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見つかりそうで見つからない答え。

最後のヒントはルイがもたらす……。

「ロエお姉さまに会いに行くなんて、キラは思いきったことをするね」


その日、帰って来たキラはいつもよりボーッとしていた。

何があったのか問うと、『ねえ様に、会いに行ってた』というのだ。


姉妹の関係が改善されていくことを望んでいたとはいえ、この急展開は予想できなかった。


「それで? 答えは見つけられた?」


キラは心のままに動く。

なにか衝動に刈られるような心の動きがあったから、ロエお姉さまにも会いに行ったのだろう。


キラはゆっくりと言葉を紡いだ。


「……ねえ様のことは、好き、だけ、ど、怖いとも、思ってて。縛られたく、ないけど、家族では、ありたくて……。どうしたらいいの、か、、」


珍しい。自分の感情も想いもきっぱりと示すことの多いキラが、結論を出せなかったなんて。それは要するに、キラにとってロエお姉さまとの関係がとてつもなく深いことの証明でもあるのだけど。


「じゃあちょっと待ってて」


キラを2階のソファに残し、俺は3階の本棚へ向かった。

平積みでなく本棚にいれてあるものは俺にとって何度も読むような大切な本たち。

そのなかでも一番取りやすい位置に置いているお気に入りが一冊。題名は『嫌いだけど好き』という、今のキラにぴったりのものだ。


(懐かしい……)


幾度となく読んでいるとはいえ、その度に懐かしい気持ちにさせられるのがこの本。ここ2年ほどは読むと心臓が握りつぶされる錯覚を覚えたものだが、最近はただ懐かしさに浸れるようになっていた。


もとはソフィ姉さんにもらった本だった。


『恨みを持つというのは一種、関心を寄せているのと同じこと。どうでもいいものに人は恨みなど持たないわ。だからね、嫌いと好きは紙一重なのよ』


ソフィ姉さんはこの本を読んだ俺にそう言った。


いつのことだったか、『ソフィは底知れない存在だ』とサムが話してくれたことがあった。

まだ幼い少女が突然、曇天街に現れて、強者に屈することなく悠然とたたずんでいた―――とは信じられないが事実らしい。


捨てられたのか、自らの意思か、なにも語らず自然と曇天街に馴染んだソフィは底知れない。


ただ、俺はソフィ姉さんの言葉から薄々察したことがあった。


彼女はなにかに恨みを抱いているのだ、と。

しかし同時に、そこに愛着のような好意をも抱いていて、今は静観しているのだ、と。


ともかく、嫌いなものとの向き合いかたとしてはそれが正しいのかもしれない。



***********************



「はい、この本を読んでみるといいよ」


ルイから渡された本はずいぶんと年期の入った小説だった。

本棚にあったのは知っている。ルイがいつもその本に目を向けるときだけ、空気を揺らすから、なんとなく私は触れないようにしていたのだ。


『嫌いだけど好き』


うん、私がねえ様に抱く感情と一緒だ。


「ありがと。読んで、みる」





本の内容はこうだ。


いつもいがみ合っている男同士がいた。

顔を合わせれば喧嘩ばかりで、仲が悪いとは周知の事実。


だが、あるとき、そのうちの1人が殺人罪で警察に捕まってしまう。


喧嘩っ早く、すぐに手が出る人だったから、周りもみんな『ついにやらかしたのか……』と納得していた。


ただ1人、いつも彼と喧嘩をしていた男を除いて。


『あいつはすぐに手が出る奴だけど、いつも誰かのためにしか拳を振るわない奴なんだ。それが、殺人なんて犯すはずがない。警察に捕まるなんて……、誰かにはめられたんじゃないだろうか』


男は、彼の正義感をかざすところが嫌いだった。

まるで、自分を否定されているような気にさせられるから。


でも、だからこそ、誰よりも彼の理解者だった。

彼が自らの思う正義を貫く者だと知っていた。


決して、殺人を善しとはしない人間なのだと。


だから、男は彼がどうして殺人罪に問われているのか徹底的に調べた。


別に彼を救いたかったわけじゃない。

勝ち逃げされてしまうような錯覚を覚えたからだ。


自らの前から彼がいなくなることを許容できなかった。


そして、その思いは実り、彼をはめようとした人物にたどり着く。案の定、彼の正義の鉄槌にやられた人間が仕返しをしたのだった。


結果、彼は無事、無罪放免となる。



その後、二人の関係はというと―――全く改善されなかった。



彼がお礼を言うこともなければ、男が恩を着せることもない。

だって、二人はただ、己のために動き続けただけ。

今回はそれがたまたま、男が彼を救う形になっただけ。


会えば喧嘩し、互いが嫌い。

けれど、きっと誰よりも互いを理解している。


人々は以後、二人のことを―――腐れ縁、と表現した。


好きや嫌いを越えて、もう縁が繋がってしまっているのだと。





(腐れ縁、か……)


この二人の関係は、なんかいいな、と思う。

誰かを理解し、また相手にも理解される関係というのは、憧れるというか、素敵、だと思う。


―――嫌いだけど好き。


本のタイトルみたいに、男が彼を好きという表現は出てこない。

でも、勝ち逃げされてしまう、というのは、彼を認めていることの表れだ。


私もそう、なんだと思う。

ねえ様のすごさは誰よりも理解している。


そして、逆もそう。

ねえ様は私のことをよく理解している。



……ねえ様はこれを縛りではなく縁だと言った。


だからかな、本の中の『腐れ縁』という言葉はとてもしっくり来る。


好きも嫌いも越えたところで繋がってしまっているから、もう仕方ないのだと。

でも、そんな縁も悪くないな、と。



煩わしいことも、苦しいこともあるけれど、それでも繋がってしまっている。逆に言えば、何があっても切れない繋がりだ。


うん、そうだよ、悪くない。


私もねえ様に対して、『嫌いだけど好き』でいいのかもしれない……。


答えが見つかった気がした。

切っても切れない繋がり……縁。

煩わしくても、あったら嬉しい。

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