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人生は人との出会いの連続です……。

―――――とか、


―――――――なんてことも……。


「へぇ、すごいな。曇天街の情報もクラウドのことも、いくら凄腕の情報屋に頼んだって手に入らないっていうのに」


「アハハ、お役に立てたならなにより。でも、俺は逆に曇天街の外のことをなにも知らない……。困っちゃいますよ」


「フハハッ。いいよ。ウェザリアにいる間は俺がシロサギくんの盾になってあげよう。必要な情報も教えてあげる」


「いいんですか?」

「もちろんだとも」


利で動く相手は扱いやすくていい。

少しずつ下手に出て、いい気にさせたのも功を奏したな。


「ありがとうございます」


にっこり笑えば、ボスも妖艶な笑みを返してくれた。





早速ボスの計らいで宿屋に泊めてもらった。

ここはボスがオーナーらしいから、今の俺にとっては一番安全な場所だな。


開いた門から出たおかげで、曇天街を縛っている魔法に追われることはないけれど、それでも俺は逃亡者だ。


「ボスのお客人なんていうからびっくりしたわぁ。丁重にもてなさなきゃあね」


宿屋のおばさんは曇天街では出会ったことないタイプの――平和な世界で生きてきたんだと感じさせる人だった。


弱くても幸せに生きることができた人。


「はい、どうぞ」


出された料理は、魚を中心としたウェザリアでは定番の料理らしい。


ひとくち食べると、初めての味に驚いた。


聞けば、この料理はアクアパッツァというもので、トマトをベースにあらゆる魚介が入っている。


トマトも魚介も初めて食べた。

曇天街ではどちらも手に入らない食材だ。


ここでもまた、曇天街との違いを思い知った。


これだけの具材を使った料理が定番なんだもんな。


「そんなに美味しそうに食べてもらえると嬉しいもんねぇ」


宿屋のおばさんはニコニコと愛想のいい笑みを浮かべている。


「すいません、この料理のレシピを教えていただくことはできますか?」


「え? それは構わないけどぉ、レシピもなにもうちのが特別美味しいわけじゃないと思うんだけどねぇ。アクアパッツァなら通りに専門店もあるからそっちでレシピ教えてもらった方がいいかもしれないわよぉ?」


そうか。この街の人にとっては当たり前の料理過ぎて、レシピを聞かれることが不思議でしょうがないのか。


「いえ、俺がここのを気に入ったんです。教えてもらえませんか?」


「まあ、そりゃあ嬉しいねぇ。レシピは書いてあげるさね」


「ありがとうございます」


裏もなさそうなこの愛想のいいおばさんは、いったいあのボスとどういう繋がりなのだろう。


「ボスとは親しいんですか?」


「ああ。親しいというか、大恩人なのさぁ。借金抱えちまってもう人生終わりだって思ってるときにね、借金清算してくれて、この宿屋まで任せてくれたんだよぉ」


「へぇ、それはすごいな」


外界はお金で天下がとれるほど、お金が力を持つのだとハヤテが教えてくれた。


だから、借金というのが重いものであることもわかるし、ボスが信頼を得ていることの理由も理解できた。


だから、ボスは一部の人間にはだいぶ慕われているらしい。


部下は恐怖で統治してるっぽかったのに、食えない人だな。


「本当に一泊でいいのかい? 大恩人のお客様なんだ、何日でもサービスするよぉ」


「お気持ちは嬉しいですが、お構い無く。明日には国を出ていくつもりですから」


「そうなのかい? いやぁ、お客さん、国境までは1日じゃたどり着かないわよぉ?」


「ハハハ、大丈夫ですから。ごちそうさまでした」


怪訝そうに首をかしげるおばさんに手を振って、部屋に戻る。


ハヤテは1日で国を出られるような口ぶりだったんだけどな。

……なにか、ありそうだ。



バタン


空気までもがきれいな部屋。どこにも穴の空いてないベッド。


ルージュをコンセントに挿して、充電する。

今日1日、目立たないよう上空を飛んでもらっていたが、サイレントモードのお陰で誰にも気づかれなかったようだし、これなら問題なく旅のお供にできそうだ。





「……」


朝起きて、いつもと違う天井にフワッと浮いた気分になった。

ソワソワする、とでもいうんだろうか。


「いよいよか」


高揚か、緊張か、いつもより体がこわばっている気がして思わず眉をひそめる。


曇天街よりずっと快適な環境だったというのに、不慣れというのは恐ろしいものだ。




朝食はエビのビスクと焼きたてのパンだった。


乾パンは食べたことがあるけれど、こんなにふわふわのパンは初めて食べた。


ビスクもとても味が濃くて、美味しかった。

曇天街には満足な調味料もないから、味が濃いというだけで感動してしまう。


「はい、昨日言ってたアクアパッツァのレシピですよぉ。専門店や高級店のとは違って、手間を省いた作りやすいレシピだと思うからぜひ作ってみてくださいねぇ」


細かい注意書まで書かれたレシピから優しさが伝わってきた。

レシピ自体は確かに簡単なもので、材料さえ揃えば俺でも作れそうだ。


「ありがとうございます」

「誰かつくってあげたい人でもいるのかしらぁ」

「ふふ、まあそうですね」


輝く桃色の瞳を思い浮かべて、自然と笑みがこぼれる。


「それじゃあ、お世話になりました」

「またいつでもおいでくださいねぇ」


カランカラン


宿を出ると、眩しさに顔をしかめてしまった。


ギャハハハハハ

へいらっしゃい、らっしゃーい!


ブーーーン



相変わらずの喧騒だな。


そして、あれが王宮か。

視線の先、丘の上にそびえる大きな城。


絵本の中でしか見たことがなかったそれの巨大さにため息が出た。


「あら、シロサギじゃないの?」

「けけっ、マジかよ」


この声は……。


後ろを振り向くと、クラウドの2人。

しかも珍しい組み合わせだな。


「ボナとケンか。こんなところで何してるんだ?」


「ただの買い物よ」

「こいつが荷物持ちしろってうるさくてな」


確かに、ケンはいくつもの紙袋を抱えている。


ボナはクラウドのお姉さん的存在。

ケンでも逆らえないわけか。


「曇天街出たとは聞いたけど、どう? 外界は」


「賑やかだな」


「そうね。始めはビックリするわよね」

「けけっ、俺は曇天街の静かさが恋しいけどな」


その気持ちはよくわかる。


「シロサギ、暇なら買い物一緒にどう?」

「はぁこいつとかよ。けけっ、俺はごめんだぜ」

「いいじゃない。滅多にないことだし」


ボナのことだ。純粋に俺を買い物に誘ってくれてるんだろう。

よくも悪くも柔軟な思考で、昨日の敵を今日の友に、昨日の友を今日の敵に捉えるのが容易な性格なのだ。


「いや、遠慮しておくよ。今日はやることがあるからな」


「やること? なぁに?」


「いや、クラウドには黙っておくよ」


「けけっ、なんだそれ」


王宮に忍び込むなんて、今や王国の戦力と数えられるクラウドに言えるわけがない。


「あら、いけないことでもするつもりなのかしら」


ボナの眼が鋭く光る。


「頼むから、詮索しないでくれ」


なんの感情も読ませない笑顔で言えば、ボナは軽くため息をついた。


「仕方ないわね、いくわよ、ケン」

「けけっ、ほどほどにしろよ。俺たちと敵対したくなけりゃあな」


薄々バレている、か。

だが、できれば、敵対したくないものだ。


ケンやボナが外にいるとすると、今王宮にいるクラウドは誰なんだろうな。





塀の上から、あるいは木の上から、城の周りを探る。

大体の窓は閉められているな。


(ん? ここは開いているみたいだ)


ひとエリアだけ窓に鍵がかかっていなかった。

罠かもしれないけど、穏便に済ますにはここから入るのが一番いいだろう。


シュタッ


木を経由して窓から廊下に降りる。


赤い絨毯に所々金の装飾。

すごい豪奢な廊下だな、さすが王宮といったところか。


人の気配は、っと……な!?


ジーーッ


黒いローブを着た少女が座ったまままっすぐこちらを見つめていた。


この視線に気づかなかったとは、不覚だ。


(ん? あれ、この娘は……)


クラウドも普通に買い物とかするんです!

……いや、ボナだけかも?

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