無しの戸籍無しだろ? 日が暮れる前に街に着けなきゃ野宿だぞ、きっと」


「あ……そっか」


 正直、俺一人なら野宿でも操縦席で寝ても全然構わなかったが、女性と行動を共にしている今、それを提案するのは流石に自重した。


「巻き込まれたのはわたしたちだけじゃないもんね。早めにチェックインしておかないと部屋が全部埋まっちゃうか、も……」


「そういうことだ。……つってもここがバッセルトン群島のどこかってことしか判ってないし、まずはそこからだな。

 確か救難用の信号弾があった筈。何色だったか……。……カンナ?」


 気付けば、カンナの青い瞳が大きく見開かれていた。その視線の先は、──俺の背後?


「……アカシ。あ、あの子……」


「あの子?」


 指差された先へ振り返り、思わずギョッとする。


(な、こ、子供……?)


 ──擱座した俺の愛機、〈ヤタガラス〉の足元に、見覚えのない少女が倒れていた。


 墜落した際に轢いてしまったのかと背筋が一瞬凍り、いやそれは有り得ないと自身に言い聞かせ、動悸を落ち着かせる。


 もしも墜落したGHと人が接触してしまえば、間違いなくバラバラに四散する。となればその後、それも俺とカンナが機体を降りた後に近寄ってきたのだろうが、……そもそもどうしてこんな場所に一人でいるのか。


 妙な焦燥感に駆られ、倒れた少女の側に駆け寄る。

 傍目から見てもこれといった外傷は見当たらず、一先ず胸を撫で下ろす。そして間近で改めて少女を観察している内に、カンナが別の疑問を零した。


「……この女の子、こっちの子かな?」


 少女の姿は、あらゆる意味で俗世からかけ離れたものだった。


 混じり気無き絹のような白髪。人形と見紛う整った寝顔に、傷一つない白磁の肌。しかしその完成された肢体を隠す衣は、所々が解れる薄汚れたボロ切れのみ。

 高貴とも罪人ともとれるその儚げな姿に俺とカンナは思わず唾を呑んで暫し立ち尽くしていた。


「──多分そうだろうな。アバターメイクでの身長設定の下限を余裕で下回ってるし、貫頭衣のコスチュームも見覚えがない。この子は、こっちの世界で産まれた存在だろう。

 まあ、『何故ここにいるのか』までは俺にもサッパリだが……」


 暫く押し黙り、絞り出すようにしてカンナの問いに応えを返した。


 パイロット本人の体格差が戦闘に直接起因することのない《ギアーズヘッド》にも、一応サイズ制限は存在する。

 3メートル級の巨人(ファットマン)や100センチ以下の童女に合わせられるような操縦席の基礎設計が為されていない、というのが開発運営からの回答である。真偽は兎も角、実際に140以下のキャラメイクが不可能な状況で、目の前の少女は目測120弱。設定下限を優に下回っている。


「バッセルトン群島域に、人が住めるような土地なんてあったかな?」


「……いや、流石に覚えてない。だがこんな場所に少女が一人なんて異常以外の何でもないだろう。とりあえずこの島だけでも散策して、他に人がいるか確認しておくべきか……?」


 囚人が纏うようなボロ切れの服から推測される、彼女がどのような扱いを受けていたかは一度置いておくとして、親……保護者の有無は確認しておくべきかと周囲を見回す。


 変わらず見通しの悪い林に、霧が漂う悪環境だ。とても人が踏み分けて歩けるような足場は無い。唯一歩けそうな場所といえば、──〈ヤタガラス〉の巨躯に木々を薙ぎ倒され抉れた、巨大な墜落跡だった。


「……ぅ、……ん」


「あっ、目が覚めたみたい」


 喜色交じりの声でカンナは少女の側に跪き、その華奢な肢体を抱き起す。少女は身動ぎする程の気力も無いのか、なすがままに力なく項垂れた。


「…………ぅ」


「大丈夫? どこか痛かったりしない?」


 生気のない翠色の双眸が左右に揺らぎ、俺とカンナを見る。そして幾度か瞬いてから小首を傾げた。


「……誰?」


「わたし? わたしはカンナ。それでこっちの目つきの悪い方がアカシよ。どっちもギアーズヘッドのパイロットをやってるわ」


「目つきが悪いは余計だ。──君はここに住んでいるのか? 俺たちはここに着陸した後に君が一人で倒れているのを見つけたんだ。近くに家族か保護者……一緒にいた人がいないのか?」


「……わか、らない」


 ここが何処か知っている人間がいれば良いなとダメ元で尋ねてみたが、少女の返答はあまり芳しくない。まあ、知ってた。


「そっか。じゃあ自分のお名前はいえる?」


「……セツナ」


「セツナちゃんね。セツナちゃんはどうしてここに──


 カンナが問い掛ける最中、──空気そのものを揺さぶるような不協和音が浮遊島全体に響き渡った。


 咄嗟に耳を塞いでしまうほどの不快な異音に、林に潜んでいた鳥達が一斉に散っていく。小動物もゲームではいなかったなと、改めて《ギアーズヘッド》とは似て非なる世界なのだと実感しつつ、まだ身を竦めているカンナとセツナに手を貸して立ち上がらせる。


「な、なに……?」


「カンナ、俺が前に出るからこの子を頼む。激しい機動を取る俺よりそっちの方がまだGの負荷も軽い筈だ。軽い牽制射に留めて狙われないようにな」


「うん。でも大丈夫? 今はもうゲームじゃなくて……現実、なんだよ? 墜とされたらどうなるのかわからないのに、戦うなんて……」


 そうか、そういえばそんなリスクも有るんだったな。

 確かに、爆散しても両断されても十数秒で拠点から再出撃できたこれまでとは勝手は違うだろう。しかし、残念ながら俺にとってそれは戦場に立つことを躊躇する理由にはならない。


 寧ろ血肉が沸き立つような昂奮で唇がへの字に歪み、この上なく軽い気分で〈ヤタガラス〉の昇降ワイヤーに脚を掛けた。


「任せろ。ゲームやら現実やらに左右されるつもりはない」

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