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15

王族の思惑を押し退ける、強き女神降臨!

「なんということだ」

「近衛騎士のテトラが、まさかやられるなんて」


騒然とする演習場に


「鎮まれ!」


ムーロン殿下の鋭い声が響いた。


「白鷺類、王族の許可もなく模擬戦で相手を殺すことはこの国では死刑に値する大罪だ。身柄を拘束させてもらう」


ムーロン殿下が剣を抜き、まっすぐ俺を指し示すと、周りの騎士たちがいっせいに剣を抜き俺を囲った。


テトラに短刀を刺したままだから、この人数を相手にするのは不可能だな。


「ムーロン殿下、誤解です。私はテトラ殿を殺してなどおりません。心臓の横を刺したのであって、内臓はひとつも傷つけていないのです」


「なに?」


「しかし、私がこの短刀を抜けば、血が溢れるように出て、ひどければ失血死してしまうのもまた事実。早く医者の手配をお願いします」


周りの騎士たちはどう動くべきかはかりかね、目を合わせあっている。


一方で、ムーロン殿下もまたテトラの命をとるべきか、俺を死刑にできる口実をとるべきか悩んでいるようだった。


セナ殿下はムーロン殿下を差し置いて自分が意見すべきではないと、静観の姿勢を貫く。



「これはいったいなんの騒ぎなのかしら」


響いた女性の声に、ちょうどいいタイミングだと思わず笑みがこぼれた。


「ティアナ」

「姉上」


例の近衛騎士を連れ、真っ赤な髪をブンと手で弾く。


「セナ、状況を説明なさい」


「はい。姉上が部屋を出たあと、ムーロン兄上と白鷺類で戦ったものの、シロサギは一切剣を抜かず、兄上も攻撃をあてられず、平行線をたどりました。そこで兄上が近衛騎士との模擬戦を提案し、テトラとシロサギで模擬戦を行ったのですが、、」


これ以上を言葉につまってしまったセナ殿下をみかねてウイカさんが口を挟む。


「テトラとやらが負けてあの様だ」


ウイカさんが人差し指で指し示す状況に姫君は首をかしげる。


「つまり、ただテトラが負けたとそれだけのことかしら?」


「ああ、問題はテトラとやらが死ぬかどうかだ。模擬戦で殺したというなら死刑に値するそうだが、彼は心臓の横を刺したのであって殺していないと主張している。早く医者を手配しろと」


「そう……。イヴァン、判断を聞かせて」


ふぅん。あの近衛騎士はイヴァンというのか。

背は高く、少し長めの茶髪に、キリッとした焦げ茶の瞳。

恐らく、この模擬戦、相手がイヴァンだったらこうも容易くはなかっただろう。



「ここで嘘をついてもメリットはないことを考えれば、心臓の横を刺したというのは本当と見るべきでしょう。それに剣が刺さったままで、血もあまり流れていないため助かる可能性は高い。であれば、すぐに医者を手配し、テトラを救っていただきたいというのが同じ近衛騎士として私の願いです」


無表情のまま、しかし口調ははっきりと告げたイヴァンに姫君は大きく頷く。


「わかったわ。セナ、早く医者を手配なさい」


「はい、姉上」


ここで騎士ではなく王子に命令するというのが、いい判断だ。

騎士たちはあくまでムーロン殿下の命令に準じてしまうのだから。


身柄を拘束するよう、言葉ではなくとも明らかに行動でもってムーロン殿下が指示した以上、それが解除されないままでは、医者を手配などしないかもしれない。


姫君がこの状況を完全に知っていたわけではなくとも、ある程度の予想はできているということだろう。


すぐに王宮の医師が来た。



「失礼しますよ」


肩まで伸ばしたクリーム色の髪に柔和な表情を浮かべている。


「王宮医師のロン・シュタインと申します。短刀はそのまま、患者を横にしていただけますか」


シュタイン……ということは、騎士団長であるルカ・シュタインの兄弟だろうか。クリーム髪だし、この優しい雰囲気もよく似ている。


言われるがまま、テトラを地面におろす。

かろうじて息はしているが、もはや意識ははっきりしない。


「では、テトラさん、少し触りますよ」


意識がない相手に声をかけつつ、両膝をついたロン先生が胸のあたりを触る。


俺も座ったまま治療を見届けることにした。


「なるほど、確かに心臓は正常に動いていますね。速すぎるくらいにちゃんと機能しています」


数名の騎士からほっとしたような声が漏れた。

仲間が助かりそうなことが嬉しいのだろう。


ロン先生は短刀に手を触れ、うーん、と唸った。


「これは抜き方によっては内臓や血管を傷つけかねないですかねぇ」


騎士たちがざわめく。

本当に素直な反応だな。


副団長が素直すぎて心配だったが、どうやらコスモの騎士はみんなそんな感じらしい。


「俺が抜きましょうか」


騎士からは睨まれたが、ロン先生は顔を綻ばせた。


「ええ、お願いします」


短刀をまっすぐ、なるべく血がでないように抜いていく。


刀が全部抜けるとロン先生はすかさず布を押しあて、止血を始めた。


「本当に内臓や血管が傷ついていないかはあとで検査の必要がありますが、とりあえずは血を止めることが先決です」


「大きな血管も傷つけないように刺しているので、すぐに止まるとは思います」


「あなた、恐ろしい剣の腕ですね。もしや能力者ですか?」


「いえ、違うと思いますが」


「そうですか。どちらにせよ、血管の位置をそこまで正確に把握できるなんて、あなた医者になるべきですよ」


「医者ですか……いえ、人を殺したことがある俺がつくべき職業ではないでしょう」


「どうでしょう。医者なんて人殺しと紙一重ですから」


ロン先生が自虐的に笑ったのを見て、この人の言ってることは本気なのだと理解した。


俺が医者になるべきと思っているのも、医者と人殺しが紙一重と思っているのも全て、ロン先生の本心だ。


この人は何かに傷ついているらしい。


「うん、止まりましたね。処置室に運んでから傷の縫合と検査をしましょう」


「ロン先生、ありがとうございます。あなたがテトラさんを助けてくれたおかげで、俺は死刑にならずにすみそうです」


「いえ、私じゃなくても止血の心得さえあれば助けられたでしょう。むしろ、テトラさんを傷つけないよう心を配ったのはあなたの功績だと思いますが」


「なんというか、ロン先生は曇天街にいてほしいお医者さんですね。きっと、曇天街のみんなが気に入ります。王宮医師をやめたくなったらいつでも曇天街に来てください」


「それは……いい、かもしれませんね」


寂しげに、でもどこか渇望する目で呟いたロン先生だった。


ティアナ王女にロン先生……。


ルイが曇天街に生きてきたことを警戒も軽蔑もしない人たちが、ルイを救う光となるのか。

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