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ルイの頭のよさ、片鱗がちょっと見えるかな。
「コスモへの道、だと?」
そう、ハヤテが王太子への手紙を俺に託したのは、兄に手紙を渡したかったというよりも、俺がコスモへたどり着くためのお膳立てのはずなのだ。
ジンへの手紙が俺のための内容だったらしいことから察すると、王太子への手紙もそうに違いない。
であれば、ハヤテは俺がコスモへたどり着くためには王太子の力が必要だと考えているのだ。
「その方法があると、愚弟が話したのか?」
「いえ、ハヤテはただ王太子殿下に手紙を届けてほしいとしか話していませんでした。でも、ハヤテは自分の願いを叶えるためだけに友人をこんな危険な場所に送り込んだりはしない人間です。ハヤテがここへ私を導いたのなら、そういうことでしょう?」
「よくもそこまで信じられるものだな。愚弟が罠を仕掛けたとか、裏切ったとかそういう可能性は考えないのか?」
ああ、そうだな。
頭をよぎらないわけじゃない。
―――でも、
「……信じるというのはそう易いことではありませんが、だからこそ一度信じたら疑わないことにしています。それに、他人を信じる勇気がでないときは、自分の目を信じればいいと考えています」
「ハハッ、ただ他人を信じてるといわれるより信用できる答えだな」
「王太子殿下には絶対の信頼をおける人はいらっしゃいますか?」
「どうだろうな」
そうは言うが俺にはわかる。
この人はハヤテの可能性を信じている。
「王太子殿下は、ハヤテに絶対の信頼を寄せているように見えます。実は、私にも一人だけ絶対の信頼を寄せられる存在がいるのです。その者に出会って初めて、信じると言うことの本質がわかった気がします。信じるとは、その人になら裏切られてもいいと思えることなんじゃないかと」
「……」
「正直、私はハヤテをその域まで信頼できてるわけではないのです。しかしながら、その私が唯一真の信頼を寄せる者が、ハヤテを信じている。私の目と、その者の目が、ハヤテは信頼に値すると判断した。だから、ハヤテは裏切らないという前提でものを考えられるのです」
「ここまで真面目に返されるとは思わなかったな」
ふぅと息を吐く様子からはわずかに疲れがみてとれた。
「クロムといい、貴殿といい、曇天街で育っていながらどうしてこうも真っ当なんだ?」
「曇天街は強さこそ全て。実にシンプルだ。強者にとって曇天街は真っ当に生きられる環境。それだけのことですよ」
「……貴殿もクロムと同じくらい強いのか?」
「単純な戦闘力ならクロムには及びませんが、勝負になったら負けません」
にっこり笑えば、王太子は背もたれに背を預け、クックッと噛み殺した笑いをあげた。
「なかなか楽しい時間だった。いいだろう、その礼にコスモ王国への道を開いてやる」
「ありがとうございます」
※
(これはすごいな!)
床に、巨大な円状模様が青く光る不思議な部屋。
その中央には大きくて重厚な茶色い扉が鎮座している。
「この魔法陣はウェザリア王家の血を持つ者だけが扱える。魔法が発動すればあの扉はコスモ王国へ繋がるというわけだ」
普通にいけば2ヶ月はかかる距離を一瞬で……。
これは軍事利用されると厄介な代物だな。
コスモ王家が姫をウェザリア王家と婚姻させようとしたのは、曇天街という驚異を持つウェザリアがこの扉を使っていつ侵攻してくるとも限らなかったから、か。
この扉は友好の証であると同時に、互いを牽制するストッパーだ。
「コスモのどこに繋がっているのですか?」
「国境だ」
「なるほど。では、コスモ側からウェザリアに扉を使った場合は?」
「ふん、ここ王宮だ」
やはりそうか。対等な条件などコスモがつけるわけないからな。
「扉が使われたことはコスモに伝わりますか?」
「ああ、魔法使いなら気づく。王宮にも数名駐在しているはずだ」
せっかくだから、コスモの力を図ってみたい。
今回のウェザリアと同じように王宮に侵入し、姫にたどり着けるか試してみようか。
「で? 何を企んでるんだ?」
王太子が楽しそうに聞いてくる。
「ウェザリアに迷惑はかけないようにしますからご安心を」
「ハハッ、なら何も言うまいが」
王太子は大きな円に手を触れる。
青い光が強くなり、魔法が発動しているのだと素人目にもわかった。
「四天王殿、魔法は発動させた。あとはあの扉をくぐるだけだ」
王太子の言葉にうん、と頷き一歩踏み出したところでふと思い至る。
この王太子はこんなに簡単な性格だろうか、と。
何もかもを面白がるハヤテと似たところがあるのは間違いない。しかし、同時にこの王太子は未来の王。国を背負う覚悟を持っている。
得体の知れない男を簡単に信じたりはしないはずだ。
魔法についての本はこれまでにいくつか読んだし、幼い頃にはクロムに教わったこともあった。
確か、魔法陣に使われている文字は古代文字が多く、その文字は発動させる魔法に直結した意味を持つ。アナグラム的にバラけてはいるが、並び替えれば正当な意味が見えてくるはずなのだ。
では、この魔法陣はどうだろう。
なるほど。
この大陸で古代使われていたという古代文字。並び替えて浮かぶのは、
―――愚者を阻め。踏むものに鉄槌を、手で触れる者にのみ恩恵を与えん―――
やはり、罠だったか。
足で踏むことなく、手で魔法陣に触れてみる。
すると、青き光がまばゆいほどに溢れだし、魔法陣が書き変わった。
また並び替えてみると、
―――賢者に道を。友なる国への道を開かん―――
今度こそたどり着けそうだ。
「ハハッ、ハヤテすら知らぬ仕組みをよくぞ見破ったものだ。聖パールを目指すだけのことはある」
王太子がお手上げとばかりにおちゃらけたポーズをする。
俺はそれに笑んで返すと、まっすぐ扉に向かい、手をかけた。
「聖パールはただの通過点です。いつか必ず曇天街を救ってみせます」
王太子にウインクしつつ言い放ち、今、一歩を踏み出す――。
そういえば、ウインクはキラにドン引かれたことがあったな。
と、どうでもいいことを思い出しながら。
懐かしいなぁ。




