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ルイは本が大好きです…
私はいつも2階のソファで寝ている。
というか、家にいるときは基本ソファにいる。
ボロボロでところどころ破けてはいるが、ふかふかで居心地がいい。ルイはこまめに掃除もするタイプなので、ホコリもなく快適だ。
ルイいわく、
「衛生的に保つことで病気になるのを防げるんだよ」
ということらしい。
考えたこともなかったが、ルイが言うならそうなんだろう。
そして、ルイはいつも3階にいる。
私は入ったことがない。
つまり、私は2階、ルイは3階と部屋が分かれているようなものだ。
帰って来て、夜ご飯を作り終えたら、ルイはいそいそと3階へ上がっていった。
今夜は蒸かしたサツマイモ?と具なしのコンソメスープだ。
私のために作ってくれたのか、ルイ自身は食べずに行ってしまった。
(…)
スープは温まるし、イモは甘くて美味しい。
だけど、どこか物足りなかった。
(…独りだか、ら?)
まさか、そんなことあるわけがない。
一瞬よぎった可能性をあっという間に打ち消して、私は食事を続けた。
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くま商店で手に入れた本を読みたくて、俺は早々に3階に戻った。3階は書斎になっている。
俺の身長くらいの高さの本棚が2つ、壁際に横並びで鎮座している。重要度が高い、何度も読み返しそうな本をこの本棚にいれている。ただ、立て付けが悪いので本を慎重に取り出さねばならないのが難点だ。
本を読んでそのまま寝てしまうことが多いため、布団一枚と毛布を本棚から離れた隅っこに完備してある。
本棚から離しているのは当然、寝ているときに本棚が倒れても大丈夫なようにだ。
本棚に入らない本は床に平積みになっている。
ジャンル問わずありとあらゆる本を手に入れてきたので、すでに床は見えないほど本で埋め尽くされていた。
お世辞にもきれいとは言えない惨状だが、それでも俺は本に囲まれたこの空間が好きだ。
書斎に入って真っ先に読んだのは、今日手に入れた本の中にあった『世界の歴史書』だ。
物語とかももちろん好きだが、知識を蓄えるという意味ではやはり歴史書の方が興味をそそる。
だから、くま商店で出会ったときからすぐに読みたくて仕方無かった。
これから何度も読むことになるのだろうが、とりあえず読破しようと猛スピードで読み終える。
そして、本棚にしまおうとして…
ガシャーン、バサバサバサ
(やっちゃった…)
本の内容について考えていて手元が疎かになったらしい。
本棚を倒してしまった。
(はぁ)
倒れた本棚と散らばった中身に辟易とする。
(片付けるの面倒くさいからあとでいいか)
俺は片付けを放棄し、また本の世界へのめり込んでいった。
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食べ終えて、シャワーから出てくると、3階からものすごい音がした。
(…なにか、あった?)
眼を閉じ、上に意識を向けるが、なんの気配もしない。
少し心配になる。
(3階はルイの部屋だから、私が訪ねていいものか、)
悩んだが、もしもということもある。
3階に突撃することにした。
外階段を上って、3階の扉をそっと開ける。
中を伺うと、棚が倒れ大量の本が散乱していた。
そして…
「…ルイ、、なにしてるの」
私は冷ややかな声で問うた。
「あれ、キラどしたの?」
心底、意外そうに尋ねられる。
(はア?ふざけるなヨ)
「どうしたジャない!すごい音した!心配した、のに」
私は語気強めに、まくし立てるように文句を言った。
怒りたくなるのも無理はないだろう。
だって、散乱してる本の中で普通に座って本を読んでいるのだ。
ルイは目を丸くしている。
「…心配、してくれたの?」
(はっ!)
そうだ。私は何を言ってるんだろう。
ルイは強者だ。私が心配する意味なんてない。
そもそも曇天街で人を心配するなんて、おかしい…
、、、
、、、、
だけど、私は確かに心配した。
それを無かったことにはしたくない…ような?
うん、私は私の想いをルイにわかってほしい。
「…心配した、ヨ。ルイを心配する必要ないってワカッテるけど、、、、理屈じゃ、ないの…」
ルイを真っ正面から見据えて、泣きそうな声でそう告げた。
その声を聞いて、自分でもびっくりする。
ルイは目を皿にして、言葉を飲み込んだ。
本を閉じ、こちらに歩いてくる。
そして、私は思いっきり抱きしめられた。
(んっ!)
「…ル、イ」
腕の力が強くなる。
苦しいのに安心できるような。
「キラ、ありがとう。嬉しい」
抱き締められたまま、頭をポンポンされる。
たまらず私は泣いてしまった。
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まさか、キラが心配してくれるとは思わなかった。
キラが俺に懐いてくれていたのは知っている。
それでもここは曇天街で、俺は白鷺類で、、誰かを守ることはあっても、守られることなんてもう無いと思っていた。
心配、というのはつまり守りたいという意識の表れだろう。
泣いているキラを抱き締めながら、その喜びに自分まで泣きそうになった。
キラはおそらく誰よりも空気に敏感な子だ。
敵意とか殺気とかそういったものを人より感じやすいのだと思う。
だから、初めて会ったとき、ゴロツキどもの放つ殺気にあてられて調子が悪くなっていたし、逆に、俺のことを怖がらなかったのは俺に敵意がないことがわかっていたからだ。
その性質に興味が湧いて、なんとなくキラを助け、手元に置くことに決めた。
ただの興味本意だったのだ。
それなのに…。
(いや、そうか、だから…)
キラは俺自身ですら気付いていなかった俺の感情に、敏感であるがゆえに無意識に気付いてしまったのかもしれない。
俺はずっと孤独を感じていたのか…?
寂しかったのか…?
興味本意なんて嘘っぱちで、ただ誰かと一緒に居たかっただけなのか、、?
確かにキラと過ごす時間を楽しいと感じ、一緒にいると心地よかった。
(そうか、そうだったのか…)
思い至ると、今抱き締めている少女が愛しくてたまらなくなった。
俺を守りたいと思い、俺のために涙してくれる少女。
ならば俺も、俺の全てをかけてキラを守ろう。
そう誓った。
ルイとキラ、二人の想いは重なって。




