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最後

 その惨状はまさに地獄と呼べるものだった。

 町外れの廃ビルの地下。異能の眼を持つ者達の血が部屋中を覆っていた。

 一人の少年の手により。

 一人の悪魔の手により、この惨劇は完成した。



 

 「おらおらど~したよ?その程度かオラぁ!!」


 少年はただ目の前の獲物に向かって刀を振るっていた。目の前で逃げようとするものに、猛然と立ち向かってくるものに、とにかく刀を振るった。

 ここにいる者達は全員その気になれば片手間で完全犯罪をやってのけるような力を持つものばかりだ。しかし、少年、陣の力はその誰よりも飛びぬけていた。


 「・・・これで最後か・・・・期待はずれにも程があるぜ」


 顔についた返り血を手でこすりながら俺は言った。戦闘パーティーのはじめの方についた血は既に固まりかけていた。


 「はっ、俺自身がやったって分かってるのに。こりゃ、改めて見るとおぞましい光景だこった」


 部屋中は能力者たちの血で赤黒く染まり、壁という壁には切り裂いたときに飛んだ血がついている。

 常人がこれを見たら5分で発狂するだろう。


 「いやおめでとう。よく生き残ったね」


 赤黒く染まった部屋に中年の男の声が響いた。俺をここに呼んだ張本人。隠れ屋。


 「そりゃあどうも。こいつのおかげでなんとかなったぜ」


 そう言って俺はこいつからもらった刀、夜桜を軽く持ち上げた。


 「そりゃ良かった。そいつは君にあげるよ。そいつを持ってさえいれば君はずっと君でいられる」


 「みたいだな。こいつを持ってから仁の声が聞こえなくなったから、まさかとは思ってたけど」


 「というわけで今日はこの辺で帰ってくれないかな?この死体、片付けないといけないから」


 「・・・ちょっと待て。あと一人殺したい奴がいるんだ」


 「・・・・・予想はできてるけど、誰かな?」


 「予想通りテメエだよ!!」


 俺は目の前の獲物に向かって思いっきり夜桜を振るった。

 軽く地下の壁を切り裂いたが隠れ屋には当たらなかった。


 「やっぱり僕かよ!!危ないな~!なんてことするの!死んだらどうするの!?」


 「いいだろ。テメエはどうせ殺せないんだ。だったら殺せるようになるまで殺し続ける!!」


 コイツは俺の眼の力を持ってしても殺し方が分からなかった。さっきから何度も心臓やら脳やら狙っているのになぜか直前で狙いがずれる。


 「そんなめちゃくちゃな理論を掲げられても・・・僕は殺せないよ」


 「ッ!?」


 その途端、隠れ屋の目の色が変わった。常に外にいる傍観者の目から、獲物を狙う殺人鬼の目に。


 「君がそこまでいうなら容赦はしないよ。まったく、せっかくその刀もその眼もあげたのに、親にはむかう子はいらないよ」


 隠れ屋は俺に向かって石を投げてきた。


 「そんな物に当たるわけないだろ!」


 俺は飛んできた石をかわした。

 その瞬間、空中を移動していた石が爆発した。


 「な、があ!!」


 かわす動作をしていたおかげで直撃は免れた。


 「魔眼其の一『爆死の眼』触れた無機物を爆発物にする力。そして」


 今度は俺を指指した。・・・あの動作は!?


 「っく!!」


 俺は体をひねりながら岩陰に飛び込んだ。指差した先にあった男の死体が急速に腐敗した。

 その動作を見ている間に大量の刃物が俺に向かって飛んできた。回避動作の直後だった所為で俺は避けられず体中に刃を受けた。


 「ぐっがっ!!?」


 「其の弐『腐死の眼』。こいつは知ってるね。そして今やったのが僕の目の力であり、君の力の元々の姿。『着死の眼』」


 「・・・・・・着死・・・・?」


 体を壁につけながら俺は奴の言葉を繰り返した。


 「そう。全てのものに死を与える力を与える眼。小さな刃物を操ることもできるし、誰かに似たような力を与えることもできる」

 

 「じゃあ・・・俺の眼も・・・ベリーの眼も・・・」


 「み~んな僕の力。そして最終的に君は失敗だった。一人の子に二つの眼を与えるって言う挑戦だったけど、結局は失敗。表の子は優しすぎるし、裏の君は甘すぎる」


 「・・・甘い?」


 「だって君、ここにいる奴ら。誰も殺してないでしょ」


 殺してない?そんなバカな。


 「がっかりだよ。もう君に用はない。ああそうだ。表の小書きにしてたから言うけど、今までの大量殺人は君じゃなくて僕だよ。ちょっとした工夫で学生っぽくなってね。じゃあ・・・死ね」


 隠れ屋は俺の持っていた刀を無理矢理奪い取り、そして俺に向かって振り下ろした。

 その瞬間。俺は完全な水無月仁だった。



 

                   ☆



 

 「最初の質問ですけど、なぜいつも事件にあうんですか?」


 「・・・知らん」


 そこは市内の病院だった。7階のとある病室で俺は寝ていた。横には見舞いと称して事件の取材に来た新聞部の杏が。

 あの夜。俺に刀が刺さる直前に警察が飛び込んできて、隠れ屋は警察の銃弾に当たり死亡した。俺は被害者としてここの病院に入れられた。あの場の唯一の生き残りとして。


 「・・・なあ、杏。お前には話すけど、地下室のアレをやったのは殺された奴じゃない。俺だ」


 突然の衝撃告白に杏はキョトンとした顔で俺を見ている。


 「・・・・で、次の質問ですが」


 「聞いてたのかお前!?あの場にいたやつら殺したのは俺なんだぞ!」


 「けど、仁さんは被害者って言われてるじゃないですか。だったら被害者なんです。もし本当に貴方が加害者なら」


 「私が一生貴方のそばで監視してあげます」


 杏はすうっと一呼吸してそう言った。

 俺の人生初。もしかして、愛の告白って奴か?


 「・・・・じゃ、じゃあ次の質もんづすが仁さんは休日何してチュんデスか!!?」


 言った本人もテンパってるのか言葉がめちゃくちゃだ。


 「・・・そうだな。公園を散歩したり、義妹の相手をしたりだ。ん?どうした?」


 杏が今度は唖然としていた。 

 

 「は、初めて質問に答えてくれました!しかも今まで見たことのナイ優しい微笑で!やりました!!大進歩です!!!」

  

 バンザーイ!と両手を挙げて大喜びだ。


 「今度一緒に行かないか?結構いい公園知ってるぞ」 

 

 「そ、その時はよろしくお願いします!そういえば、今はどっちのジンさんなんですか?」


 杏に訊かれて俺は少し考えた。たぶん、陣はもういない。何となくそう思った。眼の力も無くなって、俺は俺になった。けど俺は杏の質問に対し、ちょっと悪戯気分で短い言葉を返した。


 「・・・さぁな」


 

 

死線の向こうを読んでいただき、ありがとうございました。自分にもっと力があればもう少しいいものができたんじゃないかな?という思いもありますが、今回でこの小説は終わりです。これからも他の作品及び新しく出る小説を読んでいただけると嬉しいです。

 

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