051 トレーニングの日々
朝食を済ませた俺とディズは冒険者ギルドに向かい、Eランク依頼をいくつか受ける。
依頼受注は俺の役目。
まだまだぎこちなかったが、昨日よりは上手にできたと思う。
今日もモカさんは優しく微笑んでくれた。
その後、サスの森に向かいトレーニングに打ち込む。
残念ながら、今日も大した進展はなかった……。
一方、思う存分戦えたディズは満足顔だ。
夕方になり、俺たちは今日も解体場に向かう。
ウルスには昨日以上に驚かれた。
今日はBランクモンスターの死体もあったからな……。
そして、その晩、俺とディズは伯爵邸を訪れていた。
フローラ嬢からは「いつ遊びに来るの?」と催促されていたところだし、俺たちも伯爵にお願いがあったのだ。
伯爵は俺たちのお願いを快く引き受けてくれて、美食と美酒を味わいながら、楽しい時間を過ごした。
相変わらず会話には加われなかったけど、不思議と疎外感は感じなかった。
伯爵家の人柄とディズのコミュ力ゆえだろう。
その後、「遅くなったので泊まっていけば」との誘いを受け、ふかふかベッドで眠りについた。
そして、三日目。
今日も朝から森に向かい、トレーニングに勤しむ。
この二日間、ひたすら出力を抑える練習をしてきたが、完全に頭打ちだ。
どう頑張っても9割程度までしか威力を下げられない。
俺は壁にぶち当たっていた。
魔法を強くする修行をしてる主人公はたくさん見てきたが、まさか魔法を弱くする修行をすることになるとは……。
俺の思い描いていた修行とはなんか違う……。
――やったッ! ついに弱い魔法が撃てるようになったぞッ!
とか、全然カッコよくない……。
そういうわけで、いまいちやる気がでないが、この壁を乗り越えない限り、憧れのダンジョン攻略もできない。
俺は気持ちを入れ替える。
――ロイルなら、きっとすぐできるよっ。
ディズの言葉と笑顔を思い出しながら、俺はトレーニングを始めた。
今日は違う方向性で試してみようと思う。
そのまま【すべてを穿つ】の出力を下げようとするのではなく改良するのだ。
今の俺に使える魔法と組み合わせたり、新たな魔法を開発したり。
思いつくはしから試してみようと思う。
これで上手く行けばいいんだが――。
――そして、日も傾き始めた頃。
俺は2メートルほどの距離から、木に向かって腕を伸ばす。
大丈夫。この感覚なら、きっと上手くいくはず。
何度か失敗したが、ようやく調整のコツを掴んだ。
今度こそ――。
『――――』
俺の指先から魔弾が飛び出す。
小さく弱々しい魔弾だ。
これなら、きっと――。
魔弾は木にぶつかり、穴を作る。
直径3センチにも満たない小さな穴を。
深さも数センチ。
「よしっ、やっっったああああああ!!」
思わず大声で叫ぶ――。
「ごほっ、ごほっ、ごほっ」
慣れないことをしたので、むせてしまう。
そして、喉が痛い。
ともあれ、ついに俺は課題を克服した。
これなら、ダンジョンに潜れるっ!
――俺もスライムを倒して魔石を入手できるようになったよ。
他の人に言ったら、「……うん、頑張って」と呆れられる話だ。
だけど、俺にとっては大きな大きな進歩だ。
俺は全身で喜びを噛みしめる。
しばらく歓喜に浸っていたが、俺は気を引き締める。
普通の冒険者だったら、ここで満足するところだろう。
いや、そもそも、普通の冒険者だったら、こんなトレーニングしないか……。
ともかく、俺はここで満足したりしない。
まだまだ、完成にはほど遠い。
魔法とは、望みの効果を出せるようになって、それでようやく半分完成だ。
まだ、残りの半分が残っている。
むしろ、ここからが本番。
今まで以上の努力と集中が必要だ。
なにせ、まだ、魔法の名前も詠唱も決まっていないのだ。
せっかくの新魔法。
正確に言えば、【すべてを穿つ】の改良なのだが、【すべてを穿つ(改)】では味気ない。
たっぷりと時間をかけて、本気で考えないとな。
今夜は興奮して寝れないかもな……。
「ただいま〜」
余韻に浸ってるとディズが戻ってきた。
大物を狩れたのか、スッキリとした顔をしている。
「すごい大声が聞こえたけど、もしかして?」
「う、ん」
「すごいじゃないっ!! 明日はダンジョンだねっ!!」
「う、ん!」
ディズは我がことのように喜んでくれる。
俺もディズが喜んでくれて嬉しい。
「それにあんな大声、出せるんだね。ビックリしちゃった」
「うれ、しくて……つい…………でも……のど……いた、い」
「あははっ、声がかすれてるよ」
少ししゃべるだけでも喉が痛い。
俺の衰えきった声帯はスライム並みの耐久力だ。
そっと【大いなる生命の息吹】で喉を癒やす。
「じゃあ、帰ろっか」
「う、ん」
森からの帰り道、足取りはこの三日間で一番軽かった――。
次回――『呼び出し(上)』




