51
ルイに道を示す先生はやっぱりこの人だよね。
「えっ! 曇天街出ていくの!?」
ゴミ処理騒動から数日がたって、ケンに殴られたダメージもほとんどなくなった頃、俺はハヤテのもとを訪れていた。
「ハヤテのことは雷帝に頼んであるから、大丈夫だよ」
「いや、まあ、それはありがたいけどさ」
ハヤテは急なことに驚くと共に、不満を抱いているようだ。
戦闘能力がない身でこんなところに置いていかれたら、不満に思うのも当然か。
「ちょっとくらい相談してくれても……」
「ふふ」
なんだ、俺が勝手に決めたことが気に入らないのか。
「まずは、何をしたらいいと思う? 先生」
「へ?」
別にハヤテを見捨てるわけじゃない。
むしろ、ハヤテに出会って、外界に出る決心がついたのだから。
俺がハヤテを頼りにしているのだと、気づいてほしいものだ。
「ルイ君はなにがしたいの?」
困ったように笑って、ハヤテが聞く。
「最終目標は曇天街を犠牲なく救うことだよ。でも、そのためには、まずは世界を知らなくちゃいけないと考えてる」
「なるほど……だったらまずはアカデミーで学ぶのがいいんじゃない?」
学ぶための場所で学べることには強い憧れがある。
けど、、。
「曇天街の人間が通えるアカデミーに心当たりは?」
「そんなもの、聖パール学園しかありえない」
前にハヤテが言っていた、どんな身分でも入れる学校か。
「どんな身分でもって本当なの?」
「うん! 奴隷も犯罪者も入れるよ。なぜなら聖パールに入れるほど頭のいい人間は世界の宝だからさ」
「それは……」
「だから、聖パールは学費もとらない。各国からの寄付で成り立っていて、たとえ何者であってもその学園運営に口を出すことはできず、治外法権の地だ」
「すごいな」
「ね! ルイ君にぴったりのアカデミーだろ?」
満面の笑みで言われた。
確かに、夢のようなアカデミーだな。
治外法権ならびくつくこともない。
堂々と学ぶことができる。
だが……。
「聖パール学園に入るのはどれくらい無謀なことなんだ?」
これまでろくに学んだこともない俺が入れるような安い学校じゃないんだろう?
だって、世界一頭のいい学校だってハヤテは言っていたのだから。
「いや、ルイ君なら大丈夫だと思うよ」
「え?」
「幸い、入学試験は3月だ。今はまだ夏の終わり。半年も時間がある。ルイ君ならそれだけあれば十分だろう?」
いや、それはどうなんだ。
曇天街で外界と同じ勉強水準を確保できるわけでもないのに、半年で入れるようなアカデミーなのか?
「まあ、試験は聖パールで行われるから、ひと月くらい前には、ここウェザリアを出発した方がいいと思うけど」
「なあ、そもそも聖パール学園ってどこにあるんだ?」
「ああ、そっか。話してなかったね。聖パールはコスモ王国にある学園島だよ」
コスモ王国って、この大陸で一番の大国で、ウェザリア王家がゴマすってる、あの……。
「うん? 学園島って?」
「コスモ王国にあるとはいえ、あくまで聖パールは治外法権を持つ独立した国みたいなものなんだよ。だから、コスモ王国の島にあって、関係者以外は島自体に立ち入り禁止なんだ」
「ということは、島までたどり着ければ安全だけど、そこに着くまでは敵がうじょうじょいるわけか」
コスモ王国とウェザリア王国は友好国ってことになってるわけだから、ウェザリアが俺を犯罪者として指名手配したら当然、コスモでも追われる身だ。
「それは僕も協力するよ」
「え?」
「僕、コスモの姫君とは仲がいいんだ。なんとか守ってもらえるように手紙で頼んでみる」
へー、さすがは第三王子。
ハヤテはウェザリア王家に疎まれている印象だったけど、そういう意味ではコスモの姫が後ろ盾だったってことかな?
「その手紙を誰に運んでもらうんだ?」
「あーー、まあ曇天街から手紙を出すのは至難の技だよね」
「クラウドにでも頼んでみるか?」
露骨に驚かれた。
別に、クラウドとは敵じゃないんだけどな。
あーでも、クラウドとコスモは引き合わせるべきじゃないか。
戦争になっても困る。
「いや、じゃあどうするんだ?」
「うん、まあ、ルイ君自身に運んでもらうことになるかな、アハハ」
……まあ、予想の範疇ではあったけれど。
「手紙が身分証代わりになるから、捕まりそうになったら提示すればいい」
へー、便利なものだな。
「わかった」
コスモ王国に入れさえすれば、あとはどうにかなる目処がたったな。となると、やはり問題はウェザリアと隣国か。
さすがの俺も軍隊総出で来られたら、逃げ切れる自信ないんだよな。
ま、不可能とは思わないけど。
ふと、ハヤテが何かを考え込んでいるのを察する。
「どうした?」
「いや、まあこう見えても僕、第三王子だからさ。聖パールまでの道のりはなんとか整えてあげたいな、と」
目をしばたく。
ハヤテは第三王子であることを恥ずかしいとまで思っていながら、俺のためにその力を振るおうとしてくれているんだな。
その想いがどれだけの葛藤の上に成り立っていることか。
ハヤテは尊敬に値する、誇れる友だ。
「ありがとう。だが、無茶はしないでくれ」
「大丈夫、無茶することになるのはたぶんルイ君の方だから」
おい。
「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ♪ とにかく、ルイ君は入学試験のための勉強のことだけを考えて。その他のことは僕がなんとかしてみせるから」
「わかった、頼りにしてるよ」
人を信じるというのは覚悟がいることだ。
今までの俺なら、頼りにしてると言いつつ、自分でも道を探っただろう。
けど、この道はハヤテが示してくれた道。
なら、俺は俺のできることに集中してみようか。
「ふふ」
思わず笑いがこぼれた。
「何がおかしいの?」
「いや」
キラと出会って、ハヤテと友になって、自分が変わっていくのがわかる。サムはこれを心の成長と呼んだけれど、どうだろうな。胸に空いた穴が埋まっていくのは心地良いが、最悪を想定しておかないと痛い目を見そうな気がする。
「心のままに生きるのは難しいと思ってな」
「へ?」
うん、まあ、心に従って動くのはキラに任せよう。
俺には俺のゆく道がある。
自由に生きようと考えることすら、それに縛られているのだと、ルイにはわかっているみたい。




