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ついに魔物とあいまみえる!

近づいてくる巨大な気配は海に大きな影となって現れた。

そして、


ブシャーーー!


水が勢いよく噴き上がると共に、


ブオオォォォ! ブオオォォォ!


深く響く雄叫び。

どこまでも偉大な存在になにも言えなくなる。


ブシャーーー!


こちらに顔を向け、もう一度水を噴き上げたそれはただこちらをじーっと見つめているようだった。


「チッ」


ビリビリビリ


チリチリという肌の感覚と音にバッと目を向ければ、サムが雷で奴を攻撃しようとしているところだった。


「サム!」


あんな巨大なものに、しかも魔物と呼ばれる存在に攻撃するなんて正気か!

ここは一旦様子見すべきだろう。


それに、、


「あれは、敵じゃ、ない」

「ああ゛?」


なんでだかわからないけれど、そんな気がする。


ピヒャア ピヒャアピヒャアピヒャア……


さっきとは違う甲高い鳴き声が残響した。


なにかを語っているかのようだ。

どこか懐かしくて、温かい。


ザップーーーン


最後に大きく飛び上がったそれはそのまま海中へと消えていった。


「……なんだったんだ」


サムがポツリと呟く。


「わからないけど、少なくとも俺らに敵意は無いみたいだったよ」



**********************



ブオオォォォ! ブオオォォォ!


聞いたことのある音だと思った。



―――あれはいつのことだったか。


屋根の上から月を眺めていたときだ。


遠くからこの音が聴こえた。

私はすぐにねえ様に相談した。


「ふーん、中心部の方から聴こえてきたのね?」

「うん」


ソファに座って、足を組んだねえ様は、パーマがかった髪をいじりながら言葉を紡ぐ。


「それはクジラじゃないかしら」

「クジ、ラ?」

「そう、クジラ」


私が首をかしげると、ねえ様は足を組み直して、顎に手をあて、ふっと笑った。


「とにかく大きい魚みたいなものよ。勢いよく潮を噴くのが特徴でね、この国周辺での目撃情報は多いのよ」


魚そのものも、潮を噴くの意味もわからなかったけど、ねえ様がまるで危機感を感じていなかったから、この音は気にしなくていいのだと、そう理解した。


「妹ちゃん、ひとつ覚えておいて。クジラは守り主の遣いといわれているの。絶対に敵対してはいけないわ」


「守り主の、つか、い?」


「魔物、と呼ぶものもいるけれど。とにかく、人の理のなかには存在しないのだから、私たちが敵対する理由がないわ」


「……わかった」



―――まさしく、これがクジラなんだろう。


ねえ様の言葉を思い出して、私はそう確信した。

そして、絶対に敵対してはいけない存在なのだということも。


「あれは、敵じゃ、ない」

「ああ゛?」


呆けているうちに、ルイたちの会話が聞こえてくる。

ルイもクジラと敵対する気はないらしい。よかった。


ピヒャア ピヒャアピヒャアピヒャア……


さっきとは違う甲高い鳴き声が残響した。


この音は聴いたことがない。

でも、まるでなにかを伝えたがっているかのようだ。


私にじゃない。雷帝にじゃない。ルイに。


魔物のことをねえ様は()()()と言った。

クジラは守り主の遣いだと。


ならば、ルイになにかを伝えようとしているのは、クジラではなく守り主ということになる。


なんの守り主なのかは知らない。

でも、人の理の外にいるそれが、敵としてではなくなにか伝えようとしているのなら、それは悪いことではない気がした。


ザップーーーン


最後に大きく飛び上がったクジラはそのまま海中へと消えていく。


「……なんだったんだ」


雷帝がポツリと呟いた。


「わからないけど、少なくとも俺らに敵意は無いみたいだったよ」


ルイは戸惑いながらも、なにかを確信しているかのように言った。それから、ハッとしたようにこちらに顔を向ける。


「キラ、大丈夫だった?」


殺気とか威圧にあてられやすい私を心配しての問いだろう。


「だい、じょう、ぶ」


「うん、よかった」


ルイは私を抱き締めて、頭を撫でてくれた。

驚いて力の入っていた身体がほぐれていくのを感じる。


一歩さがってルイの手をとって尋ねる。


「ルイ、は、なんて言われた、の?」

「え?」


ルイは本当に意味がわかってないみたいだった。


「ルイになにか伝えて、るみたい、だった。なにか、ルイには、わかったか、と思って」


ルイは目を丸くする。


「おい、どういうことだ?」


雷帝が髪をかきあげながら、睨みを効かせた。

身体が震えたのを察して、ルイが手を強く握り返してくれる。


「わからない、けど、キラがそう感じたのならそうだったのかも……」


「はぁ?」


「どこか懐かしい気配がしたんだ」


「懐かしい?」


雷帝が怪訝そうに問いただす。

探り探りな回答はルイには珍しいもので、ルイでもクジラの真意を掴み損ねているのだとわかった。



********************



キラはあの巨大生物が俺になにかを伝えようとしているように見えたらしい。


キラは人よりも気配に敏感で、聴力を筆頭に五感も鋭い。

キラにそう見えたのなら、きっとあれは俺に向かって吠えていたのだ。


懐かしい気配。


だが、俺が捨てられたのはあんよもできない赤ん坊の頃で、拾われて以降はずっとサムやソフィと共にいた。


もし前にあれと遭遇しているのだとしたら、それは拾われる前の赤ん坊の時ということになる。


俺は自分の出生を知らない。

捨てられた経緯も知らない。


魔物はそれを知るための鍵になるのだろうか。


そういえば、あの人は……。


「わからないけど、でも、セイヤさんはなにか知っていたのかも」


「それは!」


俺が将来海に興味を持つことを知っているかのような口ぶりだったというセイヤさん。セイヤさんは魔物を見たことがあったそうだ。


あの巨大生物のことなのか、それともまた別の魔物だったのか。

ともかく、なにかを知っていたのではなかろうか。


(わからないことだらけだな)


ふぅ、とひと息ついて空を見上げる。

そういえば、魔物の気配は雨の気配に似ていたかもしれない。


気のせい、か?


まあなんにせよ、俺はひとつだけ確信したことがある。

またいつか俺は魔物とあいまみえる、と。


星の記録者。

魔物。

守り主。


それは歩みゆく道の先に。

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