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仁と陣

 「で、結局の所どうなんでしょうか!?」


 学校終わりの放課後、マイクを向けられながら俺は女子から質問を受けていた。


 「なんで俺が放課後に質問攻めにされにゃいかんのだ?」


 「それはあなたがあの爆破テロで生き残ったからです!水無月仁みなづきじんさん!!」


 「あっ、申し遅れました。私、新聞部の武並杏たけなみきょうと申します!」


 「知ってるよ」


 おんなじクラスなのだから。


 「それで水無月仁さん、今日はこれからどちらに行かれるのですか?」


 「家に帰るんだよ。後その流暢な敬語はやめろ、変な感じがする。あとフルネームで呼ばれるとコッチも疲れるから、名字か名前のどっちかにしてくれない?」


 「じゃあ仁さんで」


 普通は名字を選ぶと思うのだが。


 「私も同行します」


 「なぜ!?」


 「だって、部長から「ネタ仕入れるまでは付きまとえ」って言われてるんですもん。何の成果も無しに帰ったら私が怒られます」


 「怒られてでも帰れよ、こっちにだってプライバシーがあるんだぞ」


 「家に帰る程度の何がプライバシーですか。そんなの私が叩き崩してやります」


 会話になってない気がしてきた。

 たぶんどんだけ言っても聞かないだろうし・・・。


 「家着くまでだぞ」


 「ありがとうございます!!」


 やった、やったとか言ってる武並とは対照的に俺は溜め息をついた。


 


                   ☆



 「仁は歩いて学校まで通っているんですよね?」


 「ああそうだけど」


 「なるほど・・・ふむふむ・・・」


 今の質問は必要だったのか?

 

 「次の交差点、左に曲がるぞ」


 「なるほど、そっち方面に住んでるんですね」


 「いや住んでんの逆方向だ」


 「??」


 杏が首をかしげているが、まあ不思議じゃない。家とは逆方向の道を進んでいるのだから。


 「何か用事でもあるんですか?」


 「いや、ちょっと遠回りしていくだけだ」


 「遠回りですか・・・もしや!!」

 

 「??」


 「私の身体にはそれほどの価値は無いですよ!いやスタイルにはそこそこの自信が有りますが危険を冒してまで手に入れたいと思う程のものでは」


 「何をカン違いしてんじゃ妄想女」


 頭の中では一体何が起こっていたのだ。


 「ただの気分だ」

 

 ただの気分。杏にはそう言った。しかし、本当は気分ではない。分かっているのだ。あそこを左に曲がれば、自分が死ぬと。

 

 

                   ☆


 自死の眼。俺はそう呼んでいた。気がついたのは中学1年のときだ。ある日突然自分がある交差点を左に曲がる光景が視えた。気味が悪くなって俺はその日、いつも左に曲がっている交差点を右に曲がった。帰宅後、母親が血相を変えて飛び出してきた。あの交差点を左に曲がった道の向こうで事故があったそうだ。右に曲がっていなければ死んでいたかもしれない。そう思った。

 中学2年のとき、俺は興味本位で眼が写す光景の通りに進んでみた。すると、進むたびに新しい光景が目の前に浮かんだ。自分がトラックに吹き飛ばされる光景だった。恐ろしくなって俺はその場から逃げた。それ以来、眼の写す光景の通りに進んだことは無い。行けば死ぬと分かっているから。そのかわり、分かった事もある。眼の写す光景は一日に一回しか見えない。その光景の場所さえ越えてしまえばその日俺は絶対に死なないそれが分かっただけでも収穫だと俺は思っていた。


 「仁さん!聞いてますか!!」


 ビクッとしてそちらを見てみると杏が怖い顔でコッチを見ていた。どうやら質問されていたようだ。


 「悪い聞いてなかった。で、なんだった?」


 「さっきの道、やっぱり左に曲がりましょう!」


 「・・・は?」


 「私今日は左に曲がるのがラッキーなんです!ずっとモヤモヤしてたんですけど、もう我慢できません。行きますよ!」


 「おいちょっと待て。そっちはまずいんだって」


 「んなもん知ったこっちゃありません!」


 俺の首根っこをつかんだ状態で杏があの交差点に近付きそして左に曲がってしまった。

 さっきまで視えなかった光景の続きが見え始める。


 「お願いだから杏!考え直して!今ならまだ間に合うから!!」


 俺を言葉も聞かずに杏はどんどん道を進んでいった。


 

                  ☆



 銀行にいた。杏がお金が少ないから降ろしてきます。と言って俺を引っ張りながら銀行に入ったのだ。


 「私の番まであと5分くらいあるのでしばらく待っててください」


 「・・・・たんだ・・・」


 「へ?」


 「何てことしてくれたんだ!!」


 怒鳴り散らす俺を周りの奴らが驚いた顔で見ている。


 「ど、どうしたんですか仁さん!?落ち着いてください!」


 「落ち着いていられるか!お前の所為で俺は、俺は・・・・」


 怒鳴ったって今更どうしようもない。そんなの俺にだってわかっていた。でも・・・でも。


 「動くな!!」


 バン!と言う銃声とともに覆面をした男の声が響いた。銀行強盗だった。


 「客は大人しくそっちの隅へ行け!店員は大人しくこのバッグに金を詰めろ!!」


 おびえる客と一緒に俺は部屋の隅に追いやられた。


 「大人しくしていれば危害は加えない。しかし邪魔をすれば、この場で殺す!!」


 ひい!と言う声がいろいろなところから聞こえた。その時、杏が立ち上がり強盗の前まで歩いて行った。


 「なんだてめえは」


 「私立赤羽高校新聞部、武並杏」


 「取材させてください」


 客及び店員、犯人が全員こけた。


 「ああ!?」


 「だから取材させてください!これは間違いなくトップニュースです!」


 「ガキが舐めた口聞いてると殺す・・・」


 ギリリリリリリリリリリリリ・・・・・・・・・・

 店中の防犯ブザーが鳴り響き、店のシャッタ-がしまった。店員が緊急用の防犯ブザーを鳴らしたのだ。


 「誰だ鳴らしたのは!ちくしょう、てめえのせいだぞ!!死ね!!」


 犯人が拳銃を杏に向けたとき。

 誰かが投げた石が当たり犯人の手から拳銃が離れた。


 「っつ、ッ誰だ!?石を投げたのは!?」


 怒り狂った犯人が客のほうを振り向くと一人の男が立っていた。

 俺だった。


 「テメエ・・・殺してやる、殺してやる殺してやる!!」


 犯人は懐からナイフと取り出し、襲い掛かってきた。

 これが俺の死に方。杏を犯人から庇い、刺されて死ぬ。

 我ながらなかなかの死に方だ。

 さっき杏を怒鳴ったのは、どうしてこんな奴のせいで死ぬんだ、そう思ったからだ。

 しかしそんな死に方も悪くないかもしれない。


 『本当にそう思うか?』


 え?


 『お前は本当にそう思ってるのかって訊いてんだよ』


 それは・・・。


 『はっきりしろ。俺はそういう奴が嫌いなんだ。さあ訊こう、お前は死にたいのか?死にたくないのか?』


 ・・・たくない・・・。


 『ああ?』


 俺は・・・死にたく・・・ない。


 『・・・よう言った。んじゃ後は任せろ』


 任せろって・・・お前、誰だ?


 『か〜、忘れてんのかよ。俺を生み出した張本人様がよ』


 え?


 『いいか、今思い出させてやる。もう二度と忘れんじゃねぇぞ。俺の名は・・・』


 

 「死ねええええええええええええええ!!」


 強盗のナイフがすぐ近くまで迫っていた。俺はこれで死ぬのか、だが。


 「その下品な声はいただけねえな」


 そう言ってジャンプした俺は空中で体を半回転させながら強盗の首筋に回し蹴りを当てた。

 顔面を蹴られた強盗が面白いくらい吹っ飛んだ。


 「・・・仁さん?」


 俺の変貌ぶりに驚いたのか杏が声を掛けてきた。


 「仁か・・・読みはあっているが、その言い方じゃ、漢字は違いそうだな。おい杏、今の俺は仁じゃねえ。今の俺は」


 一呼吸置いて俺は名を告げた。


 「陣だ」



                 ☆



 「陣?」


 「そう、仁義の仁じゃなくて陣地の陣。分かったか?」


 「わかった!とりあえずメモとっとこ」


 「よし、それじゃあの俺の死の元を叩くとするか」


 起き上がった強盗が今度は椅子を持っている。ったくまぁ懲りない奴だ。


 「とりあえず武器は・・・あ、あいつのナイフ。まあこいつでいっか」


 「ごちゃごちゃうるせえ!!」


 椅子を振り上げながら強盗が近付いてくる。・・・無駄な事なのに。


 「椅子は振り回すもんじゃねえよ。とりあえず」


 強盗が持っている椅子をナイフで両断する。


 「置いとけ」


 強盗が唖然とした顔で俺を見ている。たしかに、普通ありえんわな。小さなナイフで鉄製の椅子を両断するなんてことは。普通は。


 「この眼、なかなかいいな。仁の攻撃力である俺にふさわしい眼だ」


 仁の眼の力が自分の死が分かるのなら、陣の眼は他人・物の死のタイミングが分かるのだ。どのタイミングでどの方向から斬りつければ物が壊れ人が死ぬか、陣の眼はそういう力なのだ。


 「んじゃ、とどめってことで」


 ナイフを強盗に刺そうとしたとき。


 「警察だそこを動くな!」


 後ちょっとの所で警察が来た。


 「ちっ、いいとこだったのによ。後は頼むぜ、仁」


 そう言って陣は俺の中に消えていった。



                   ☆



 そういえばもう何年も前の事だ。喧嘩に負けてばかりだった俺は、おれ自身にある事を望んだ。喧嘩に勝てる自分が欲しいと。力のある俺が欲しいと。そう願い続けていたある日、俺の中にもう一人の俺がいた。俺はそいつに自分と同じ名をつけた。陣という名を。


 「つまり、あの時戦っていたのは陣さんだったというわけですね!」


 「まあそう言う事だ」


 「つまり仁さんは多重人格というわけですね!」


 「いや、そういうわけじゃないんだ。仁のときも陣のときも俺の意識はある。多重人格というより多重性格といったほうがいいかな」


 「なるほど!メモメモ・・・」


 とりあえず取材的なのは受けているが、陣のことは書かないように頼んでおこう。

 あくまでも学校新聞に載る時は、強盗の現場にいた不幸な少年Aとして載ろう。

 読破していただいてありがとうございます!次回も読んでいただけると嬉しいです!

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