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17

わがまま姫の奥底の想い。

「ウェザリアの王宮で、ハヤテの侍従だったジンに紅茶を一杯いれてもらったんです。ダージリン・ザ・オータムナルというものでした。あれも香ばしくて美味しかったんですが、これはもっと華やかですね」


「ちょうどオータムナルの出始めの季節ですものね。ジンがいれる紅茶は本当に美味しいわ。悔しいけれど、コスモの王宮にあれよりうまく紅茶を淹れられる人間はいないわね」


「そうなんですか」


コスモ至上主義のティアナ殿下がそこまで認めているとは、ジンはすごいんだな。


「この紅茶はダージリン・ザ・セカンドフラッシュ。夏摘みのダージリンよ。私としては一番癖がなくて普通の紅茶だと思ってるわ。あなたのような下々の民にはこれがお似合いよ」


素直じゃないな。


言い方では俺を馬鹿にしているように聞こえるが、間違いなく気遣いだ。貴族ではない俺が一番飲みやすい紅茶をあえて選んでくれたんだ。


オータムナルが旬の時期にわざわざ夏摘みのものを。


ハヤテがティアナ殿下を気に入るのも頷ける。


「イヴァンさんは近衛騎士、ですよね? これほど強い騎士をつけてもらえるなんて、ティアナ殿下は大切にされているんですね」


ぎろり、と睨まれる。


「あなた、失礼ね」


「ふふ、すみません。なにせスラム育ちなもので」


「よく言うわ。作法もこんなに完璧なくせに。わざと私を怒らせてるのね」


よかった。作法は問題なかったみたいだ。

ティアナ殿下を真似たのが功を奏したな。


「怒らせてなんていませんよ。不躾な質問だとは理解していますが、」


「それを怒らせてると言うのよ」


「ふふ、すみません。ですが、王位継承権を持たない姫ごときにつけられるような騎士ではないような気がしまして」


「……ええ、そうね。もとは王太子殿下の騎士だったわ。だけど、お願いして、なんとか私の騎士として、、貸していただいてるの」


「なるほど」


色々と複雑みたいだな。

貸してもらってるということは、正式にはまだ王太子の騎士なのだろう。


「イヴァンさんは、もし王太子殿下とティアナ殿下が対立したとき、どちらにつくおつもりで?」


「なっ! あなた不敬よ! イヴァンになんということを言うの!」


この取り乱し様。

ティアナ殿下はイヴァンさんがよほど大事と見える。


答えを聞くのが怖いのか。

いや、答えがわかっているからこそ聞きたくないんだな。


「私は、」


イヴァンさんが口を開いた。

ティアナ殿下が一瞬肩を震わせる。


「王位継承権の高い方を優先させていただきます」


口を真一文字に結び、拳を握るティアナ殿下。


可哀想に。

ふふ、可哀想に。


イヴァンさんに鋭い視線を浴びせられた。

俺が面白がっていることがばれてしまったようだ。


王位継承権が高いものを優先すると、姫様が傷つくことをわかっていながら宣言したのはあなただろうに。

自分のことを棚にあげて、他者が姫様を傷つけるのは許せないのか。


ふっ、実に面白い主従だ。


「ならば、ティアナ殿下は、お兄様方と良好な関係を維持しなければいけませんね」


できうる限り優しく話すと、姫様が目を丸くした。


「そう、ね」


目から鱗、といったところだろうか。


ティアナ殿下がイヴァンを側に置いておきたいように、イヴァンもティアナ殿下の側にいたがっているのだと気づいていないのだな。


2人の間に壁なんて本当はないのだ。


兄妹の関係が良好である今ならなにも恐れることなどないというのに。


なぜに諦めているのか。


「ティアナ殿下、殿下の願いは叶えることのできる願いなのでは?」


「なにを言って」


「ハヤテとの婚約は解消されたのですか? 今新たに婚約者などはいらっしゃるので?」


「……正式に婚約を破棄したわけではないわ。まあ、もうハヤテと結婚することはあり得ないと思っているけれど」


「ならば、なにも問題などないではありませんか。多少強引であろうとも、あなたはわがまま姫なのですから」


「……考えておくわ」


「はい、ぜひ」


ティアナ殿下はハヤテと同い年だという。

王族であればとうに結婚し、子供が居ていい頃だ。


ハヤテがあんな感じだから、明らかに婚期を逃している。


このチャンスを逃す手はないだろう。


「シロサギは、なぜ聖パールに入学しようと思ったの?」


話題を変えてきたか。


「曇天街の中にいては充分な知識は得られない。だけど、俺は知りたかった。この世界のことをもっと。そしたらハヤテが、曇天街の人間が学べるアカデミーは聖パールくらいしかないと」


「それで本気で聖パールに入れると?」


「どうでしょう。ハヤテは、ルイくんなら絶対入学できるよ! って言ってくれましたけど。ハヤテに勉強を教えてもらったとはいえ、曇天街では必要な教材すら満足には手に入りませんでしたから」


「ハヤテが、絶対と、そう言ったの?」


「ええ」


なにか引っ掛かっただろうか。

確かにこの世に絶対などありはしないが、勇気づけるためにはそのくらい大袈裟に言うこともあるだろう。


俺はそれを真に受けてはいないし、ハヤテのその心意気は嬉しかった。


「ハヤテがなぜ曇天街に行ったか、あなたは聞いたかしら?」


「ええ。曇天街を救いたいと、そう言ってましたが?」


「そうね。私も聞いたわ。()()()曇天街を救ってみせる、と」


「ほぉ?」


それは、俺を励ますために言った絶対とは意味が違うな。

自らが目標を果たすために、強い言霊としたか。


「シロサギから見てどうなのかしら? ハヤテはその目的を果たせるとお思い?」


「曇天街は俺が救いますよ」


キョトンとされた。


「でも、ハヤテが曇天街に来なかったら、きっと俺は外に出ようとは思わなかったでしょう。聖パールの存在も知らなかったくらいです。だから、俺が曇天街を救ったとしたら、それは、ハヤテの功績でもあると思いますよ」


「そういう考え方もあるわね」


「ええ。もっと言えば、これまでハヤテを守り続けてくれたティアナ殿下の功績でもあります」


「!」


すべての結末はすべての出会いによって構成される。

ティアナ殿下が守ってくれなかったら、背中を押してくれなかったら、ハヤテは曇天街にこれなかったはずだ。


大陸の覇者たるコスモの姫との婚約を破棄するなんて、普通に考えたら十分な不敬であり、戦争の火種だ。


それなのに、いまだに両国は友好的な関係にある。


偏に、ティアナ殿下がハヤテと心を通わし、ハヤテを支え、ハヤテの夢を応援してくれたからに他ならない。


―――感謝する、心から。


感謝してるがゆえに、ちょっぴりお節介を焼いたルイなのでした。

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