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13

コスモ王家はみんな似てない気がします。

「では、あなた付いてきなさい」


姫君は立ち上がると、お姉さんに声をかけ扉に歩き始める。

その後ろには音を立てない優秀な侍女が続いた。


お姉さんはまだ戸惑っていて、それに素直についていくことができずに、立つだけ立って呆けてしまっていた。


姫君の護衛だろう騎士がじっとお姉さんを見つめている。


「お姉さん、ちょっと耳を貸してください」


「え」


戸惑いながらも髪を耳にかけ、腰を折り、聞く体制を整えてくれたお姉さんに、騎士に聞かれないように小さな声で話す。


「―――ということで、よろしくお願いします」


「それは」


「これで貸し借りはなしです。お姉さんは自由ですよ」


娼館から連れ出してくれた恩義など感じる必要はない。

これはただの俺のわがまま。

お姉さんのためにやったことではないのだから。


「さあ、行ってください。あなたの望む場所。あなたの望む道へ」


背中を軽く押すと、お姉さんは小さいながらも一歩を踏み出し、姫君へ付いていった。


視線を感じて騎士へ顔を向ける。


「なにか、言いたいことでも?」


「……健闘を祈る」


ポツリとひとこと。


これからの展開を見据えて、俺を心配してくれたらしい。

目付きは鋭いけど、普通にいい人みたいだ。


お姉さんのあとに続いて騎士が部屋を出たところで扉は閉められた。





「さて、」


カシャリ


ムーロン殿下が切っ先を俺の顔に向け剣を構える。


(血の気が多いな)


姫君やお姉さんの前では抜かなかっただけ、心遣いもできるらしいが。


「君はティアナに身の安全を願うべきだった」


まあそうだろうな。

だから、俺の願いにみんな驚いた。


ただこの発言は俺を軽視していなきゃ出てこない。


「ふふ、ロクサーン王太子殿下からは俺のことをなんと聞いているんです?」


ムーロン殿下は片眉をわずかにあげてから答える。


「曇天街から逃げ出したものがいるが、門が開いているときに逃げられたから追跡の魔法が使えない、と」


なるほど。つまり、コスモの人間は俺が四天王だと知らないんだな。


そうだろうとは思っていたが、、ロクサーン殿下は本当にいたずらが過ぎる。俺のこともコスモのことも引っ掻き回して楽しみたいんだな。


仕方ない。ずっと座ったままだったが、名乗りをあげるなら立つのが礼儀というものか。


かつては名乗りをあげるというのが決闘における最重要の礼節とされたらしい。それは死にゆく者が自分を殺した相手の名前を知らないのは可哀想とかなんとか、そんな物騒な理由なのだが。


なんとなくそれに倣いたくなった。



立ち上がり、胸に手をあて、


「では改めて。曇天街四天王が1人、白鷺類と申します。曇天街において他の追随を許さない圧倒的強者とされるのが四天王。その実力、しかとお見せしましょうか?」


大きく笑んでみせる。


ムーロン殿下の瞳孔が開いた。


「ははっ、最高だ! 実力、見せてみろ!」


ムーロン殿下が剣を振り下ろす―――


んっ!


――否、剣は縦に振り下ろされるかに見えた、が、急に方向を変え、横から薙ぎ払うように振られた。


とっさに背中を反り、それをよけると、今度は下から剣が昇ってくる。


(これは、すごい)


剣を振ってから次の動作に行くまでのタイムラグがほとんどない。がむしゃらに見えて、相手の嫌がる剣を追求した理知的な攻撃だ。


床に片手をつき、なんとか後ろに下がる。



「兄上の攻撃をあんなに容易くかわすとは」


セナ殿下の呟きが聞こえた。


別に容易くもないんだが、そう見えているなら何よりだ。



それからも何度か攻撃を避けていると、


「逃げてばかりじゃ詰まらないだろ! かかってこい!」


ムーロン殿下が挑発してくる。


とはいえ、さすがに王族に手を出せば、俺を捕まえ処刑する大義名分を与えてしまうことになる。いや、既にウェザリアでは指名手配されてるっぽいが、、だからといって、コスモで捕まる要素は減らしておきたいのだ。


ならばと、


「この四天王たるシロサギに剣を抜かせること、果たしてムーロン殿下にできるでしょうか」


挑発で返す。


「くっ、言ってくれる!」


(ちっ、剣速があがった!)


だが、内心焦りつつも、表では余裕綽々に避け続けてみせる。


障害物の多い部屋だからこそ、剣の軌道が絞りやすくて、次の攻撃を読めるのが幸いだ。何度も避けているうちに、ムーロン殿下の癖みたいなものも見えてきたしな。


「ちっ、避けてばかりの人間を斬るなどつまらない」


「おやぁ、だったら避けさせないよう剣を振るえばいいのでは?」


「ほんっとに気に入らない!」


さっきよりも上がった剣速だが、精緻さは欠けてきている。

ふむふむ。実に優秀だが、これがムーロン殿下の限界か。


「はぁ、わかったよ。私では曇天街の四天王には勝てないと認めよう。どうだ? その実力、近衛騎士と比べてみないか?」


剣を収めたムーロン殿下が笑みを崩さぬまま提案してくる。


「近衛騎士?」


「ああ、我が国が誇る最強の騎士たちだよ」


……最強の騎士たち?


いまいち意味が理解できてない俺を見かねてセナ殿下が補足説明をしてくれる。


「近衛騎士というのは主に王族の護衛を仕事とする騎士たちのことで、我が国では騎士団の中でも特に優秀だった者だけが就くことを許されている。ゆえに、最強の騎士たちといえるのだ」


なるほど。実に分かりやすい説明だ。

つまり、騎士団長よりも近衛騎士の方が腕は上ということなんだな。


そうか。さっき姫君が連れていた騎士は近衛騎士だったのか。

道理でかなり強そうだった。


うーん、どうするか。


俺はそこまで腕っぷしに自信があるわけじゃないからな。


だが、そろそろ歯車が噛み合う頃か……。


ならば、


「いいでしょう。この国の最強を曇天街の最強が打ち破って差し上げます」


かかってこいと言わんばかりに、手をクイクイっと動かす。


ムーロン殿下のテンション上がりまくった様と、セナ殿下の頭を抱えて落ち込む様の非対称具合が実に面白かった。


さて、歯車っていったい何のことなんでしょうね。

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