019 冒険者の洗礼(上)
前半は第三者視点、後半はロイル視点です。
冒険者登録を行っているロイルとディズ。
彼らは気づいていなかったが、酒場中の視線が二人に集まっていた。
昼間っから酒場で飲んだくれているのは、今日が休日の冒険者たち。
酒を飲んでリフレッシュするのが主目的だが、彼らにはもうひとつ酒場でたむろしている理由があった。
「よお、ミゲル。今回はハズレだな」
「わはは。ご愁傷さま」
「ツイてねえな。ははは」
ミゲルと呼ばれた禿頭の男に、周囲から同情半分、からかい半分の声がかけられる。
ミゲルはロイルと同年代のベテラン冒険者。
この年まで冒険者を続けられただけあって、数々の死線をくぐり抜けてきた。
並大抵のことでは動じない彼が、冷や汗を垂らしながら、受付カウンターの二人から目を離せないでいる。
少女の方は高貴な顔立ちに、トップクラス冒険者が身に付ける最高級装備。
しかも、下ろしたばかりの新品だ。
そして、男の方は、見たこともない巨体。
年季の入ったフルプレートアーマーで身を包み、その手には冒険者には不向きの長槍。
知らない者からすれば、どう見ても貴族の令嬢に護衛の騎士だ。
女性は珍しいが、やんちゃな貴族の次男坊、三男坊が冒険者の真似事をするのはよくあることだ。
護衛の騎士に守られて、弱ったモンスターを倒すだけ。
ハイキングみたいなダンジョン探索だ。
大抵はすぐに飽きるか、逃げ出すか。
一週間後には見かけなくなるだろう。
ただ――。
「可愛いお嬢ちゃんはともかく、あのデカいのはヤバいだろ……」
つぶやくミゲルは冷や汗が止まらなかった。
「ビビってんのか?」
「ああ……悔しいが、認めるよ。ちっ、ツイてねえ……」
「やめとくか?」
「アレなら逃げても誰も文句言わねえよ」
「そういうわけにもいかんだろ…………ハア」
責任感の強いミゲルは逃げ出したくなる気持ちを抑えて立ち上がり――ロイルたちのもとへ足を運んだ。
そんな中、酒場の奥で一人の魔法使いの女がロイルを見て震えていた。
普段は隠しているロイルの魔力が、緊張のあまり、周囲に少し漏れていたのだ。
普通の人には気づかれない微量な漏れだ。
だが、彼女だけが、それに気づいていた。
「なに、あの魔力量。信じられない……」
彼女はこの街一番の魔法使いサンディ。
魔力と魔法に関しては、この街で彼女の右に出る者はいない。
優秀なサンディは漏れてくる魔力だけで、ロイルの魔力量の底知れなさを感じ取っていた。
彼女より、そして、彼女の師匠よりも多いと思われる魔力量を持つ男。
そんなバケモノの出現に、サンディは震え上がっていた。
◇◆◇◆◇◆◇
「よお、お二人さん」
俺とディズが冒険者登録を済ませたところ、男に声をかけられた。
おっ、イベントだ。
待ち望んでいたイベントにドキドキする。
胸糞なイベントじゃないといいな。
年は俺と同じくらい。
歴戦の冒険者だろう。
使い込まれた皮鎧。
腰には長剣を差している。
「今、登録したばかりだろ?」
「うん。なにか用?」
しゃべれずにいる俺の代わりにディズが応じる。
本当なら、俺も対応しなきゃいけないのに……。
ディズには頼りっぱなしだ。
情けない思いだが、口は動いてくれない。
「俺はミゲルっつーモンだ。二人に用がある。新人への洗礼ってヤツだ。ちょっと顔貸してくれ」
「うん、いいよ!」
ミゲルは少し声が震えている。
怒っているのか?
なにか、マズいことしたかな?
そんな俺の疑問をよそに、ディズは誘いを快諾する。
どうやら、ダンジョン行きは少し遅れそうだ……。
どこかへ向かうミゲルについて行く。
俺たちだけでなく、酒場にいた冒険者たちも全員ついて来た。
話の流れから、だいたい予想がついた。
たどり着いたのはギルド建物の裏手だった。
そこは開けた場所で、冒険者たちが剣を振ったり、魔法を飛ばしたりしていた。
予想通り、訓練場のような場所だった。
「おーい、例のヤツだ。空けてくれ」
ミゲルの呼びかけで、冒険者たちは動きを止め、訓練場の端に移動する。
中央にぽっかりと空白が出来た。
それを取り囲むのは数十人の冒険者たち。
すっかりギャラリー気取りだ。
ミゲルが空白に歩み出て、俺たちに声をかける。
「軽い腕試しだ。どっちでも良いからかかって来な」
「うん、じゃあ、私が――」
やる気満々で前に出ようとしたディズを手で制する。
フローラ嬢や伯爵たちへの応対。
不動産屋での交渉。
装備品の買い物。
冒険者登録。
全部ディズに任せきりだった。
ここでもディズに頼るようだったら、俺はただのオマケの足手まといだ。
それじゃあ、情けなさ過ぎる……。
「おれ、が……」
次回――『冒険者の洗礼(中)』




