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11

セナ殿下の血でもって発動する魔法陣。

たどり着きたるは大陸の覇権を握る強国コスモ。

まばゆい光に包まれて、目を瞑る。

次に目を開いたときには、花々鮮やかな美しい景色が広がっていた。


真っ赤な花が多い。

コスモ王家の髪の色と同じだな。


「セナ殿下、護衛もつけずに行かれたとはなんたることですか」

「我ら騎士にも仕事をさせてください」


駆け寄ってきたのはいかつい体躯を鎧に包んだ男と、クリーム色の長い髪をなびかせる細身の男だった。


どちらも腰に剣をさし、スッと胸が張っていて、ウェザリアの王宮で見かけた騎士よりも強いのだと感じた。


「ウイカさんも、お久しぶりです。して、そちらの二人は?」


クリーム髪の男がにこやかに声をかける。

しかし、そのにこやかさの裏でしっかりと俺たちを警戒しているようだ。


「面白い拾い物をした」


「拾い物……」


クリーム髪の男はスッと目を細くする。

呆れているといった雰囲気だ。


「初めまして。私はコスモ王国騎士団、騎士団長のルカ・シュタインと申します」


ウイカさんでは埒が空かないと思ったのか、こちらに声をかけてきた。


それにしても、騎士団長とは。

どうりでな。


「こっちの大きいのは、」

「副団長のマルコフ・ナポーです、よろしく」


ふーん。


団長の紹介を遮って、本人が名乗りをあげた。

彫りの深い顔にハキハキとした声が乗っかると、いかにもまっすぐで強気な感じが漂ってくる。


団長も副団長もその立場のわりには若い。

まだ30代くらいじゃなかろうか。


「私は名乗ってもいいものですかね? セナ殿下」


曇天街の住人だと話して、変に騒ぎになったら面倒だ。

そう考えて、セナ殿下にお伺いをたてる。


「……ルカ、ムーロン兄上は王宮にいるか」


少し、顔を濁らせた殿下は無言をもってこちらへの返答とする。


「……ええ、ムーロン殿下はティアナ殿下とご一緒におられるかと」


「そうか。では、取り次いでくれ。お客人だ」


「かしこまりました」


「それから女官長も呼んでくれ。我々は第一応接間にて待つ。マルコフは護衛につけ」


「はっ」


団長が駆け出し、副団長が背後につく。


ふむ、どうやら俺が警戒されているらしい。


護衛もつけずに外にいくような殿下がわざわざ『護衛につけ』と命じたことを重く受け止めたようだ。


しかし、警戒するのはいいが、そこまで威圧されるとな。

つれてきたお姉さんが冷や汗をかいている。


「お姉さん、大丈夫です。何があっても俺が守りますから」


「いや、でも」


小声で会話しているとますます副団長の威圧が強くなる。


はあ。これは少し俺も牽制した方がいいか?


俺も威圧を返そうとしたとき、


「マルコフ。お客人だと言ったはずだ」


セナ殿下が声をあげた。

静かな声だったが、副団長の威圧がやむ。


(へぇ。見事なタイミングだ。さすがは大陸の覇者たるコスモの王族と言ったところか)


「お姉さん、真っ赤な花がきれいですね」


「え、ええ」


「なんていう花なんでしょう?」


「さぁ」


お姉さんの緊張をほぐすために声をかける。

少しずつ落ち着いてきた、かな。


そんな俺たちを見かねてか、セナ殿下が立ち止まり、


「あれは、薔薇。あっちは彼岸花。あっちはダリア。とにかくいろんな種類の赤い花を集めてきている。庭師によって1年中咲き誇るようにしてあるのだ」


説明をしてくれた。


「へぇ。すごいな。私の育った場所には花なんてほとんど生えてませんでしたから」


「……そうだろうな」


ぐっと表情を曇らせた殿下に、優しい人だと感じた。





「へぇ。このお菓子も美味しいですよ、お姉さん」


「いや、そんな、私はいいですから」


毒味したお菓子をお姉さんに薦めたが、遠慮して食べてくれない。

ソファに座るのさえ嫌がったのをなんとか説得したのだ。


「うん、この紅茶も美味しいです。お姉さんも、出された紅茶は飲まないともったいないですよ」


「いや、でも。私はマナーとかもわからないですから」


「ああ、それなら俺もわかんないですけど、美味しく飲むのが一番のマナーですよ、きっと。ね?」


紅茶に口をつけて、ニコッと笑いかけると、お姉さんも困ったように笑ってくれた。


そして、おずおずとカップを手に取り、口をつける。

ふわっと、お姉さんの顔が晴れやかになったのがわかった。


(よかった。気に入ったみたいだ)


「美味しいですね」


「はい……」


「ふふ」


セナ殿下は俺とお姉さんの会話を向かいに座って我関せずで放置していた。ウイカさんも俺の隣で足を組んで目を瞑っていた。


副団長だけがセナ殿下の後ろに立ちつつ、俺たちの会話に眩しそうな顔をしていた。


(まっすぐすぎて心配になる人だな)


もっと警戒心をもった方がいいんじゃないかと思う。


ガチャっ


扉が開くと同時にセナ殿下が立ち上がる。


「お呼び立てして申し訳ありません。ムーロン兄上」


「いや、構わないが。お客人だって?」


「はい。ウイカさんの連れの方なのですが」


立ち上がって挨拶すべきかとも思ったが、ウイカさんが立ち上がらないので俺も座ったまま顔だけを扉に向けた。


セナ殿下がムーロン兄上と呼んだ男は細身ではあるが弱くない。なにより血の匂いが染み付いている。


騎士団長や副団長はそりゃ戦場に立つのが仕事なわけだから、血の匂いがするのは当然だろうが、一国の王子がここまで血の匂いをさせているのはどうなんだろうか。


うん、人殺しの目だ。

瞳孔が開きぎみで、人を映しているようで映していない瞳。


これでセナ殿下と兄弟とは、信じられないな。


「白鷺類と申します。ムーロン殿下」


立ち上がらないまま、紅茶を飲みながら、ちょっとした世間話かのような軽さで。


「どうやらロクサーンに一杯食わされたらしいな。曇天街の人間をこのコスモに送り込むとは、やってくれる」


「は? どういうことです、ムーロン兄上」


「わからないか? ロクサーンから白鷺類について報告があがったのは今日のことだぞ。王宮の魔法陣以外にこれだけ早くコスモにたどり着く方法があるものか」


「では、ロクサーン王太子が我々に宣戦布告をしてきた、と。そういうことですか!?」


ルイの行動が国の命運を左右する事態に。

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