腐食魔眼
とある住宅街の一角。人目につきずらく、不良達がたむろするここで、事は起こった。
大量虐殺事件。現場はひどい有様だった。
何人もの死体が倒れ、腕や足がもげているものもあった。
そしてもっとも不可解だった点は、その死体の半数以上が腐っていたという点だった。
☆
「新聞部で〜す。学級新聞ができましたので是非読んでくださ〜い」
「・・・新聞部です。学級新聞ができたので読んでください・・・」
「仁さん。何ですかその元気の無さは!もっと腹から声を出してこう・・・・新聞部です!!新聞読んでください!!ほら仁さんも」
「嫌に決まってんだろ。大体なんで俺が放課後にこんなことしなきゃならないんだ」
「それは仁さんが新聞部に入ったからです!」
「気付いたらお前に勝手に入れられてただけだろ」
「私はお前じゃありません!武並杏という名前があるんです!」
「分かった分かった。じゃあ杏、俺はもう持ってた分の新聞配り終わったからもう帰るぞ」
「どうぞ。今日もお疲れ様でした〜」
校門前で杏が手を振っているが、俺はそれを気にもせず自宅に向かった。
しばらく歩いているといつも使っている交差点が見えてきた
「ええっと。今日はここを左に曲がらなきゃいいんだな」
俺はいつも左に曲がる交差点を、今日は右に曲がった。
他人にはこれを気分だからと言っているが、これは気分で曲がったのではない。左に行けば死ぬと分かっているからだ。
自分の死の分岐点と死の瞬間が視える特異な眼、俺はこの眼を『自死の目』と呼んでいる。
この日『自死の眼』が移したのはここを左に曲がる光景だった。だから俺は右に曲がったのだ。
ちなみに、この眼の事を知っているのは杏だけだ。先日のとある事件の後、杏にこの眼の事を話した。だから杏は知っている、ただそれだけだ。
「しかしここからどうやって帰るか・・・っ!」
突然俺の目に激痛が走った。そしてこれまで見たことの無い光景が目の前に浮かんだ。
一人の少女、崩れた廃墟、堕ちていく俺。
「・・・・今のは一体・・・」
俺は今の光景の意味も分からず、ただ歩き続けた。
☆
しばらく経って俺は路地裏を歩いていた。あの交差点を曲がってからただ気分で歩いていたらこんな道を通っていた。
「さてここからどうやって帰るか・・・・」
頭の中で現在地と帰宅方法を考えていたときだった。
物陰から人が飛び出してきた。
飛び出してきた男は体中血まみれで右腕は腐っていた。
「あう・・ああ・・・たす・・けて・・死にたく・・な・・」
泣きながら俺に助けを求めた男は全てを言い切る前に死んでしまった。
「・・・腕が腐ってる・・・これって、確かニュースに出てた」
今日の昼休み。杏との会話で話題にあがった大量虐殺事件。男の腕はその死体の特徴と酷似していた。
俺が死体を更に調べようとしたときだった。
奥の道から足音が聞こえてきた。
コーン、コーン足音は不気味なほど路地裏に響いていた。
「ひひひ・・・その人死んじゃったの?死んじゃったの?ベリーつまんない」
足音の主はまだ幼い少女だった。短く切られた茶色の髪。フリフリの服。脇に抱えたくまのぬいぐるみ。見ただけではちょっといい所出のお譲ちゃんと言ってもおかしくない。
しかし、実際彼女に会い、彼女の言動を聞き、彼女の眼を見たらそんな事は思えないだろう。
「狂ってる。としか言いようが無いな」
「ひひひひ。ベリーは狂ってなんかいないよ。ベリーはベリーだもん。あなたこそ狂ってるんじゃないの?ベリーはそう思うよ。ベリーはそう思うよ」
「同じこと二回も繰り返してる時点でおかしいだろ。・・・一つ訊きたい。コイツを殺したのはお譲ちゃん?」
「うんそうだよ。ベリーが殺ったんだよ。ベリーが殺ったんだよ」
信じたくは無かったが、やっぱりか・・・・。
「そのおじさんはね、ベリーが魔女だって言ったのに信じてくれなかったの。それでね、おじさんは言ったの「だったら魔法を見せろ」って。だから見せてあげたの!ベリーの魔法!ベリーの魔法!」
こりゃ、まともな会話はできそうに無いな。
「そうだ!お兄ちゃんにもベリーの魔法を見せてあげる!」
「なっ!?」
朽ちた建物。一人の少女。
さっきの映像と酷似している。
「これがベリーの魔法だよ!」
ベリーと名乗る少女は俺に人差し指を向けながらそう叫んだ。
それと同時のタイミングで俺は壁際まで飛び込んだ。
俺の立っていた場所の周囲にあった物が突然腐敗し始めた。
「さすがにやばいかも・・・」
「きゃははははははははは!!」
ベリーは更に奇怪な声をあげながら指をこちらに向けてくる。
そのたびに指を向けた箇所が腐敗する。
ギリギリの所で俺は物陰に隠れた。
「・・・どこ?お兄ちゃんどこ?ベリーの魔法を見て。ベリーの魔法を見て」
少女は俺を探しているようだが・・・見つかったら確実に殺されそうだ。
「さて、どうしたもんか・・・」
『俺に変われよ』
「・・・またお前か」
『いいから変われよ。そんな奴一発でしとめてやるよ』
「・・・殺すなよ」
『さあな』
「誓わないなら変わらん」
『ちっ!・・・わかった誓う』
「よし。じゃあ任せたぞ、陣」
俺は鞄からナイフを取り出し、あの女の前に出た。
「きゃは。お兄ちゃんいた。お兄ちゃんいた。ベリーの魔法見て!ベリーの魔法見て!」
「ふっ。いちいちうるさいガキだ。そんなモンに付き合う気はねえ!殺してやるよ!」
仁との約束など知ったことか!
「・・・お兄ちゃんもベリーのこといじめるの?」
「ああ」
「・・・やっぱりそうなんだ。みんなベリーのこといじめるんだ!いじめるんだ!!」
急に女の口調が変わった?さっきまでの狂ったようなしゃべり方とも違う。もっとおびえるような、怒り狂うような。
「殺してやる殺してやる殺してやる!!ベリーをいじめる奴は皆殺してなる!!!」
ベリーが手当たり次第に周りを腐らせ出した。
「くそ!これじゃ反撃がしずれぇ!」
さっきから眼に力を発動させているが一向に斬るタイミングが分からない。
「さすがにもう・・・」
「少年、そこを左にかわしな」
「!?」
うまく判断できなかった俺は咄嗟に声の通りに動いた。
「そしてそのまま逃げな」
再び声に従い、俺は全力でその場から去った。
☆
俺が走って来た場所は工場の跡地だった。
「ふう。ここまでくれば安心だよ。少年」
「・・・お前か。俺に命令したのは」
俺は俺の目の前にいる中年のオッサンに言った。
「命令とは失礼な。ただ助けてあげただけだよ。それと僕のことは隠れ屋と呼んでくれ」
それが余計だったんだ。
「君はあの少女か何者なのか知りたくないのか?」
「・・・多少の興味はある」
「じゃあ教えてあげよう。彼女は鬼城瞑里。そこそこいいとこのお譲ちゃんだった」
「『だった』?」
過去形?
「そう。お譲ちゃんの家がイイとこだったのは少々昔の話。今は廃れて見る影も無い。家庭内にも問題ありでね」
「どういうことだ」
「暴力だよ。彼女は昔から親に暴力を受けていたんだよ。しかしそんなある日、彼女は不思議な力に目覚め自分をいじめた家族を皆殺しにしたんだ」
「その不思議な力ってのが、さっきのアレか」
「そう。通称『腐死の眼』。見て指定したものを腐らせる力を持つ」
「てめえは何でそんな事知ってんだ」
「そんな事はどうだっていい。今重要なのは、どうやって彼女を止めるかだ。きっと彼女は僕らを追いかけている」
「だろうな。俺の死に場所とここはそっくりだ」
たぶんここが勝負どころだろうな。
「さあもうすぐ彼女はここに来る。君はどうする?」
「迎え撃つに決まってんだろ」
「そうか。ならがんばりなさい。ハッピーエンドを期待してるよ」
そう言って男は闇の中に消えていった。
「きゃは。お兄ちゃんいたぁ」
そして入れ替わりにベリーが入ってきた。
「よう譲ちゃん。久しぶりだな」
「久しぶり久しぶり。お兄ちゃん今度こそベリーの魔法見て、それで・・・・・・死んで」
その途端に俺の横にあったいすが腐りだした。くそ!いきなりか!
「ケドもうそんなんにゃあたんねえぜ!!今度はこっちの番だ!」
俺はナイフを構えてベリーの元へ突っ込んだ。
「・・・来ないで・・・来ないで!!」
しかし遠距離攻撃の無効のほうがやはり有利だ。なかなか近付けない。
「くっそ・・・うわあ!!」
俺は突然足を滑らせて転んだ。足元を見てみると腐った床が湿気を帯びていた。
「もう終わり」
そしてベリーは俺のすぐ傍まで近寄ってきてそう言った。
「ベリーのこといじめるからいけないんだよ。みんなお兄ちゃんがいけないんだよ」
チャンスだ。今ならこいつを殺せる確実にやれる!
俺がナイフを持ち直しベリーを斬り付けようとした時だった。
『待て陣』
(なんだ?今チャンスなんだよ!お前だって生き残りたいだろ!)
『そうだけど待て。そんで俺に変われ』
(バカじゃねえか?攻撃力の無いお前が出てなにができる?お前はすっこんでりゃいいんだよ!)
『いいから変われ。じゃないとおまえ自身の存在を消すぞ』
(てめえ・・・・死んでも後悔すんじゃねえぞ)
『ああ』
俺の意識がよみがえった時、ベリーは俺に人差し指を向けていた。
「お兄ちゃん、死んで」
もうこれしかない。俺に、仁にできる事は。
俺は両手をベリーの背中に回しそしてベリーを思いっきり抱きしめた。
「・・・・・え?」
あまりの行動にベリー自身も声が出ないようだ。もしかしたら誰かに抱きしめられるのはこれが初めてなのかもしれない。俺はそう思った。
あの男は言っていた。ベリーは昔から暴力を受けていたと。
もしそれが原因で眼が覚醒したのなら、こうするのが一番の解決策だと思ったからだ。
陣には決してできない、俺の解決法。
「つらかったんだよな。苦しかったんだよな。でも、もう大丈夫だ」
「おにい・・・ちゃん・・・」
「これからは俺が一緒にいてやる。守ってやる。だから安心しろ」
「・・・ひぐ・・・・う・・・うええええええええええええん」
ベリーの幼い泣き声が工場内に響き渡った。
家の親はとてもやさしい親で養子なんかもすんなり受けてくれるような人達だ。ベリーの事もきっと受け入れてくれるだろう。
☆
「お兄ちゃん!朝だよ!」
「ふぎゃ!」
その数日後。瞑里は本当にうちの家族になった。両親達に瞑里の事を話したら予想通りあっさりOKしてくれた。
「ね〜お兄ちゃん遊ぼうよ。遊ぼうよ」
「待て待て。せめて着替えてからにさせてくれ」
「うん!」
たく。やれやれだ。
「仁さ〜ん!遊びに来ましたよ〜〜!!」
その上杏まで・・・・今日は本当に疲れそうだ。
久しぶりに投稿しました雪無サンタです。
いかがだったでしょうか?本人的にはなかなかの終わり方だったと思っています。
ご意見有りましたらぜひメッセージを送ってください。
最後に読破、ありがとうございました!