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ついにやって来ました、海!

「西ってほんとにこんな荒れ果てていたんだね」

「ああ、噂の信憑性が高まるだろ」


曇天街の西側は荒れ果てていて危険――と噂を流したのは俺たち四天王だ。

そして、それは魔物が棲むという海に住人を近づけないための方便のつもりだったのだけれど、実際にこんな西が荒れ果てているとは。


積み上がった瓦礫。時折地面に亀裂が入り、注意しないと危ない。なにより、犬や猫などの動物が、かなりの獰猛さで溢れていた。正直、犬や猫は本の中でしか見たことがなく、まさか曇天街に存在していたなんて、と驚きが隠せない。


グルルルル、ガゥガゥ

シャー、ニャーオ


「この犬や猫が魔物っていうオチじゃないよね?」

「こんなもんじゃないさ」


今、犬たちが襲ってこないのは間違いなく、サムの雷を恐れているからだ。しかし、サムいわく、昔感じた魔物の圧は、それを相手にすれば自分の雷は無力だろう、と思うほどに凄まじかったらしい。


グルルルル、ガゥガゥ

シャー、ニャーオ


サムと一緒に来て正解だった。

でなければ、この犬たちを殺さなければならなかっただろう。


「そろそろ海が見えてくるはずだ」


サムの言葉の通り、少しずつ臭いが変わってきた。

曇天街の汚い空気の中にあっても香ってくるこれは、、。


「うわぁ! 青い!」


思わず声をあげてしまった。

初めて見るそれは、想像よりもずっと大きく、果てしない。


柵にかこまれた曇天街で生きてきた身としては、何物にも邪魔されない視界というものがそもそも未経験だ。


ザプーン、サー、ザプーン、サー


さっきから感じているこの香りは本で読んだ、潮の香りというやつだな。そして、これが波。水が動くというこの現象がたまらなく面白い。


ザプーン、サー、ザプーン、サー


もっと幻想的な空間なのかと思っていたが、そうじゃない力強さにこそ感銘を受けた。


白い砂浜に、美しく輝く青。

それでいて猛々しく、自然の力の象徴のようだ。


(あれ、そういえば、キラが一言も発してないな)


ちらりとキラをうかがえば、ああなるほど。

目が限界まで見開かれ、心なしか瞳も輝いている。


ステーキを食べるときの表情に似ているかもしれない。


(ふふ、気に入ったみたいだ)


明日曇天街を出ていく前に、キラのこんな顔を見れて、幸せだな。うん、幸せだ。


ザプーン、サー、ザプーン、サー


海に近づき、手で触れようとすると、それはサムに止められた。

魔物を警戒しているらしい。


「今のところなんの気配も感じないし、少しくらい大丈夫じゃないか?」


「ルイは魔物を知らないからそんなことが言えるんだ」


「でも」


「でもじゃない」


ピチャッ


「「え?」」


明らかにおかしな音に目を向けると、、うん、やっぱりか。

キラが海に手を触れていた。さらに、海水を含んだ砂をにぎにぎしたりして楽しんでいる。


「おい、危険だと言っただろ」

「大丈夫、な気が、した」


サムの注意にびくともしないキラは、そのまま今度は靴を脱ぎ始める。


「なっ、おい! ルイとめろ!」

「あはははは、キラは心のままに動くから仕方ないよ」


それに、なぜか俺も大丈夫な気がしてるんだ。

海に来てからずっと感じているからかな。


―――ああ、懐かしい気配だ、と。



*********************



これが海!

すごくキレイ。


水面が太陽の光を浴びてキラキラ輝いている。


ザプーン、サー、ザプーン、サー


そしてこの音。

昔からずっと私には聴こえていたこの音が、まさか海の音だったとは。


これからこの音を聴く度に、この景色が思い出せる。

嬉しい。


海に手を触れれば、冷たくて気持ちいい。


「おい、危険だと言っただろ」

「大丈夫、な気が、した」


手だけじゃなくて足でも海を感じてみたい。


靴を脱いでいると、


「なっ、おい! ルイとめろ!」

「あはははは、キラは心のままに動くから仕方ないよ」


雷帝に注意されたルイが可笑しそうに笑った。

ルイはわりと過保護だからむしろ止められるかと思ったのに。


(うわぁ!)


裸足で海に入っていくと、砂の感触がムニュッとして不思議な感じだ。そして、波をじかに感じられて、今私は海にいるんだ、と誇らしい気持ちにさせられた。


「いいなぁ、俺も入りたい」


ルイの呟きが聴こえた。


だったら入ればいいのに、と視線を向けると、ルイは困ったように笑うだけだった。


「魔物の気配、今日はしないな」

「やっぱり?」

「だが、危険な海なことにかわりはない」


海でチャプチャプしながらも、ルイと雷帝の会話に耳を傾ける。


「うーん、大丈夫な気がするけどな」

「だが、警戒してるからルイは入らないんだろ」

「……いやぁ、、まだその時じゃないのかもって」

「はぁ?」


どういう意味だろう?



***********************



―――遥か深い海底にて。



「あれが?」

「間違いないな」

「――様!」


皆が騒がしい。

なるほど、ついに来たか。


「迎えにいく?」

「早く私たちのもとへ!」


水晶を通せば、彼が見える。


ふむ。

まだその時ではない、ようだ。


「やめろお前たち」


はやる気持ちを抑えきれないと言った様子の面々に、制止をかける。


「彼はまだ目覚めていない。ここに連れてくるには時期尚早だ」


「「えーーー」」


「我ら、この星の記録者。待つことなど容易かろう」


「「でもぉ」」


皆が納得しないのは、問題だな。

このままでは彼に余計なちょっかいを出す者が現れそうだ。


仕方ない。


水晶に力を込め、鯨を呼び寄せる。


来たか。

巨体をなびかせ、のそりとやって来た鯨に皆も意図を察してくれる。


「我らよりかの者へ、挨拶といこうぞ」


「「おーー!!」」


鯨は海面へと上がっていった。



***********************



ピクッ、

なんだこの気配は。


慌ててキラに声をかけようと思ったが、さすがはキラ。

既に海から退避して、こちらに駆けてきていた。


「ル、イ」

「キラ大丈夫?」

「うん」


よかった、本当に大丈夫そうだ。


「サム」

「ああ、間違いない」


魔物の気配だ。


遥か海底よりルイを望むもの、それすなわち、この星の記録者なり。

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