12
ついにハヤテの元婚約者、ティアナ・コスモ殿下の登場です!
セナ殿下の言葉に騎士団長、副団長をはじめとする面々が緊張感を高めたが、ムーロン殿下は髪をかきあげて嘆息した。
「いや、あのロクサーンが宣戦布告をするなどあり得ない。あの男は面倒くさがりだから、戦争なんてしたがらないだろう」
すごく残念そうに嘆息するものだから、ムーロン殿下は戦争をしたがっているのだと確信が持てた。
「なるほど……」
「実際、私は何度もロクサーンに戦争しようって持ちかけてるんだが、いつも断られるしな」
「……兄上、そんなこと言ってたんですか」
セナ殿下が心底呆れた声で、ジトッとムーロン殿下を見つめる。
やはりムーロン殿下は戦争狂らしい。
ロクサーン王太子殿下もこの戦争狂をうまくあしらってくれていたのなら、感謝しなければならないかもしれないな。
「それで? 白鷺類。お前の目的はなんだ?」
瞳孔の開ききった瞳で楽しそうに聞いてくる。
これでウェザリアと戦争をする大義名分が得られたら儲けものだと考えているんだろう。
「コスモの姫君へ、手紙を預かっているので渡しに来たんですよ」
ハヤテから預かった手紙をヒラヒラと振って答える。
ムーロン殿下は少し近づいて手紙を見ると、楓の封蝋にハヤテからだと気付いたようで、驚いた顔をした。
「ハヤテは家出したと聞いていたが……おい、まさか曇天街にいるのか!?」
ムーロン殿下の驚きに
「そんな! あり得ない!」
セナ殿下も乗っかる。
それはそうだ。王族が世界有数のスラム街に家出するとはまさか思いもしないよな。
「やはり、ウェザリアの人間は変人ばかりだな」
ウイカさんの静かでゆったりとした口調が場を鎮める。
変人ばかりというが、ウイカさんはハヤテと俺以外のウェザリア人に会ったことはあるんだろうか。
紅茶をひとくち含み、カップを置いて、ウイカさんは扉の方へ目を向けた。
「そう思うだろう? 姫様も」
はたして、その視線の先には真っ赤なドレスに身を包み真っ赤な髪をなびかせる女性が立っていた。
ムーロン殿下が来てすぐ、扉の前に気配が増えていたのは気づいていた。それが姫君だったんだな。つまりは、ずっと俺たちの話を盗み聞いていたのだ。
少しつり上がった目に、勝ち気で傲慢そうなオーラを漂わせ、あまりいい印象は持てない。
だが、
「ハヤテはこの私が認めた友人よ。有言実行は当然だわ」
どこまでも人を見下した口調ではあったが、そこには嬉々とした興奮がにじんでいた。
これがハヤテの認めた友であるコスモの姫君だ。
ハヤテが認めたなら、そういうことだろう。
そして、姫君もハヤテのことを大切にしてくれているらしい。
「ティアナ、知っていたのか?」
「なにをです?」
「ハヤテが曇天街にいることを、だよ」
ムーロン殿下の追及に
「曇天街で暮らしてみたいとハヤテが言っていたのは知っていますわ」
姫君はカラッと答える。
「止めなかったのかい?」
「なぜ止める必要が? 友のやりたいことならば応援するのが筋というものでしょう?」
ムーロン殿下の言葉を鬱陶しそうに払い、セナ殿下を押しのけて、姫君は俺の向かいのソファに座った。
その後ろには、音もなく歩く侍女と、この場のどの騎士よりも強いだろう護衛が立つ。
女性が王位継承権を持たないこの国で、よくぞここまでの力を持てたものだ。ハヤテが見込むだけのことはある。
「して、あなた。私宛の手紙を預かっているのでしょう? 早くお渡しなさいな」
俺をまっすぐ見つめる姫君に、曇天街の者に対する恐怖など微塵もない。あるとすれば、ハヤテからの手紙を読めるという喜びだけだった。
「はい、どうぞ」
素直に手紙を渡すと、姫君はまず封蝋の楓を大事そうに触り、顔をほころばせた。
そして、侍女に手紙を開けさせると、表情をコロコロさせながら楽しそうに手紙を読んだ。
なるほど、可愛らしいほどまっすぐな人だ。
いや、ハヤテが導いたのかな。
「曇天街でも楽しく過ごせているようでよかったわ。さすが私の友人ね」
手紙を読み終えたらしい姫君は誇らしそうに胸を張る。
一方で、
「曇天街で楽しくって、ハヤテはぶっとんでるなぁ。ほんと、さすがティアナの友人だよ」
ムーロン殿下は呆れかえり、
「やはり姉上の結婚相手はハヤテ殿下以外あり得ないのでは?」
セナ殿下は真剣にそう呟いている。
ハヤテはウェザリアではないがしろにされてたって聞いたけど、コスモ王家との仲は良好なようだ。姫君以外もわりと好意的に捉えてくれているように見える。
「さて、ルイ。あなたの望みを言ってごらんなさい。ハヤテからの頼みだからひとつだけ願いを叶えてあげるわ」
「ティアナ! 曇天街の人間相手にそんな安請け合いしないでおくれよ」
「ムーロンお兄様は黙っていて」
ほんと、自分より高位の王族に対してこの態度はなかなかすごいものがある。
それにしてもハヤテは手紙にどこまで書いたんだろうな。
まあ、よかった。おかげで変に交渉しなくてもうまくいきそうだ。
この姫君に願うことなんて決まっているだろう?
「ありがとうございます。それでは、こちらのお姉さんを王宮で雇ってください」
娼館から連れてきたお姉さんを指し示し、軽く頭を下げる。
お姉さんがビクッと震え、戸惑いを隠せない瞳でこちらを向いた。
「……本当に願いはそれでいいの?」
姫君は少し眉をあげて確認してくる。
「はい」
にっこりと答えれば、
「何をたくらんでるんだ? スパイを送り込もうということか?」
セナ殿下は呟き、
「いやあ、でもあの子はずっと娼館で働いてたからなぁ」
ムーロン殿下が返す。
「……ムーロン兄上の知り合いなのですか?」
「ああ、まあ、何度か一緒にね」
「んん゛ん、それ以上は言わなくて結構です」
どうやら王家御用達という娼館を利用していたのはムーロン殿下だったらしい。
お姉さんをうかがうと、恥ずかしそうにうつむいていた。
「いいわ。その願い叶えてあげるわ」
「姉上!」
「けれど、叶える願いはひとつだけ。これ以上は叶えないわよ」
「構いません。ありがとうございます」
だって、この望み以外は自分で叶えられるのだから。
実はハヤテを主人公としたスピンオフシリーズの執筆を進めています。
コスモ王家とハヤテの交流はそっちでたくさん描く予定です!
お楽しみに♪




