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挿話 私の世界が変わった日2

前話に引き続き、ルイが連れてきたお姉さん目線のお話です。

ルイによって人生をねじ曲げられたお姉さんの新たな一歩をご覧ください。

「さて、ルイ。あなたの望みを言ってごらんなさい。ハヤテからの頼みだからひとつだけ願いを叶えてあげるわ」


ティアナ殿下といえば、城下にもわがまま姫と名が轟くお方だ。

確かに高圧的な態度ではあるが、友人からの手紙を嬉しそうに受けとる様は可愛らしかった。


この青年はティアナ殿下の元婚約者で現友人であらせられるウェザリアの王子さまの知り合いだったらしい。


わがまま姫と仲良くなった変わり者の王子の話は私も聞いたことがあったが、まさか曇天街に暮らしているとは驚きが隠せない。

そこまで変人だったなんて。


「ティアナ! 曇天街の人間相手にそんな安請け合いしないでおくれよ」


「ムーロンお兄様は黙っていて」


ムーロン殿下は店のお得意様で、とてもお優しい方ではあるが、高貴すぎるそのお立場からとても遠い人だと感じていた。

そんな殿下が妹の尻に敷かれているようでなんだか微笑ましい。


この青年はティアナ殿下に何を願うのかしら。


「ありがとうございます。それでは、こちらのお姉さんを王宮で雇ってください」


へ?


青年が私を指し示し、軽く頭を下げる。


戸惑いが隠せない。思わず青年をガン見してしまう。


「……本当に願いはそれでいいの?」


ティアナ殿下としても、思ってもみなかった願いらしく、困った顔をなさる。


しかし、青年は


「はい」


と、なんの迷いもなくにっこりだ。




「何をたくらんでるんだ? スパイを送り込もうということか?」


セナ殿下が呟く。


え、スパイ?

無理よ、無理。


王族の方々相手にそんな不遜は働けないし、第一、スパイなんてばれたら弟が騎士として働けなくなってしまうわ。


もう軽いパニックだ。


「いやあ、でもあの子はずっと娼館で働いてたからなぁ」


「……ムーロン兄上の知り合いなのですか?」


「ああ、まあ、何度か一緒に()


「んん゛ん、それ以上は言わなくて結構です」


ムーロン殿下がセナ殿下に返すのを聞いて、恥ずかしくなる。

擁護してくれるのはありがたいけれど、弟君相手になんということをおっしゃっているの。


青年がこちらをちらっと覗くのも、いたたまれない。


「いいわ。その願い叶えてあげるわ」


「姉上!」


「けれど、叶える願いはひとつだけ。これ以上は叶えないわよ」


「構いません。ありがとうございます」


そしていつのまにか話がまとまってしまったわ。


「では、あなた付いてきなさい」


姫様は立ち上がると、私に声をかけてくださった。

その後ろには無表情で怖い侍女が続いた。


本当についていっていいものなのだろうか。

立つだけ立ったものの、足がすくんでしまう。


付いていくにせよ、断るにせよ、早く行動を起こさなくては不敬にあたってしまうだろうに。


もうどうしていいかわからなかった。


「お姉さん、ちょっと耳を貸してください」


「え」


戸惑いはあったけれど、腰を折って聞く体制を整える。

正直、どうしていいかわからなくて身体が固まってしまっていた私には救いの言葉だったのだ。


「部屋を出て少したったら姫様にこう伝えてください。()()()()()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。その伝言役こそ俺がお姉さんに任せたかった役目、ということで、よろしくお願いします」


「それは」


「これで貸し借りはなしです。お姉さんは自由ですよ」


私も王子様たちも知りたがっていた何故の答え。


私には確かに役目があったらしい。

でも、これを終えれば本当に自由になれるの?


情けで連れてこられたわけでないことに安心して、自由という言葉が現実味を帯びた。


私の運命は今日、この青年によって大きく変わったのかもしれない。


「さあ、行ってください。あなたの望む場所。あなたの望む道へ」


軽く背中を押されて、私は歩き出していた。

これから先に自由があろうとなかろうと私をここまで連れてきてくれた青年に報いなければならないと思ったのだ。

役目を果たさなければ、と。





「あなた、名前はなんと言うの?」


「あ、わたくしはフィオナと申します」


前を歩く姫様が振り向くことなく名前を問うたので、慌てて答える。


「そう。では、フィオナ、今日から私の侍女としてしっかり働きなさい。リーナ、フィオナのこと頼むわよ」


「かしこまりました」


あの怖い侍女はリーナさんと言うらしい。


重厚な扉につくと、扉を守っているらしい騎士のような方々が扉を開けてゆく。


そこで初めて、姫様が振り返り私を見た。


「では、フィオナ、この私の部屋に入れるのは侍女の中でも優秀な者だけだから、ここでお別れよ。あなたがこの部屋に入れるのはいつのことかわからないけれど、私の侍女として恥ずかしくない振る舞いを心がけなさい。では、」


「あ、お待ちください!」


部屋に入ろうとする姫様を慌てて引き留める。

ここで別れるなら今伝えなければ。


「何かしら? 侍女の分際でこの私を引き留めるなんて」


「も、申し訳ありません」


ギロっとした冷たい瞳に捉えられ、この姫様が大陸の覇国の王女なのだと改めて痛感する。


しかし、役目は果たさなければならない。

果たせなければ私がこの王宮に連れてきてもらったことに報いることができない。


「ひとつお伝えしておこうかと思いまして。白鷺類はハヤテ殿下に勧められて、聖パール学園に入学しに来たらしいですよ」


「……」


必死に叫ぶかのごとく勢いで言い切った。

けれど、静寂に包まれて不安になる。


恐る恐る顔をあげ、姫様の顔を伺うと、どうやら怒っているのではなく驚いているらしかった。


よかった。


「聖パール学園ですって……?」


「は、はい」


下を向いて顎に手を添えると、姫様はうなり始める。


「曇天街の者が受かるような学校ではないと思うけど、あのハヤテが勧めたのなら可能なのかしら。それに、だとしたらウイカさんと一緒にいるのはどういうことなの。奇跡? それとも必然? いえ、ハヤテがそれを望むのなら……」


何を言ってるかはまったく聞こえなかったけれど、呟きを終えて顔をあげた姫様の瞳には強い意志が宿っているようだった。

お姉さんの名前はフィオナさんというらしいです。

これから新たな人生を自由に謳歌してほしいものです……。




あけましておめでとうございます。


嵐ファンである私は年末年始、精神的にやられてしまって全然物語が書けなくなってしまっておりました。


ただ、ようやく精神の安定を取り戻しましたので、これからもよろしくお願いいたします。

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