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073 魔動車の中(上)

 魔動車の中は静かだった。

 あれから、魔法職の三人は必死な表情でこねこねを続けている。

 狼人のヴォルクと熊人のオルソは三人の邪魔にならない小声でとりとめのない話をして過ごしている。


 俺とディズは実験に取り組んでいた。

 先ほどのこねこね講座の際に、魔力の新しい使い方を思いついたのだ。

 それが実際に上手くいくか、ディズに協力してもらって、試したいたのだ。


「どう、かな?」

「バッチリね。これでどれくらい込めているの?」

「ほんの……ちょっと」


 うん。思っていた通りだ。

 これなら、この後の戦いでも、使えそうだ。


 後は二人にも――。

 ヴォルクとオルソにも協力をお願いすると、二人とも快諾してくれた。


 実験を繰り返してるうちに、魔動車は予定通りに進んで行き、ウルドの森まであと一時間というところだ――。


 俺は少し前から【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】を発動している。

 まだ、ウルドの森はその探知範囲外だが、そろそろ、探知範囲内に入る。


 いったい、森でなにが起こっているのか――。


 あと数分でそれが明らかになる。

 魔動車の足は速い。

 それでも、俺にはあと数分がじれったく感じられた。


 やがて、そのときが訪れる――。


「なっ!?」


 驚きのあまり立ち上がってしまった。

 立ち上がらずにはいられなかった。


 金属鎧フルプレートがぶつかり合う音に、みんなが振り向いた。

 俺が立ち上がったことで、魔動車は揺れたが、すぐにそれも吸収してしまう。

 その高性能ぶりを賞賛したくなるが、今はそれどころではない。


「どしたの、ロイル?」

「いっ、いや……」


 他のみんなはまだ気づいていない。

 彼らに伝えるべきか否か。

 いや、


「ウルド、森……入り口……探知……した」

「この距離でか?」

「師匠なら余裕ですっ!」

「まあ、ロイルならね」

「でっ、どうだった?」


「オーガと騎士……戦ってる」

「数は?」

「騎士は……五百人、以上」

「オーガは?」

「百体、くらい……全部……変異種、だと……思う。騎士……押されて、る」


 探知網に引っかかったモンスターはオーガらしいけど、俺が知っているオーガとは少し魔力が違う。


「変異種オーガが百体だっ!?」

「なんじゃと!?」


 おかしい。

 森の中にいるオーガは多くても2、30体だ。

 しかも、全部が変異種。

 これはとんでもないことが起こっているな……。


「ルナール、サンディ、お前たち、こっから魔法攻撃できるか?」

「できるわけないじゃない。バカなの、ヴォルク?」

「私もムリです。遠距離魔法といっても、5キロが限界です」

「まあ、そうだよな……」

「ですが、師匠なら」

「ロイル様なら」


 サンディとルナールが顔を赤らめて俺を見る。

 ラカルティも見ていたが、リザードマンは顔色が変わらないので、どんな表情なのか、いまいちつかめない。


「ロイルの魔法なら届くよね?」


 当然といった調子でディズが言う。

 門番時代にはサラクンからウルドまで魔法を飛ばしてたと伝えてある。

 ここからもちょうど同じくらいの距離だ。


 だけど……。


「うん……届く。でも…………乱戦……だから」


 先日のトレーニングで魔弾のコントロールは格段に上達した。

 命中精度も高まったし、威力調整も問題ない。


 だが、それでも、敵味方が入り乱れている中で狙いをつけられるほどではない。

 俺は首を横に振った。


「そうだよな。まあ、気にすんなよ。できないのが当たり前なんだから」

「そうじゃそうじゃ」

「そうです。それでも師匠は十分にスゴいです!」


 俺が落ち込んだのを察してか、みんなは励ましてくれた。


「ところで――」


 ヴォルクが話題を変えようと口を開く。


「森の中はどうなってる?」

「まだ……範囲外……」

「クソッ。じれってえねなあ」


 ウルドの森は広く、直径10キロメートルほど。

 この距離では、俺の【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】でも入り口の辺りまでしか様子がわからない。

 魔動車がもう少し近づかないと……。


「どうやら、思ってた以上にピンチみてえだな」

「そうじゃな」


 重く沈みそうな空気を払拭するかのように――。


「まあ、このメンツなら大丈夫だろ」


 ヴォルクが軽く言ってのける。

 根拠のない自信かもしれない。

 だが、不思議となんとかなりそうな気がした。

次回――『魔動車の中(下)』


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