053 呼び出し(下)
「じゃあ、本題に入ろうか」
ガラップの言葉に、浮かしかけていた腰を下ろす。
ディズは動揺した様子もなく、ニコニコ笑顔を浮かべている。
「本当はBランクに上げてやりたいところだが、Bランクになるためには目立った貢献が必要だ――」
別の話が始まるかと思って身構えたが、ガラップはまだ冒険者ランクの話を続けている。
いったい、この話はどこへ向かうんだろう……。
ガラップは上体を前に倒し、目を細める。
「たとえば、スタンピードをひとりで片付けてしまうとかな」
いきなりの言葉に、ギクッとする。
慌てて表情を引き締めるが、バレなかっただろうか?
ディズが言うには俺は感情が顔に出やすいらしい。
ガラップは黙って俺を射すくめる。
背筋を冷たい汗が流れる。
だが、視線をそらすわけにはいかない。
心が折れそうになる静かな戦い。
屈しそうになった俺に、隣から助け舟が――。
「あははっ。ギルマスは冗談もうまいんだねっ」
ディズはプレッシャーを物ともせず、笑顔を弾けさせる。
「スタンピードをひとりで? そんなの、ムリに決まってるよっ」
とても演技とは思えない見事な態度。
当事者の俺でも、「そりゃそうだ」と同意しそうになる。
「――そうか、俺の勘違いだったようだな」
ガラップは目元をわずかに緩め、背中をソファーにあずける。
なんかよくわからんが、二人の間でなんらかの駆け引きがあったようだ。
「そこで、お前たちに依頼だ。それをクリアしたら二人ともBランクだ」
俺たちにとっては、願ってもない提案だが――きっと一筋縄ではいかなんだろう。
物語だと、この後、厳しい戦いが待ち受けている展開だ。
現実では、どうなるんだろうか?
「サラクンの街が危ない。かつてないほどの大規模スタンピードだ」
まさか……とは思わない。
新聞を読んだときの嫌な予感が当たってしまった。
通常では考えられない、弱小獣モンスターの行動。
なにかの前触れではないかと感じていた。
だが、サラクンにはご自慢の魔道具がある。
騎士をクビにして導入された優秀な魔道具たちが。
だから、俺はあまり心配していなかったのだが……。
ガラップに続いて、フローラ嬢が説明を始める。
「サラクンを治めるディマイオ伯爵から当家に救援要請がありました。そこで、冒険者ギルドと協議した結果、当家麾下の騎士とともに、冒険者を何名か派遣する運びとなったのです」
なるほど。
フローラ嬢はこのために同席していたのか。
「そして、当家としてはお二人にも参加していただきたいのです。無理にとは言いませんが」
いつも親しげな態度とは違い、伯爵令嬢らしい話しぶりだ。
「この依頼、受けるか?」
なるほど、話がつながった。
伯爵家にお願いを聞いてもらった以上、無下にするわけにもいかない。
だが、サラクンか……。
複雑な思いだ。
「ロイル、お前の過去は調べさせてもらった」
鎧はサラクン騎士団の装備品。
それにこの体格。
調べれば、すぐにたどり着くだろう。
しかし、やけに早いな。
俺が冒険者登録したときから調べられていたのかもしれん。
「事情が事情だけに、断っても構わん。お前の好きにしろ」
俺は……。
騎士団はどうなってもいい。
だけど……街に住む人間は別だ。
とくに深い付き合いをした相手はほとんどいない。
それでも、15年も過ごした街だ。
それに下宿先の老夫婦には恩がある。
横目でディズを見る。
視線が交わり、ディズは小さくうなずいた。
「うけ、る」
「そうか、では、午後1時に顔合わせだ」
きっと俺たちと一緒に派遣されるのは優秀な騎士に、トップクラスの冒険者たちだろう。
彼らとの共闘か。
胸が高まる展開だ。
ようやく、主人公らしくなってきたぞ!
次回――『顔合わせ(上)』
明後日の投稿です。




