堕ちていく己
無差別殺人。誰か一人を目的とするのではなく、大量の人間を殺すことを目的とした殺人。
「おにいちゃん。はやくはやく、特売品売り切れちゃうよ」
「そんなに急がなくてもいいぞ。タイムサービスがもうちょい経ってからだし」
「はやくはやく!」
「・・・わかった。ベリー急ぐぞ」
「うん!」
・・・ええっと。今現在の状況だが、母親の頼みで俺は妹といっしょにスーパーに行くところだ。
「おにいちゃん疲れた・・・」
「走り出してから1分も経ってないはずなんだけどな」
「つ~か~れ~た~~~!!」
・・・・・・・・
「・・・わかった。おぶってやるから急ぐぞ」
「わ~い」とベリーは大喜びで俺の背中に飛びついた。ったく。
ベリーと俺は本当の兄弟ではない。旧姓鬼城瞑里。元々はかなりいいとこのお嬢様だったらしいのだが、色々あって、今は俺の妹の水無月瞑里だ。
「ところでベリー」
「なぁに?」
「お前、前の家が恋しいとか思ったことはないのか?」
「無いよ」
えらくハッキリしてるな。
「前にすんでたお家はみんなベリーのこと叩いたもん。皆が旅行に行く時だって一人でお留守番してばっかりだったし」
「・・・・・・」
今改めて聞くとかなりひどい。おそらく、ベリーが言っているのもほんの一部なのだろうが。
「・・・気に食わねぇな」
「おにいちゃん?どうかしたの?」
「いや。なんでもないそれよりこっからはダッシュだ!しっかりつかまってろよ!」
「うん!!」
そう言って俺は全速力でスーパーに向かった。言葉の語尾の変化に気付かないまま。
☆
「つまり。果報は寝て待っても来るか来ないかは分からないのです!だったら動いたほうが言いに決まっています!」
「・・・で、町中事件探して歩き回れと」
「そのとおりなのです!」
ベリーとの買い物のあと、適当に町を散策していたら、しょっちゅう俺に声を掛けてくる変わり者の新聞部、武並杏につかまってしまった。
「最近一番有名なのは路地裏大量殺人です。とりあえずこれについて調べましょう!」
って、調べるもの決まってたのかよ。
「・・・路地裏大量殺人?」
「ニュース見なかったんですか?先日この近くの路地裏で大量の死体が発見されたんですよ。子音はみんな刃物による刺殺。殺された人達に共通点は少なく、無差別殺人ってことで調べられてるそうですよ」
「ほお。で、もし犯人見つけたらどうするんだ?」
「取材します!」
バカですかこの子は。
「では二手に分かれて探しましょう。何かあったら携帯に連絡下さい。解散!」
そう言うと杏は全速力で走り去ってしまった。・・・俺振り回されてばっかだな。
「・・・とりあえずその辺ぶらつくか」
俺はその辺に公園でもないものかと思いながら歩き出した。
「あ。公園。・・・とりあえず一休みするか」
俺は偶然見つけた公園に入りそこに置いてあったベンチに座った。
さすがに休日という事もあってか結構な人数の人がいた。
いろいろな噂話やら都市伝説やらが俺にまで聞こえてきた。
『ねえ知ってる?三味線って実は猫の皮でできてるんだって』
『深夜の3時33分33秒にあそこの神社の鳥居をくぐると不幸になるんだって』
『ピザって十回言ってみて』
それは都市伝説ではないだろう。
『そういえば奥さん聞きました?こないだあった殺人、あれって学生がやったらしいのよ!』
さっき杏が言ってた話しか。
『まあ本当!?』
『本当よ本当!さっき警察が喋ってるの聞いたんだけど、なんでもジャージ姿でナイフを持ってたらしいのよ!』
・・・・・・ジャージ姿でナイフ?
『『怖いわねぇ』』
・・・・・・・
「すいません。ちょっといいですか?」
俺は話をしていた奥さん方に声を掛けた。
「あらどうしたの?」
「高校の新聞部なんですけど、良かったら今の話し、詳しく聞かせてもらえませんか?」
「あら。聞かれちゃってたの?しょうがないわね何が聞きたいの?」
「まず犯人の事なんですが・・・・・」
・・・・・違うよな。
まさか・・・・あいつじゃないよな。
・・・・・・陣・・・・・
☆
その夜、俺は家族に事件があった日の俺の行動について聞いた。
何でも俺は夜遅くにコンビニへ行くと行って出かけたそうだ。
まったく記憶にない。
夜家を出たことも。コンビニへ行ったことも。
「・・・お前が全部やったのか?陣」
さあ。何のことだ?
「とぼけるな。いろんな奴に聞いたが犯人像はほぼ間違いなく俺だ。だとしたらお前がやった以外に考えられない」
なに言ってんだお前は。俺達は多重人格じゃなくて多重性格だろ?お前の意識がないなんてありえないだろ。
「ッ!!」
そうだった。俺と陣は多重性格。人格を二つに分け切れなかった中途半端な存在。
そんなに気になるなら、俺に変われ。真実が分かるとこまで送ってやるよ。
「お前を疑ってるのに人格を渡せるか」
そういうなよ。だめだと思ったら強制的に奪い返せばいいだろ?
「・・・わかった」
そうこなくっちゃな♪
そして俺は陣と入れ替わった。
「・・・さて。じゃあ見せてやるよ。真実を」
☆
俺は夜の街を歩いていた。街灯も少なくかなり暗いがさっきから目も慣れてきているのでそう難はない。
「やあ。また会ったね」
目の前に現れたのはベリーと戦ったときにも現れた中年のオッサン。隠れ屋だった。
「君と会うときはいつもそっちの子だね。こんな夜更けにどうしたんだい?」
俺はポケットからクシャクシャになった手紙を出した。
「こないだの夜。てめえが俺に渡したんだろ?言われたとおり来てやったぜ」
この手紙は事件のあった日、コイツから俺が受け取ったものだ。内容は今夜、商店街はずれの廃ビル前に来い。というものだった。
「うれしいねぇ。本当に来てくれるなんて思っても無かったよ」
嘘ばっか言いやがって・・・・。
「じゃあ行こうか。目的地はここの地下室だよ」
そう言って俺達は廃ビルの地下へと降りていった。
途中で隠れ屋がこちらを向いた。
「ああそうだ。これあげとくよ」
隠れ屋は俺に向かって1本の日本刀を投げてきた。
「夜桜。そいつの名前さ。人によってはその刀を名刀と呼び、人によっては妖刀と呼ぶ代物さ。役に立つだろう。さあ。お入り」
そして俺は地下室の扉を開けた。部屋そのものはかなり広く、100人くらい平気ではいれそうな感じがした。
そしてそこには何人もの凶暴な顔をしたやつらが集まっていた。
「彼らは君達と同じく特異な眼をもった者達だ。生き残りたかったら、勝ち残れ」
そう言って奴は扉を閉めた。なるほど。やっぱそういうつもりだったのか。
『陣、俺と変われ。何とかしてここから出る』
「うるせえ」
その途端仁の声が完全に聞こえなくなった。
これで存分に暴れられる。
「いくぜ。雑魚共!!」
そう言って俺は夜桜を鞘から抜いた。そしてこの瞬間が。
名刀が妖刀に名を堕とした瞬間だった。
突然ですがあと2話くらいでこの小説は終わります。
最近新作を書いていますので完成したら是非読んでください。