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本に囲まれた穏やかな日常
そして、物語が大きく動き出します…
私がルイの部屋に初めて入ってから、1週間程が経った。
その間、私はルイの部屋に入り浸っている。
それは
ひとつ、文字を教わるため。
ふたつ、本を読むため。
「読めるなら書けるようになるのも早そうだね!」
というルイの言葉のもと、わりとスパルタな文字指導が始まったのだ。
「どうせなら同時に本を読めばいいよ」という理論によりそれは本を書き写すという内容だった。
300ページほどの本をこれまでに3冊書き写した。
1冊目は『身体の不思議』という本だった。
人間の身体の中身がどうなっているか図解も含めてわかりやすく解説されていた。これは今後の戦闘に活かす余地があると思う。
2冊目は『魔法使いと能力者』という物語だった。
魔法使いと能力者の男がいて、2人とも火やら水やらいろんな術を使える。魔法使いはマナと呼ばれる自然界のエネルギーを用いて技とするが、能力者は体内のエネルギーを用いて技と為す。
この違いによってささいな喧嘩をし、2人は道を違えてしまう。しかし、独りになってようやくお互いの大切さに気づき、再び共に歩みだすという内容だ。
ルイと喧嘩をしたことはないが、今後することもあるのだろうか…とそんなことを考えた。それでも一緒にあれたらいい。
3冊目は『ウェザリア王国の歩み』という歴史書だった。
ウェザリア王国というのはこの曇天街がある国の名前だ。
この本にはウェザリア王国の成り立ちやら王家のことやら色々と書かれていたが、しかし、曇天街の名前は記されていなかった。
ただ、国の南西に大きなゴミ捨て場があり、数年に1度きれいに処理をするのだと書かれていた。
ルイに聞けば、このゴミ捨て場というのが曇天街のことらしい。
3冊読み終えて、ルイが物知りなのは本を読んでいるからなのだと理解した。
私もルイほどは本を好きになれていないが、本を読み知識が蓄えられていく感覚を、それなりに面白いと感じている。
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キラに文字を教え始めてから1週間が経った。
もともと文字が読めることもあり、その習得スピードは驚異的なものだった。
本の内容も基本的に理解できているらしく、たまにわからない言葉について質問をされることはあったが、するすると読み進めていた。
「キラ、もうそろそろ写すのはやめていいよ」
「…いいの?」
「うん、もう書けるようになったろ?」
「…うん」
どこか名残惜しそうにうなずかれた。
どうやら、もう本が読めなくなるのかと不安がっているらしい。
「ふふ、これからは読むことに集中できるね」
そう笑ってみせれば、キラはパッと明るい顔をしてうなずいた。
(本を気に入ってくれたみたいでなによりだ)
キラは頭のいい子だ。
文字の読み書きもできるし、思考力もある。
どうせならこのままたくさんの本を読んで、多くの知識を身に付けてほしい。
それがきっとキラを守ることに繋がるはずだ。
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私は文字を覚えてからも、ルイの部屋で本を読み続けている。
そのジャンルは多岐にわたり、医学書、歴史書などの実学的なものから童話、ミステリー、恋愛小説にいたるまで様々だ。
恋愛小説を読んで思ったのは、私がルイに抱いている感情は決して恋愛的な愛情ではないということ。
どちらかというと童話に出てきた家族愛に近いだろうか。
簡単に言えば、守りたい、一緒にいたい、とは思うけど、キスをしたいとは思わない。
(…なんか考えるだけで恥ずかしいな、やめとこ)
とにかく、私はルイのことを家族のように思っているらしい。
同じ家に住んでいるのだからまあそうなる。
そうそう、ルイが持ってる本の中には料理本もあった。
蒸かし芋とかステーキも載っていた。ルイはこれを参考にご飯を作っているようだ。
ただ、その本に出てくる食材のほとんどは曇天街では手に入らない。ごくたまに、くま商店に置かれるくらいだ。
曇天街で普段から手に入るのは、ジャガイモ・サツマイモ・干し肉・パン…このくらいだろうか。
北にあるゴミ山で残飯をあさる連中もいるが、それが危険な行為だと本を読んで私も知った。
食中毒とか寄生虫とか色々と身体によくない。
あと、柵を越えて外界に行き、金品や食料を盗んでくる連中もいる。外界で見つかれば射殺されかねないのでなかなかにリスキーだ。
そうやって苦労して手に入れたものも、大概は曇天街で他の奴に奪われるのだから割に合わない。
それでも、そうしなければ生きていけないのだ。
それが曇天街の住人というものなのだ。
ルイの側にいると、そのことを忘れそうになる。
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俺は家のすぐ近く、高い建物の上から曇天街を見下ろしていた。
キラと出会う前からの俺の日課だ。
曇天街がいくら空気の汚い糞みたいな街だとしても、俺にとってはかけがえのない居場所であり、守りたい街だ。
そして、俺には果たすべき役目があり、そのためにここにいる。
少し遠い路地裏、紫の服を着た5人の少年たちが死体を積み上げているのが見えた。10人分はあるだろうか。
(ちっ、街を荒らしやがって)
その日を生きるために物を奪ったり、人を殺したり。
それはこの街の当たり前で、そうしなければ生きられないのだから仕方ない。
でも、人を殺すことに快楽を覚え、無意味な殺戮をすることを俺は決して認めない。
屋根から屋根へ跳び、少年たちのもとへ近づく。
(ん、この気配は…)
後ろを振り返るとそこには同じようにこちらへ向かってくるキラの姿があった。
少し待って、キラが追い付く。
「キラ、どしたの?」
「…ルイが戦闘、モード、な感じして」
どうやら、俺の空気が変わったことに気づいて追いかけてきたらしい。
(さすが)
「ふっ」
俺は思わず笑みをこぼす。
いつも独りだったが、今は隣にキラがいる。
なんだってできそうな気がした。
独りだったルイも今はキラと2人
それがどんな変化をもたらしていくのか…




