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キラとタケトの会話。
雷帝のアジトには似つかわしくない和やかな空気が流れてます……。
「タケト、はルイのこ、と、嫌い?」
純粋な疑問だった。
「別に、嫌いも好きもねぇよ。特に関わりねぇしな」
そっか。
「じゃあ、雷帝の、こと、は?」
「……まあ、怖いけど、尊敬はしてる」
なるほど。
雷帝のところの人には珍しく、彼に心酔してるってわけじゃないみたいだ。
でも、私も雷帝の強さは尊敬してる、かな。
「お嬢ちゃんは? シロサギのこと好きなのか?」
「うん、好き」
「へぇ、じゃあ、雷帝のことは?」
「……不思議な、人。わりと好き、かな」
ものすごく驚いた顔をされた。
私が雷帝を好きっていうのはやっぱりおかしいのかな。
ムスッとしたのが伝わったらしい。
タケトが苦笑して、続きを促す。
「不思議って?」
「瞳がすごく柔ら、かい。威圧も殺気も怖いのに、瞳は、優しい」
「そうかぁ?」
「私には、そう」
雷帝の瞳にはルイとはまた違う強さと優しさが宿っている。
それがなかったら、たぶん私は雷帝のそばに立っていられない。
あの威圧にやられてしまう。
逆に、あの瞳の優しさを感じていない人たちが、よく雷帝の前で立っていられるなって感心してしまうほどだ。
あ、ずっと聞いてみたかったこと聞こう。
「ステイ、と、仲いい、の?」
急な話の転換にもタケトはなにも言わずに返す。
「親友だな」
「親友って、なに?」
「あ゛あん? 親友ってのはその、友達以上の友達だろ」
友達以上の友達……。
「よく、わから、ない」
「親しい友達、お嬢ちゃんにはいないか」
私の友達はハヤテだけだ。
ハヤテは親友、なのだろうか。
「ま、親友なんざ、一生に1人見つけられるかどうかだろうしな。お嬢ちゃんも気にやむことねぇよ」
一生に1人……。
私も出会えるだろうか。
ザワザワ
(あっ! 空気が変わった!)
パッと顔をあげるとホールにルイと雷帝が入ってきたところだった。
ルイはその喧騒に目もくれず、私のもとへまっすぐ向かってくる。
私はしゃがんだままそれを迎えた。
タケトは立ち上がって、私から一歩距離をとる。
「キラを構ってくれていたのか」
だが、ルイはそんなタケトに逃がさないとばかりに声をかけた。
「チッ、まあな」
軽く舌打ちをしたタケトはルイを恨みがましく眺めつつ、答える。
「ふふっ、ありがとう」
ルイは可笑しそうに笑って、それから、
「キラ、お待たせ」
かがんで私の髪をすいてくれた。
「うん、ルイ、おかえ、り」
私はしゃがんだまま、返す。
疲れているのか、立ち上がる気にはなれなかった。
ルイは困った顔で笑う。
その苦笑を見て、今回の一件でルイを失わなくてよかったと、改めて思った。
「雷帝とは、もう、いい、の?」
「うん、色々話せたよ」
「知って、る」
ルイは私に聞かれているかもとわかった上で雷帝と話していたんだろうが、隠しておきたくはなかった。
ルイはわかってるとでも言いたげに頭をポンポンしてくれる。
雷帝のところの人たちは、優しいルイは見慣れないのか、ざわついた。
だが、それは、ルイの後ろわずかに距離をあけて立っていた雷帝が周囲を一瞥しただけで全て消えた。
(すごい……さすが雷帝)
だが、雷帝を恐れない人間というのも、わずかばかり存在するらしい。
「もう仮面被るのはやめたんすか」
タケトだ。
生暖かい目を雷帝に向け、まるで馬鹿な後輩を諭すような言い振りに驚く。
『怖いけど、尊敬はしてる』とか言っておいて、本当に怖いと思ってるのかと言いたくなるような、そんな大物感を醸している。
雷帝は威圧を緩めることなく、タケトを正面から見据えた。
ピクッ
タケトの体が震えた。
あ、タケト怖がってるわ。
ただの強がりだったわ。
「ははっ、雷帝とはようやく話し合いが実現してね。俺が曇天街を出ていくということで、許しを得られたよ」
「……は!?」
タケトをかばうように説明をしたルイだったが、その内容は誰もが受け入れがたかったらしい。
あからさまに声をあげたのはタケトだが、雷帝の子分たちが驚きに揺れるのを感じる。
シロサギが曇天街を出ていく―――
それは、四天王の一角が崩れ、曇天街が変わりゆくことを示唆していた。
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四天王が曇天街を出ていくというのは、かなりの影響力を持つ。
クラウドが出ていったときも激震が走り、治安が悪くなったものだ。
当然のごとく雷帝の仲間たちが揺れるなかで、しかし、キラが欠片も揺れていないことは俺にとって救いだった。
サムと同じように全てを受け入れてくれる。
違うのは、自分に罪悪感を持っているかだ。
サムは俺に対して罪悪感を持っている。持っていなくても、快く背中を押してくれたかもしれないが、それでも、罪悪感から仕方なくという側面もあるにはあるのではなかろうか。
一方で、キラは俺に対してなんの後ろめたさもない。
だからこそ、心から俺の考えに賛同してくれているのだとわかる。
キラに出会えて、本当によかった。
「キラ、帰ろうか」
「うん……」
キラは立ち上がるのを億劫に感じているようだったが、文句を言わず、のそりと腰をあげた。
(だいぶ、疲れてるな……)
無理もない。
徹夜明けに、あれだけの戦闘を演じたのだから。
本来ならおぶったり、肩を貸したり、キラを助けたいところなのだが、あいにくと俺も満身創痍。実は立っているのもやっとな状態なので勘弁してほしい。
キラはそんなことお見通しなのだろう。
むしろ、俺を支えようか迷っているそぶりさえ見せる。
結局は互いを支えることなどなく、2人で平然として見せるわけだが。
「タケト、バイバイ」
キラが男に声をかける。
ソフィ姉さんと仲むつまじそうだった男。
タケトという名前だったのか。
「おう」
タケトもキラとはフラットに話をしてくれているようだ。
キラが気に入るのなら、悪いやつじゃないんだろう。
ソフィ姉さんにはちゃんと男を見る目が備わっていたようで安心した。
「それじゃあ、曇天街を出ていく日取りが決まったら知らせに来るよ」
サムと呼びたい気持ちをおさえ、かといって雷帝とも呼びたくなくて、名前を省いて伝える。
「ああ、待っている」
同じ気持ちだったのかはわからないが、サムも俺の名前は呼ばなかった。
キラにもいつか親友と呼べる存在ができますように。




