066 サラクン5:ヒダント砲
案内役の部下とともに、ゲララと眼鏡は駐屯地のはずれ、ヒダント砲の設置場所へ向かった。
騎士たちにとっても興味があるのだろう。
そこにはすでに部下たちが集まり、輪を作っていた。
ほとんどの騎士は気にしていなかったが、一部の騎士は説明できない不安を感じていた。
ウルドの森から伝わってくる不穏な気配。
大きな脅威が迫っているかのように。
彼らは上官であるゲララに伝えるべきか悩んだ。
もし、ゲララではなくまともな上官が相手であったら、進言しただろう。
しかし、相手はゲララ。
憶測を伝えたところで殴られるだけ。
こちらの意見など耳を貸さない。
それを知っていたので、部下は自分たちの不安を胸の内に留めることにした。
ゲララと並ぶ眼鏡の男。
彼はちらりと森に視線を向け、小さくうなずいた。
輪を抜けた二人はヒダント砲に近づく。
「いやあ、やっぱりヒダント砲はカッコいいねえ。男のロマンだよ〜。ゲララくんもそう思わない?」
「ちゃんと仕事してくれればな。いざというときに動きませんじゃ、ただの置物だ。女神像でも置いてた方がよっぽどマシだ」
「いやあ、面白いこと言うねえ、ゲララくん。コメディアンにでも転職した方がいいんじゃない?」
「…………」
失礼な発言だが眼鏡はまったく頓着していない。
天然なのか、わかった上でやっているのか。
いずれにしろ、ゲララの怒りはボコボコと煮えたち、沸騰寸前だった。
「いいから、早くやれ」
「いやあ、せっかちだねえ。普段激務なんだから、たまにはのんびりさせてよ」
このままだと眼鏡を殴ってしまいそうだ。
ぎゅっと拳を握りしめ、なんとか堪える。
この怒りは、しっかり返してやるからな。
バテリ切れが原因でないことは既に確認済みだ。
ヒダント砲が故障した。それしか考えられない。
故障の責任を追求し、徹底的にいたぶってやる。
決意に目を赤く燃やすゲララに背を向け、眼鏡はヒダント砲の傍らに座り込む。
すぐ横には眼鏡が持ってきたカバンが置かれている。
カバンからタブレットのような板状の魔道具を取り出すと、ケーブルでヒダント砲とそれを接続する。
「いやあ、魔道具いじりは最高だねえ。いつもは雑用ばかりでなかなかいじらせてもらえないからねえ。しかも、相手はヒダント砲だ。腕が鳴るねえ」
眼鏡はフンフンと鼻歌交じりで、魔道具を操作していく。
「いやあ、やっぱり、バテリは問題ないね」
「ああ、それは部下に確認させた」
「いやあ、よかったねえ。もし、バテリ切れだった、君、これもんだよ〜」
眼鏡の奥の瞳を細め、手で首を切る仕草。
浮かべたままの笑顔の底知れなさにゲララは思わず後ろに半歩さがる。
「いやあ、だって、そうでしょ。無能な人間なんていらないでしょ」
「…………」
「いやあ、心配しなくてもいいよ。君の代わりはちゃんと魔道具が務めてくれるからね。のんびりスローライフを楽しめばいいんじゃない」
あははと乾いた笑い声が響く――。
それからしばらく操作を続けた後、眼鏡が顔を上げる。
その顔には笑みが浮かんでいた。
「いやあ、やっぱり、どこも壊れてないよ?」
次回――『サラクン6:原因』




