062 こねこね講座(中)
「……原因…………わかっ、た」
「本当ですか?」
「う、ん」
原因は把握した。
でも、上手く説明できるか、それが問題だ。
「……泉……水…………」
「????」
俺の言葉にサンディはきょとんとしている。
他の人も同じ表情だ。
「うっ……うっ……」
ダメだ。
しゃべろうとすればするほど、言葉が出てこない。
うろたえた俺がディズを見ると、彼女はにっこりとうなずいた。
「私が通訳するよ。ロイル、頑張ってっ!」
「う、ん」
助かった。
やっぱり、頼りになる。
彼女の助けがあれば、なんとか伝えられるかな。
問題なのは、俺のコミュ障ぶりが明らかになって、さっきまでの強キャラムーブがハッタリだったとバレてしまうことだ。
でも、まあ、しかたない。
やっぱり、無理はするんじゃないな。
俺はまだまだ、主人公にはほど遠いようだ……。
「……身体は、泉……魔力……水……」
「えーと、身体は泉で、魔力はそこから湧き出る水。そう考えればいいのね?」
「う、ん……。そのまま…………同じよ、に……あふれる」
「そのままだと全部――」
ディズは俺のとぎれとぎれの言葉を継ぎ合わせて、ちゃんとした説明へと組み立てていく。
泉の外縁が均一だったら、泉の水はすべての方向に同じように溢れる。
今のサンディはこの状態だ。
体内で生成される魔力は、湧き出る水のごとく、少しずつ外に漏れている。
「穴……あれば…………」
「泉に穴があれば――」
泉にひとつ穴を作れば、水はそこから流れ、川となる。
まずはこの穴を作る。それが最初のステップだ。
サンディは先ほどの言葉通り、体内で魔力を巡らすことはできてる。
身体の内部での魔力操作は問題ない。
だが、体外での魔力操作はできない。
全身から自然に流れ出るままだ。
出口をひとつにしぼり、流れ出る魔力をコントロールしなければならない。
俺がやっている魔力こねこねをするには、それを極限までコントロールする必要がある。
しかし――。
魔力の出口をしぼる。
それだけでは不十分。
「それだと……出力……足りない…………」
穴をあけただけでは、そこから流れる魔力は微量すぎる。
かといって、やみくもに大量の魔力を流せば、穴は壊れ、魔力は霧散してしまう。
泉から流れる川が氾濫してしまうように。
体外への放出をしぼりつつ、出力をあげる。
矛盾するふたつを同時に行わなければならないのだ。
俺はこの感覚をつかむのにしばらく時間がかかった。
それでも、俺よりもはるかに優秀なサンディなら、俺よりも早く習得できそうだ。
やり方を知らなかっただけで、教えたら一発でマスターしてしまうかも。
さて、どうなることか――。
俺は再度サンディの手に触れる。
やることはシンプルだ。
自分であけられないなら、俺があけてやればいい。
小さすぎず、大きすぎず。
適切なサイズになるように慎重にサンディの魔力流に干渉していく。
手応えを感じた俺は手を離す。
「えっ、これっ……」
彼女の指先から細く流れる魔力のすじ。
他の人にも見やすいように、俺の魔力で赤い色をつける。
言葉はなかったが、皆の驚きが空気を通じて伝わってきた。
まだまだ細く頼りないサンディの魔力はすぐに拡散してしまった。
「あっ……」
「だい、じょぶ……今の、で…………成功」
魔力をとどめるまではいかなかったが、穴を開けることには成功した。
自然と拍手が沸き起こる。
「すっ、スゴいですっ!!!」
「……どう、だっ……た?」
「普通に魔法を使うときと同じように、身体から魔力が吸い取られる感覚ですっ! でも、魔法陣も詠唱も使っていないのに……。やっぱり、師匠は最強ですっ!」
サンディは飛び上がりそうな勢いだ。
「なんか、すげえ場面に立ち会ってしまったようだな」
「歴史的瞬間ですな」
「私にもできるかしら……」
「吾輩も…………」
みなの興奮が伝わってくる中、俺はサンディの言葉を転がしていた。
吸い取られる?
同じ感覚?
魔法陣?
詠唱?
バラバラだったピースがカチリと嵌まる――。
あっ……!!!
俺は今の言葉で閃いた!!!
閃いてしまった!!!!!!
次回――『こねこね講座(下)』




