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曇天街編、本編最終話です。
「へぇ、九条と通信できるのか」
「ああ、俺様のクルリンと常に繋がるように設計してある」
「ありがとう」
「ククッ、俺様の情報収集のためだ」
「そうだったな」
ピンクのメカは黄色のと並んで仲が良さそうだ。
「九条のメカはクルリンって名前なんだよね?」
「ああ、ルイも好きにつけたらいい」
「なら、ルージュにする」
「ククッ、いいんじゃねぇか」
ピンクと言えば、キラを思い浮かべる。
いつもピンクのワンピースだし、瞳も同じくピンクだから。
でも、だからってメカにキラと名付けるのは気持ち悪いだろう?
だから、キラが強い意思を宿したとき、瞳が燃えるような赤に見えることから、ルージュとした。
「ククッ、そいつに自分の名前がルージュだと認識させた。ルージュと呼べば反応するし、簡単な命令なら聞く」
「へぇ、そんなことまでできるのか」
「ククッ、こいつらはただのメカじゃねぇ。天才俺様が作ったプログラムによってまるで生き物かのように動く。学習装置もくっつけてあるからどんどん賢くなるぜぇ」
「すごいな、さすが九条だ」
クルンクルン、グルングルン
クルリンもルージュも今までにないほど勢いよく回転した。
作り手である九条を褒められて嬉しいみたいだ。
「ククッ、ルージュは壊さないでくれよ」
「わかってるよ」
九条のやつ、前にクルリンを壊したこと、まだ根に持ってやがるな。
「大切にする」
「ああ」
※
キラと二人、門まで歩く。
となりにはルージュも飛んでいる。
サム、ハヤテ、九条―――別れは済んだ。
あとはキラだけだが、キラは門まで見送ると言って聞かなかった。
折角俺だとわからないように黒いローブをつけているのに、キラがとなりにいたんじゃ俺だってもろ分かりだよな。
でも、気持ちは嬉しいし、このローブも意味を持つのは王宮でだけでいいことにする。
「ルイ!」
「うわっ! ソフィ姉さん!」
俺でも反応できない速度で、目の前に現れた。
さすが瞬身の術。
「旅立ちのときね。しっかりやりなさい」
「うん、ありがとう」
頭を撫でられるとくすぐったい。
「で? ルイは外界でもスカート履いたままにするつもり?」
「うん、これならソフィ姉さんのこといつでも思い出せるし、なによりこれが俺にとっての勝負服だから」
「まったく、学園で変な目で見られても知らないわよ?」
「ハハハ」
昔、ソフィ姉さんは面白がって俺にスカートを履かせることがあった。なんでも、サムがソフィ姉さんのために用意したスカートだったらしいのだけど、自分の格好を変えたくなかった姉さんはそれを俺に履かせて遊んでた。
そして、四天王となるために裏切りを演じてから、心までは裏切ってないと示すため、俺はずっとそのスカートを履き続けた。
このスカートはサムやソフィ姉さんへの信頼の証。
「ルイ、元気でね。ルイが元気でいてさえくれれば私は満足よ」
「ふふ、サムにも同じようなこと言われたよ」
「あら! 私たちにとってルイは家族みたいなものだもの。大好きよ、ルイ」
「うん、俺も大好きだよ、ソフィ姉さん」
ギュッと抱き締められた。
ああ、懐かしい。
「キラちゃんやハヤテ君のことは任せなさい。必ず守り抜いてみせるわ」
「ありがとう」
ソフィ姉さんは普通に門に向かって歩き出す。
どうやらソフィ姉さんも門まで見送りしてくれるらしい。
ソフィ姉さんのことだから、こっちが会いに行かなくても向こうから会いに来てくれるだろうとは思っていた。
俺が雷帝と敵対してる風を装ってるなかでも、愛情を隠そうとしなかったからな、姉さんは。
理屈で言えば姉さんの考えは甘いけど、その甘さに俺は救われてきた。
「あ、こんちわ」
「アランくん!」
思わぬ人から声をかけられたな。
ハヤテの友人で、外れのまとめ役も完璧にこなしているとか。
「シロサギさん、ちょっと」
「うん?」
アランくんに手招きされるがまま、耳を差し出すとこそっと耳打ちをしてくれた。
「それは……」
「ま、一応挨拶行ってみてください」
「わかった」
アランくんがいるなら外れの治安も心配いらなそうだ。
「相変わらずデカい門ねぇ」
ソフィ姉さんの発言はまさしくだった。
目の前にそびえる門は大型車が2台すれ違えるほどの幅を有し、高さは柵を越えて、見上げると首が痛くなるほどだ。
今回はクラウドが曇天街に入るために門が開くため、そこに便乗させてもらえることになった。
「クラウドの者だな。話は聞いている」
門番が俺の黒いローブを見て、そう言った。
ギ、ギィーー
巨大な門が開かれていく。
(いよいよだ)
唾を飲み込む。
カツカツカツ
(なっ!)
「ふん、柄にもなく緊張しているらしいな」
相変わらず革靴の音を響かせて、門の向こうから現れたのはクロムだった。クラウドの誰かが入ってくることはわかってたが、まさかボス自らとは思わなかった。
「まあせいぜい楽しんでこい」
「ああ」
カツカツカツ
いつもと変わらないクロムに、心が落ち着くのを感じた。
ありがたい話だが、相手がクロムだったということだけが不満だ。
「ルイはいまだにクロムのこと嫌いなのね」
「まあな」
ソフィ姉さんにあきれたように言われたけれど、こればっかりは仕方ないだろう。同族嫌悪だ。
「じゃあ、せいぜい頑張りなさい」
「うん」
ソフィ姉さんの笑顔に俺も笑顔で答える。
「……ルイ、」
ポツリと呼び掛けたのはキラだった。
ずっと無言だったキラがこちらをじっと見つめていた。
俺は、なにも言わずにキラを見つめ返す。
「いってらっしゃい」
ただ一言だ。
でも、全部伝わってきた。
ありがとう、キラ。
キラと出会えたから、俺の世界は広がった。
キラと出会えたから、俺も違う生き方を模索しようと思えた。
キラと出会えて、本当によかった。
だけど、それを言葉で伝えるのは無粋な気がする。
だから、俺も一言にすべてを込めて。
「いってきます」
今、新たなる道への一歩を踏み出す。
いってらっしゃい。




